化学 / 電気化学

電気分解の原理

要点整理

電気分解の原理

電池は、酸化還元反応から自発的に電気エネルギーを取り出す装置でした。これに対して電気分解は、逆に外部の直流電源を使って強制的に電流を流すことで、自発的には起こらない酸化還元反応を無理やり起こす操作です。

電気分解では、外部電源の正極につながれた電極を陽極、負極につながれた電極を陰極と呼びます。

  • 陽極:外部電源の正極から電子を引き抜かれる側なので、電極(または水溶液中の物質)が電子を失う酸化反応が起こる
  • 陰極:外部電源の負極から電子を押し込まれる側なので、水溶液中の物質が電子を受け取る還元反応が起こる

注意:電池の「正極・負極」は、還元反応(正極)・酸化反応(負極)という反応の種類で名前が決まっていました。電気分解の「陽極・陰極」も、酸化反応(陽極)・還元反応(陰極)という同じ考え方で名前が決まっています。ただし、電気分解の陽極は外部電源の正極につながれ、陰極は外部電源の負極につながれる、という対応関係になっており、電池の正極・負極とは呼び方も対応関係も違うので、混同しないように注意しましょう(詳しくは「よくある間違い」のページも参照してください)。

電気分解で実際にどんな反応が起こるかは、(1) 電極の材質、(2) 水溶液に溶けているイオンの種類、によって変わります。以下で、陰極・陽極それぞれのルールを整理します。

陰極(還元)で起こる反応

陰極では、水溶液中の陽イオンが還元されます。何が還元されるかは、金属イオンのイオン化傾向で決まります。

  • イオン化傾向が水素 $\ce{H2}$ より小さい金属イオン($\ce{Cu^2+}$、$\ce{Ag+}$ など):金属イオンの方が水よりも還元されやすいため、金属イオンが還元されて金属が析出する。

$\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$

  • イオン化傾向が水素より大きい金属イオン($\ce{Na+}$、$\ce{Ca^2+}$、$\ce{Al^3+}$ など):これらの金属イオンは水よりも還元されにくいため、代わりに水が還元されて水素 $\ce{H2}$ が発生する。

$\ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-}$

このとき、水溶液中に金属イオンはそのまま残り、水酸化物イオン $\ce{OH-}$ が生じるため、陰極付近の水溶液は塩基性になります。

陽極(酸化)で起こる反応

陽極で起こる反応は、まず電極の材質が不活性電極か活性電極かで決まります。

(1) 不活性電極(白金 $\ce{Pt}$、炭素 $\ce{C}$ など)の場合

電極自身は反応せず、水溶液中のイオンが酸化されます。

  • 水溶液中にハロゲン化物イオン($\ce{Cl-}$、$\ce{Br-}$、$\ce{I-}$ など)がある場合:ハロゲン化物イオンの方が水よりも酸化されやすいため、ハロゲン化物イオンが酸化されてハロゲン単体が発生する。

$\ce{2Cl- -> Cl2 + 2e-}$

  • ハロゲン化物イオンがなく、$\ce{SO4^2-}$ や $\ce{NO3-}$ のような、それ以上酸化されにくい陰イオンしかない場合:代わりに水が酸化されて酸素 $\ce{O2}$ が発生する。

$\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$

このとき水素イオン $\ce{H+}$ が生じるため、陽極付近の水溶液は酸性になります。

(2) 活性電極(銅 $\ce{Cu}$、銀 $\ce{Ag}$ など)の場合

水溶液中のイオンよりも先に、電極自身の金属が酸化されて溶け出します。

$\ce{Cu -> Cu^2+ + 2e-}$

この性質は、不純物を含む粗銅から純度の高い銅を得る銅の電解精錬などに利用されています。

具体例で確認する

水溶液 電極 陰極の反応 陽極の反応
$\ce{CuSO4}$ 水溶液 白金(Pt) $\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$ $\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$
$\ce{CuSO4}$ 水溶液 銅(Cu) $\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$ $\ce{Cu -> Cu^2+ + 2e-}$
$\ce{NaCl}$ 水溶液 白金(Pt) $\ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-}$ $\ce{2Cl- -> Cl2 + 2e-}$
希硫酸 白金(Pt) $\ce{2H+ + 2e- -> H2}$ $\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$

$\ce{CuSO4}$ 水溶液を白金電極で電気分解する場合と、銅電極で電気分解する場合とでは、陰極の反応(銅の析出)は同じですが、陽極の反応が全く異なる点に注目しましょう。銅電極では、水溶液中のイオンではなく、電極自身が溶け出します。

例題

例題1(基本)

問題

硝酸銀 $\ce{AgNO3}$ 水溶液を、白金電極を用いて電気分解した。陽極・陰極それぞれで起こる反応をイオン反応式で書き、発生する(析出する)物質名も答えよ。

解答・解説を見る

陰極

$\ce{Ag+}$ はイオン化傾向が水素より小さいため、還元されて銀が析出します。

$\ce{Ag+ + e- -> Ag}$

陽極

白金は不活性電極であり、$\ce{NO3-}$ は $\ce{Cl-}$ のようなハロゲン化物イオンではなく、それ以上酸化されにくいイオンなので、代わりに水が酸化されて酸素が発生します。

$\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$

答え:陰極では銀 $\ce{Ag}$ が析出($\ce{Ag+ + e- -> Ag}$)、陽極では酸素 $\ce{O2}$ が発生($\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$)

例題2(標準)

問題

塩化ナトリウム $\ce{NaCl}$ 水溶液を、白金電極を用いて電気分解した。

(1) 陰極・陽極それぞれで起こる反応をイオン反応式で書け。 (2) 電気分解が進むにつれて、陰極付近の水溶液は酸性・中性・塩基性のどれになっていくか。

解答・解説を見る

(1)

陰極:$\ce{Na+}$ はイオン化傾向が水素よりも大きいため還元されにくく、代わりに水が還元されて水素が発生します。

$\ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-}$

陽極:白金は不活性電極であり、水溶液中に $\ce{Cl-}$(ハロゲン化物イオン)があるため、水よりも $\ce{Cl-}$ が優先的に酸化されて塩素が発生します。

$\ce{2Cl- -> Cl2 + 2e-}$

(2)

陰極の反応で $\ce{OH-}$ が生じるため、陰極付近の水溶液は塩基性になっていきます(なお、$\ce{Na+}$ は水溶液中に残るので、全体としては塩化ナトリウム水溶液から水酸化ナトリウム水溶液へと変化していくことになります)。

答え:(1) 陰極 $\ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-}$、陽極 $\ce{2Cl- -> Cl2 + 2e-}$ (2) 塩基性になっていく

例題3(応用)

問題

硫酸銅(II) $\ce{CuSO4}$ 水溶液を、銅板を電極にして電気分解した。しばらく電気分解を続けたとき、次の(1)~(3)について、変化がある場合はその内容を、変化がない場合は「変化しない」と答えよ。

(1) 陽極(銅板)の質量 (2) 陰極(銅板)の質量 (3) 水溶液中の $\ce{Cu^2+}$ の濃度

解答・解説を見る

銅板を電極に使うと、陽極では白金のような不活性電極とは異なり、電極自身の銅が酸化されて溶け出します。

陽極の反応

$\ce{Cu -> Cu^2+ + 2e-}$

陰極の反応

$\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$

(1) 陽極の質量

銅が溶け出していくので、質量は減少する

(2) 陰極の質量

銅が析出していくので、質量は増加する

(3) 水溶液中の $\ce{Cu^2+}$ の濃度

陽極で $\ce{Cu^2+}$ が生成する速さと、陰極で $\ce{Cu^2+}$ が消費される速さは、流れる電子の物質量を通じて等しくなります。つまり、陽極で溶け出した銅の分だけ、ちょうど陰極に析出するので、水溶液中の $\ce{Cu^2+}$ の物質量は変化しない

答え:(1) 減少する (2) 増加する (3) 変化しない

練習問題

問題

希硫酸を、白金電極を用いて電気分解した。陰極・陽極それぞれで発生する気体は何か。反応式とともに答えよ。

答え

陰極:水素 $\ce{H2}$($\ce{2H+ + 2e- -> H2}$)。陽極:酸素 $\ce{O2}$($\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$)。