無機化学 / 無機物質の分析

気体の発生と性質のまとめ

要点整理

捕集法の決め方 — 覚える前にまず「判定の手順」を身につける

気体の捕集法は、丸暗記する前に、次の2段階の判定手順を身につけておくと、初めて見る気体でも自分で判断できるようになります。

  1. その気体は水に溶けやすいか? → 溶けにくい(またはほとんど溶けない)なら、密度に関係なく水上置換法
  2. 水によく溶ける場合、その気体は空気より軽いか重いか? → 軽ければ上方置換法、重ければ下方置換法

このユニットで扱う9種類の気体を、この手順にあてはめて分類すると次のようになります。

捕集法 該当する気体 判定理由
水上置換法 $\ce{H2}$、$\ce{O2}$、$\ce{NO}$、$\ce{CO2}$ 水に溶けにくい、または少ししか溶けない
上方置換法 $\ce{NH3}$ 水に非常によく溶け、かつ空気より軽い
下方置換法 $\ce{Cl2}$、$\ce{SO2}$、$\ce{H2S}$、$\ce{NO2}$ 水に溶けやすく、かつ空気より重い

高校化学で空気より軽い気体として登場するのは、実質的にNH3くらいしかありません。そのため「上方置換=NH3だけの特別な捕集法」と覚えてしまってよいでしょう。逆に、水に溶けやすくて空気より重い気体(Cl2、SO2、H2S、NO2)はまとめて下方置換になります。

気体の製法・捕集法・乾燥剤の一覧表

気体 代表的な製法(反応式) 捕集法 色・におい
$\ce{H2}$ $\ce{Zn + H2SO4 -> ZnSO4 + H2 ^}$ 水上置換 無色・無臭
$\ce{O2}$ $\ce{2H2O2 ->[MnO2] 2H2O + O2 ^}$ 水上置換 無色・無臭
$\ce{CO2}$ $\ce{CaCO3 + 2HCl -> CaCl2 + H2O + CO2 ^}$ 水上置換(下方置換も可) 無色・無臭
$\ce{NH3}$ $\ce{2NH4Cl + Ca(OH)2 ->[\Delta] CaCl2 + 2NH3 ^ + 2H2O}$ 上方置換 無色・刺激臭
$\ce{Cl2}$ $\ce{MnO2 + 4HCl ->[\Delta] MnCl2 + Cl2 ^ + 2H2O}$ 下方置換 黄緑色・刺激臭(有毒)
$\ce{SO2}$ $\ce{Na2SO3 + H2SO4 -> Na2SO4 + H2O + SO2 ^}$ 下方置換 無色・刺激臭
$\ce{H2S}$ $\ce{FeS + H2SO4 -> FeSO4 + H2S ^}$ 下方置換 無色・腐卵臭(有毒)
$\ce{NO}$ $\ce{3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 2NO ^ + 4H2O}$(希硝酸) 水上置換 無色(空気に触れるとNO2になり赤褐色)
$\ce{NO2}$ $\ce{Cu + 4HNO3 -> Cu(NO3)2 + 2NO2 ^ + 2H2O}$(濃硝酸) 下方置換 赤褐色・刺激臭(有毒)

NOだけは、水に溶けにくいために水上置換で集められることに注意しましょう。実際にはNOは反応性の高い気体ですが、水とはほとんど反応しないため、この分類では「水に溶けにくい気体」の仲間に入ります。ただし、集めたNOが空気(酸素)に触れると、ただちに赤褐色のNO2に変化してしまう($\ce{2NO + O2 -> 2NO2}$)ので、水上置換で空気を遮断して集める意味がここにもあります。

CO2は水に少し溶ける程度なので、水上置換で集めることも、空気より重いことを利用して下方置換で集めることもできます。教科書によっては下方置換で紹介される場合もありますが、可能であれば水中の水蒸気が混ざらない水上置換の方が、より純粋な気体を得られます。

乾燥剤の選び方 — 気体と乾燥剤が反応しないことが絶対条件

気体を乾燥させる(水蒸気を除く)ときは、乾燥剤そのものが酸性・塩基性・中性のどの性質を持つかを確認し、乾燥させたい気体と反応してしまう乾燥剤は絶対に使えないというルールで選びます。これは、酸性の乾燥剤と塩基性の気体、あるいは塩基性の乾燥剤と酸性の気体を混ぜると、中和反応(酸・塩基反応)が起こってしまうためです。

乾燥剤の性質 代表的な乾燥剤 使えない気体
酸性 濃硫酸、十酸化四リン $\ce{P4O10}$ 塩基性の気体(NH3)
塩基性 ソーダ石灰(CaOとNaOHの混合物) 酸性の気体(CO2、SO2、H2S、Cl2、NO2など)
中性 塩化カルシウム $\ce{CaCl2}$、シリカゲル (下記の例外に注意)

NH3(塩基性の気体)を乾燥させられるのは、実質的にソーダ石灰だけです。濃硫酸や十酸化四リンは酸性なのでNH3を吸収・中和してしまい、さらに一見中性で無難に見える塩化カルシウムも、NH3とは$\ce{CaCl2.8NH3}$という付加化合物をつくって反応してしまうため使えません。この「CaCl2はNH3の乾燥には使えない」という例外は、入試でもよく問われるポイントです。

もう1つの例外はH2S(酸性の気体、還元性が強い)です。濃硫酸は酸性の乾燥剤ですが、同時に強い酸化剤でもあるため、還元性の強いH2Sを酸化してしまい、乾燥剤として使うことができません。H2Sの乾燥には塩化カルシウムのような中性の乾燥剤を用います。

乾燥剤の選び方のまとめ

気体の性質 使える乾燥剤 使えない乾燥剤とその理由
酸性の気体(CO2、SO2、Cl2、NO2など) 濃硫酸、CaCl2、シリカゲル ソーダ石灰(塩基性、中和してしまう)
塩基性の気体(NH3) ソーダ石灰 濃硫酸・P4O10(酸性、中和してしまう)、CaCl2(付加化合物CaCl2・8NH3をつくる)
還元性の強い気体(H2S) CaCl2、シリカゲル 濃硫酸(酸化力でH2Sを酸化してしまう)
中性・その他(H2、O2、NO) 濃硫酸、CaCl2など幅広く使用可

例題

例題1(基本)

問題

次の(1)~(3)の気体は、水上置換・上方置換・下方置換のどの方法で捕集するのが適切か、理由とともに答えよ。

(1) H2 (2) NH3 (3) Cl2

解答・解説を見る

(1) H2は水にほとんど溶けないため、密度に関係なく水上置換で集める。

(2) NH3は水に非常によく溶けるため水上置換は使えず、空気より軽いため上方置換で集める。

(3) Cl2は水に溶けやすく、空気より重いため下方置換で集める。

答え:(1) 水上置換(水に溶けにくいため) (2) 上方置換(水によく溶け、空気より軽いため) (3) 下方置換(水に溶けやすく、空気より重いため)

例題2(標準)

問題

アンモニアを乾燥させるのに適した乾燥剤を1つ答え、濃硫酸と塩化カルシウムがそれぞれアンモニアの乾燥剤として使えない理由を説明せよ。

解答・解説を見る

アンモニアの乾燥に使えるのはソーダ石灰です。

濃硫酸は酸性の乾燥剤であり、塩基性の気体であるアンモニアと中和反応を起こして吸収してしまうため使えません。

塩化カルシウムは中性の乾燥剤ですが、アンモニアと反応して$\ce{CaCl2.8NH3}$という付加化合物をつくってしまうため、乾燥剤としては使えません。

答え:ソーダ石灰。濃硫酸は酸性でNH3(塩基性)と中和してしまう。塩化カルシウムはNH3と付加化合物CaCl2・8NH3をつくって反応してしまう。

例題3(応用)

問題

硫化水素H2Sを乾燥させるのに、濃硫酸を使うことは適切でない。その理由を、濃硫酸の性質とH2Sの性質の両方に触れて説明せよ。

解答・解説を見る

濃硫酸は酸性の乾燥剤であると同時に、強い酸化力を持つ酸化剤でもあります。一方、硫化水素H2Sは還元性の強い気体で、硫黄の酸化数は−2と非常に低く、酸化されやすい性質を持っています。そのため濃硫酸とH2Sを接触させると、単に水蒸気を吸収するだけでなく、濃硫酸がH2Sを酸化してしまう反応が進んでしまい、乾燥剤として機能しません。

答え:濃硫酸は酸化力を持つため、還元性の強いH2Sを酸化してしまい、乾燥剤として使えないから。

練習問題

問題

次の気体のうち、水上置換で捕集するのが適切なものをすべて選べ。

$\ce{O2}$、$\ce{NH3}$、$\ce{NO}$、$\ce{SO2}$

答え

O2、NO。(いずれも水に溶けにくいため。NH3は水によく溶けるため上方置換、SO2は水に溶けやすく空気より重いため下方置換が適切。)