無機化学 / 遷移元素

クロム・マンガン

要点整理

クロム酸イオンと二クロム酸イオンの平衡 — ルシャトリエの原理の実例

クロムの化合物の中でも特に重要なのが、黄色のクロム酸イオン$\ce{CrO4^2-}$と、赤橙色の二クロム酸イオン$\ce{Cr2O7^2-}$です。この2つのイオンは、水溶液中で次のような平衡状態にあります。

$\ce{2CrO4^2- + 2H+ <=> Cr2O7^2- + H2O}$

この式をよく見ると、左辺(クロム酸イオン側)にはH+が含まれているのに対して、右辺(二クロム酸イオン側)には(相対的に)含まれていません。化学基礎・化学で学んだルシャトリエの原理を適用すると、次のことが読み取れます。

  • 酸性にする(H+を加える) → 平衡は右へ移動 → 二クロム酸イオン(赤橙色)が増える
  • 塩基性にする(H+を取り除く、OH−を加える) → 平衡は左へ移動 → クロム酸イオン(黄色)が増える

つまり、「酸性で赤橙色、塩基性で黄色」という色の変化は、丸暗記するものではなく、平衡の移動方向から導き出せる結果なのです。

クロム酸塩の沈殿

クロム酸イオンは、いくつかの金属イオンと反応して特徴的な色の沈殿をつくり、検出に利用されます。

反応 沈殿
$\ce{Ba^2+ + CrO4^2- -> BaCrO4 v}$ クロム酸バリウム 黄色
$\ce{Pb^2+ + CrO4^2- -> PbCrO4 v}$ クロム酸鉛(II) 黄色
$\ce{2Ag+ + CrO4^2- -> Ag2CrO4 v}$ クロム酸銀 暗赤色

クロムの酸化数とCr3+の色

クロムの化合物には、+2(Cr2+、不安定で強い還元剤)、+3(Cr3+、最も安定)、+6($\ce{CrO4^2-}$や$\ce{Cr2O7^2-}$、強い酸化剤)といった酸化数があります。特に二クロム酸カリウム$\ce{K2Cr2O7}$は、酸性水溶液中で強い酸化剤としてはたらき、自身は緑色のCr3+に還元されます。

$\ce{Cr2O7^2- + 14H+ + 6e- -> 2Cr^3+ + 7H2O}$

この式からわかるように、Cr原子1個あたりの酸化数は $+6 \to +3$ に下がり(還元)、Cr2O7^2-全体では6個の電子を受け取ります。反応が進むと溶液の色は赤橙色から緑色へ変化するため、これも色の変化で酸化還元の進行を目で確認できる例です。

過マンガン酸カリウムの酸化剤としての性質

マンガンも複数の酸化数(+2, +4, +7など)をとる代表的な遷移元素です。中でも過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$(過マンガン酸イオン$\ce{MnO4-}$は赤紫色)は、酸性水溶液中できわめて強い酸化剤としてはたらきます。

$\ce{MnO4- + 8H+ + 5e- -> Mn^2+ + 4H2O}$

Mnの酸化数は $+7 \to +2$ へと大きく下がり(還元)、MnO4−1molあたり5molの電子を受け取ります。反応が進むと、濃い赤紫色だったMnO4−が、ほぼ無色のMn2+に変わります。

酸化還元滴定への応用 — なぜ指示薬がいらないのか

KMnO4水溶液は、過酸化水素水・シュウ酸・Fe2+水溶液などの濃度を求める酸化還元滴定の酸化剤としてよく使われます。

$\ce{2KMnO4 + 5H2O2 + 3H2SO4 -> 2MnSO4 + 5O2 ^ + K2SO4 + 8H2O}$

$\ce{2KMnO4 + 5H2C2O4 + 3H2SO4 -> 2MnSO4 + 10CO2 ^ + K2SO4 + 8H2O}$

$\ce{MnO4- + 5Fe^2+ + 8H+ -> Mn^2+ + 5Fe^3+ + 4H2O}$

これらの滴定でとても便利なのが、KMnO4は自身が濃い赤紫色をしていて、還元されるとほぼ無色になるという性質です。滴下している間は、加えたMnO4−はすぐに還元剤と反応して無色のMn2+になるため、溶液は無色のままです。しかし、還元剤(H2O2やFe2+など)をすべて使い切った瞬間、それ以上加えたMnO4−は反応する相手がなく、そのまま赤紫色として残ります。そのため、溶液がわずかに赤紫色に色づいた点が滴定の終点となり、別の指示薬を用意する必要がありません。これをKMnO4が自己指示薬としてはたらく、といいます。

滴定の計算では、酸化剤が受け取った電子の物質量と、還元剤が失った電子の物質量が等しいという関係を使います。

$n_{\text{酸化剤}} \times (\text{受け取る電子数}) = n_{\text{還元剤}} \times (\text{失う電子数})$

中性・塩基性条件でのKMnO4の反応

酸性条件ではMn2+まで還元されるKMnO4ですが、中性塩基性条件で反応させると、還元は途中の酸化数+4(黒色褐色の酸化マンガン(IV)MnO2)で止まります。

$\ce{MnO4- + 2H2O + 3e- -> MnO2 v + 4OH-}$

「酸性ではMn2+(+2)まで、中性・塩基性ではMnO2(+4)まで」という条件による還元の程度の違いは、この分野の定期テスト・入試で頻出のポイントです。

酸化マンガン(IV)の利用

MnO2は、過酸化水素水の分解(触媒としてはたらき、自身は変化しない)や、塩素の実験室的製法(濃塩酸を酸化する)にも登場します。

$\ce{2H2O2 ->[MnO2] 2H2O + O2 ^}$

$\ce{MnO2 + 4HCl ->[\Delta] MnCl2 + Cl2 ^ + 2H2O}$

後者の反応では、MnO2中のMnの酸化数が $+4 \to +2$ に下がり(還元)、HCl中のClの酸化数の一部が $-1 \to 0$ に上がっています(酸化、2個のCl−が電子を1個ずつ失ってCl2になる)。

例題

例題1(基本)

問題

クロム酸カリウム水溶液(黄色)に希硫酸を加えていくと、溶液の色はどのように変化するか。反応式とルシャトリエの原理を用いて説明せよ。

解答・解説を見る

希硫酸を加えるとH+が増えるため、平衡 $\ce{2CrO4^2- + 2H+ <=> Cr2O7^2- + H2O}$ はH+が消費される右向きに移動します。その結果、クロム酸イオン(黄色)が減り、二クロム酸イオン(赤橙色)が増えるため、溶液の色は黄色から赤橙色に変化します。

答え:黄色から赤橙色に変化する。H+が増えることで平衡が右(二クロム酸イオン側)へ移動するため。

例題2(標準)

問題

濃度不明の過酸化水素水20.0 mLを希硫酸で酸性にしたのち、0.0200 mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところ、16.0 mL加えたところで溶液がわずかに赤紫色に色づいて終点となった。もとの過酸化水素水のモル濃度を求めよ。

解答・解説を見る

過マンガン酸イオンとH2O2の半反応式は、

$\ce{MnO4- + 8H+ + 5e- -> Mn^2+ + 4H2O}$

$\ce{H2O2 -> O2 + 2H+ + 2e-}$

なので、MnO4−1molは電子5molを受け取り、H2O2 1molは電子2molを失います。滴定に使ったKMnO4の物質量は、

$n(\ce{KMnO4}) = 0.0200\times\frac{16.0}{1000} = 3.20\times 10^{-4}\ \mathrm{mol}$

電子の授受のつりあいより、

$n(\ce{H2O2})\times 2 = n(\ce{KMnO4})\times 5$

$n(\ce{H2O2}) = \frac{5\times 3.20\times 10^{-4}}{2} = 8.00\times 10^{-4}\ \mathrm{mol}$

もとの過酸化水素水の濃度は、

$\frac{8.00\times 10^{-4}}{20.0/1000} = 4.00\times 10^{-2}\ \mathrm{mol/L}$

答え:$4.00\times 10^{-2}\ \mathrm{mol/L}$

例題3(応用)

問題

酸性条件・中性条件のそれぞれでKMnO4を還元剤と反応させたとき、Mnはどのような生成物になるか、酸化数とあわせてそれぞれ答えよ。またこの違いはどのような場面で問題として問われやすいか、簡潔に述べよ。

解答・解説を見る

酸性条件では、$\ce{MnO4- + 8H+ + 5e- -> Mn^2+ + 4H2O}$ の通り、Mnの酸化数は+7から+2まで下がり、ほぼ無色のMn2+になります。

中性(塩基性)条件では、$\ce{MnO4- + 2H2O + 3e- -> MnO2 v + 4OH-}$ の通り、Mnの酸化数は+7から+4までしか下がらず、黒色褐色のMnO2の沈殿を生じます。

答え:酸性条件ではMn2+(+2)、中性条件ではMnO2(+4)。反応式を書かせる問題や、電子の受け渡し数(5個か3個か)が変わることを利用した酸化還元滴定の計算問題で、条件の違いに注意させる形でよく出題される。

練習問題

問題

濃塩酸に酸化マンガン(IV)を加えて加熱すると気体が発生した。この気体は何か。反応式とともに答えよ。

答え

塩素Cl2。 $\ce{MnO2 + 4HCl ->[\Delta] MnCl2 + Cl2 ^ + 2H2O}$