化学基礎 / 酸と塩基
酸・塩基の定義(アレニウス・ブレンステッド)
要点整理
アレニウスの定義
酸・塩基について最初に整理された定義は、スウェーデンの化学者アレニウスによるものです。
- 酸:水に溶けて水素イオン $\ce{H+}$ を生じる物質
- 塩基:水に溶けて水酸化物イオン $\ce{OH-}$ を生じる物質
例えば、塩化水素 $\ce{HCl}$ は水に溶けると次のように電離するので酸、水酸化ナトリウム $\ce{NaOH}$ は次のように電離するので塩基です。
$\ce{HCl -> H+ + Cl-}$
$\ce{NaOH -> Na+ + OH-}$
アレニウスの定義はわかりやすい一方で、弱点があります。例えばアンモニア $\ce{NH3}$ の水溶液は塩基性を示しますが、$\ce{NH3}$ 自身の化学式の中には $\ce{OH-}$ が含まれていません。アレニウスの定義だけでは、アンモニアがなぜ塩基性を示すのかをうまく説明できないのです。
ブレンステッド・ローリーの定義
この弱点を解決したのが、ブレンステッドとローリーがそれぞれ独立に提唱した、次の定義です。
- 酸:相手に水素イオン(陽子)$\ce{H+}$ を与える物質
- 塩基:相手から水素イオン(陽子)$\ce{H+}$ を受け取る物質
この定義を使うと、アンモニアが水溶液中で塩基性を示す理由がはっきりわかります。
$\ce{NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-}$
この反応では、$\ce{H2O}$ が $\ce{NH3}$ に $\ce{H+}$ を1個渡しています。$\ce{H+}$ を与えている $\ce{H2O}$ が酸、$\ce{H+}$ を受け取っている $\ce{NH3}$ が塩基です。$\ce{NH3}$ は自分の化学式の中に $\ce{OH-}$ を持っていなくても、水から $\ce{H+}$ を奪い取ることで、結果的に水溶液中の $\ce{OH-}$ を増やし、塩基性を示すのです。
一方、塩化水素の水溶液では、次のように水がはたらきます。
$\ce{HCl + H2O -> H3O+ + Cl-}$
ここでは $\ce{HCl}$ が $\ce{H2O}$ に $\ce{H+}$ を渡しているので、$\ce{HCl}$ が酸、$\ce{H2O}$ が塩基です。
2つの反応を見比べると、同じ $\ce{H2O}$ が、アンモニアとの反応では酸として、塩化水素との反応では塩基としてはたらいていることに気づきます。このように、相手によって酸にも塩基にもなれる性質を両性といいます。
共役酸・共役塩基
ブレンステッド・ローリーの定義では、酸と塩基は $\ce{H+}$ のやり取りによって、対になって考えられます。
$\ce{NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-}$
- $\ce{NH3}$(塩基)が $\ce{H+}$ を受け取ると $\ce{NH4+}$(酸)になる
- $\ce{H2O}$(酸)が $\ce{H+}$ を失うと $\ce{OH-}$(塩基)になる
このように、$\ce{H+}$ の授受によって互いに移り変わる酸と塩基の組を共役酸・共役塩基の関係といいます。この1つの反応式の中に、「$\ce{NH3}$ と $\ce{NH4+}$」「$\ce{H2O}$ と $\ce{OH-}$」という2組の共役の関係が存在しています。
ブレンステッド・ローリーの定義の利点
ブレンステッド・ローリーの定義のもう1つの利点は、水がまったく存在しない反応にも適用できることです。例えば、アンモニアの気体と塩化水素の気体を近づけると、白煙(塩化アンモニウムの微粒子)が生じる反応が起こります。
$\ce{NH3 + HCl -> NH4Cl}$
この反応には水がまったく関わっていないので、「水に溶けて」という条件をもつアレニウスの定義では、そもそも酸・塩基として議論できません。しかし、$\ce{HCl}$ が $\ce{NH3}$ に $\ce{H+}$ を渡していると考えれば、ブレンステッド・ローリーの定義によって、水のない気体どうしの反応も酸・塩基の反応として説明できます。
例題
例題1(基本)
問題
次の(1)、(2)の反応において、$\ce{H2O}$ はブレンステッド・ローリーの定義における酸・塩基のどちらとしてはたらいているか、それぞれ答えよ。
(1) $\ce{H2O + NH3 <=> NH4+ + OH-}$
(2) $\ce{HCl + H2O -> H3O+ + Cl-}$
解答・解説を見る
(1)
この反応では $\ce{H2O}$ が $\ce{NH3}$ に $\ce{H+}$ を渡しています。相手に $\ce{H+}$ を与えているので、$\ce{H2O}$ は酸としてはたらいています。
(2)
この反応では $\ce{H2O}$ が $\ce{HCl}$ から $\ce{H+}$ を受け取り、$\ce{H3O+}$ になっています。相手から $\ce{H+}$ を受け取っているので、$\ce{H2O}$ は塩基としてはたらいています。
同じ $\ce{H2O}$ が、反応の相手によって酸にも塩基にもなることがわかります。これが水の両性です。
答え:(1) 酸 (2) 塩基
例題2(標準)
問題
次の電離平衡について、共役酸・共役塩基の組をすべて答えよ。
$\ce{CH3COOH + H2O <=> CH3COO- + H3O+}$
解答・解説を見る
反応の左辺から右辺への変化に注目します。
- $\ce{CH3COOH}$(酸)は $\ce{H+}$ を1個失って $\ce{CH3COO-}$(塩基)になっている → この2つが共役の関係
- $\ce{H2O}$(塩基)は $\ce{H+}$ を1個受け取って $\ce{H3O+}$(酸)になっている → この2つが共役の関係
答え:$\ce{CH3COOH}$ と $\ce{CH3COO-}$ の組、$\ce{H2O}$ と $\ce{H3O+}$ の組
例題3(応用)
問題
炭酸水素イオン $\ce{HCO3-}$ は、反応する相手によって酸としても塩基としてもはたらくことができる。次の(1)、(2)の反応式について、それぞれ $\ce{HCO3-}$ が酸・塩基のどちらとしてはたらいているか、理由とあわせて答えよ。
(1) $\ce{HCO3- + H2O <=> CO3^2- + H3O+}$
(2) $\ce{HCO3- + H2O <=> H2CO3 + OH-}$
解答・解説を見る
(1)
左辺の $\ce{HCO3-}$ が右辺では $\ce{CO3^2-}$ になっています。$\ce{H}$ が1個減っているので、$\ce{HCO3-}$ は $\ce{H2O}$ に $\ce{H+}$ を渡したことになります。相手に $\ce{H+}$ を与えているので、$\ce{HCO3-}$ は酸としてはたらいています。
(2)
左辺の $\ce{HCO3-}$ が右辺では $\ce{H2CO3}$ になっています。$\ce{H}$ が1個増えているので、$\ce{HCO3-}$ は $\ce{H2O}$ から $\ce{H+}$ を受け取ったことになります。相手から $\ce{H+}$ を受け取っているので、$\ce{HCO3-}$ は塩基としてはたらいています。
このように、$\ce{HCO3-}$ は反応する相手によって酸にも塩基にもなれる、両性の物質であることがわかります。
答え:(1) 酸としてはたらく (2) 塩基としてはたらく($\ce{HCO3-}$ は両性の物質である)
練習問題
問題
次の反応において、$\ce{HSO4-}$ はブレンステッド・ローリーの定義における酸・塩基のどちらとしてはたらいているか答えよ。
$\ce{HSO4- + H2O -> SO4^2- + H3O+}$
答え
$\ce{HSO4-}$ は $\ce{H2O}$ に $\ce{H+}$ を渡しているので、酸としてはたらいている。