有機化学 / 官能基を持つ脂肪族化合物

アルデヒドとケトン

要点整理

アルコールの酸化と、生成物が変わる理由

前の単元で、アルコールは結合している炭素原子の数によって第一級・第二級・第三級に分けられることを学びました。この分類は、アルコールを酸化剤(硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液など)で酸化したときに、何が生成するかを決める重要なポイントになります。

アルコールの酸化は、ヒドロキシ基のついた炭素原子から、水素原子が奪われる(酸化剤に水素が引き抜かれる)反応と考えることができます。この炭素原子に何個の水素原子が残っているかによって、酸化の進み方が変わってきます。

第一級アルコール → アルデヒド → カルボン酸

第一級アルコール $\ce{R-CH2-OH}$ では、ヒドロキシ基のついた炭素原子に水素原子が2個結合しています。酸化されると、ヒドロキシ基の水素と、炭素上の水素が1個奪われ、炭素と酸素の間に二重結合(カルボニル基)ができてアルデヒド $\ce{R-CHO}$ になります(酸化剤の与える酸素原子を $\mathrm{(O)}$ と表す簡略表記を使うと、次のように書けます)。

$\ce{R-CH2-OH + (O) -> R-CHO + H2O}$

ところが、アルデヒドのカルボニル炭素には、まだ水素原子が1個残っています。この水素原子があるために、アルデヒドはさらに酸化されやすく、酸素原子が1個付加する形でカルボン酸 $\ce{R-COOH}$ まで酸化が進みます。

$\ce{R-CHO + (O) -> R-COOH}$

第二級アルコール → ケトン(それ以上酸化されにくい)

第二級アルコール $\ce{R2CH-OH}$ では、ヒドロキシ基のついた炭素原子に水素原子は1個しか結合していません。酸化されると、その1個の水素とヒドロキシ基の水素が奪われてケトン $\ce{R2C=O}$ になります。

$\ce{R2CH-OH + (O) -> R2C=O + H2O}$

ケトンのカルボニル炭素には、もう水素原子が残っていません(炭化水素基が2つ結合しているだけ)。そのため、ふつうの酸化剤ではこれ以上酸化が進まず、ケトンの段階で酸化が止まります。ケトンをさらに酸化するには、炭素-炭素結合そのものを切るような、はるかに強い条件が必要です。

第三級アルコールは酸化されにくい

第三級アルコール $\ce{R3C-OH}$ では、ヒドロキシ基のついた炭素原子には炭化水素基が3つ結合しており、水素原子は結合していません。酸化剤が引き抜く水素原子(炭素上の水素)がそもそも存在しないため、ふつうの酸化条件では酸化されません

このように、「ヒドロキシ基のついた炭素に残っている水素原子の数」に注目すると、アルコールの種類によって酸化のされ方(段階的に進むか、途中で止まるか、そもそも進まないか)が変わる理由を、暗記に頼らず理解することができます。

アルコールの分類 炭素上の水素原子数 酸化生成物
第一級アルコール 2個 アルデヒド → さらに酸化されカルボン酸
第二級アルコール 1個 ケトン(そこで停止)
第三級アルコール 0個 酸化されにくい

例えば、エタノール $\ce{C2H5OH}$(第一級)を酸化するとアセトアルデヒド $\ce{CH3CHO}$ を経て酢酸 $\ce{CH3COOH}$ になり、2-プロパノール $\ce{(CH3)2CHOH}$(第二級)を酸化するとアセトン $\ce{(CH3)2CO}$ になります。

アルデヒドとケトンの一般式

飽和で鎖式のアルデヒド・ケトンは、どちらも次の一般式で表されます(カルボニル基が末端(アルデヒド)か中間(ケトン)かのちがいがあります)。

$\mathrm{C_nH_{2n}O}$

還元性の検出:銀鏡反応とフェーリング液の還元

アルデヒドのカルボニル炭素には、まだ水素原子が1個残っていることを説明しました。この水素原子があることで、アルデヒドは酸化剤に対して電子(水素)を与えやすい、すなわち**還元性(自分は酸化され、相手を還元する性質)**を持ちます。一方、ケトンのカルボニル炭素には水素原子が残っていないため、還元性を示しません。この違いは、アルデヒドとケトンを見分ける実験の原理になります。

銀鏡反応

アンモニア性硝酸銀水溶液(トレンス試薬、$\ce{[Ag(NH3)2]OH}$ を含む)にアルデヒドを加えて温めると、アルデヒドが酸化されてカルボン酸(のアンモニウム塩)になる一方、銀イオンが還元されて銀 $\ce{Ag}$ が析出し、試験管の内壁に鏡のような銀の膜ができます。

$\ce{CH3CHO + 2[Ag(NH3)2]OH -> CH3COONH4 + 2Ag + 3NH3 + H2O}$

フェーリング液の還元

青色のフェーリング液(銅(II)イオンを含む)にアルデヒドを加えて加熱すると、アルデヒドが酸化される一方、銅(II)イオンが還元されて酸化銅(I)$\ce{Cu2O}$ の赤色沈殿が生じます。

$\ce{CH3CHO + 2Cu(OH)2 -> CH3COOH + Cu2O + 2H2O}$

ケトンはどちらの反応も示しません。したがって、銀鏡反応またはフェーリング液の還元反応が陽性(銀の析出、または赤色沈殿の生成)であれば、その化合物はアルデヒド基を持つと判断できます。

例外:ギ酸の還元性:カルボン酸であるギ酸 $\ce{HCOOH}$ は、構造の中に $\ce{H-COOH}$ という、アルデヒドのカルボニル炭素と同じように水素原子が直接結合した部分を持っています。このため、ギ酸は「カルボン酸」でありながら例外的に還元性を持ち、銀鏡反応やフェーリング液の還元反応を示します。

例題

例題1(基本)

問題

1-プロパノール $\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$ を酸化すると、最終的にどのような化合物になるか。途中の生成物も含めて、構造式で示せ。

解答・解説を見る

1-プロパノールは第一級アルコールです(ヒドロキシ基のついた炭素に他の炭素が1個結合)。第一級アルコールは、まずアルデヒドに酸化され、さらに酸化が進んでカルボン酸になります。

$\ce{CH3-CH2-CH2-OH ->[(O)] CH3-CH2-CHO ->[(O)] CH3-CH2-COOH}$

答え:プロパナール $\ce{CH3-CH2-CHO}$ を経て、プロピオン酸(プロパン酸)$\ce{CH3-CH2-COOH}$ になる。

例題2(標準)

問題

2-ブタノール $\ce{CH3-CH2-CH(OH)-CH3}$ を酸化すると何が生成するか。また、この生成物がさらに酸化されにくい理由を、炭素原子に結合している水素原子の数に注目して説明せよ。

解答・解説を見る

2-ブタノールは、ヒドロキシ基のついた炭素(2番目の炭素)に、エチル基とメチル基という2個の炭素原子が結合しているので、第二級アルコールです。第二級アルコールを酸化すると、ケトンが生成します。

$\ce{CH3-CH2-CH(OH)-CH3 ->[(O)] CH3-CH2-CO-CH3}$

生成物はメチルエチルケトン(ブタノン)$\ce{CH3-CH2-CO-CH3}$ です。

このケトンのカルボニル炭素には、エチル基とメチル基という2つの炭化水素基が結合しているだけで、水素原子が残っていません。酸化剤が引き抜くことのできる水素原子がその炭素上に存在しないため、通常の酸化条件ではこれ以上酸化が進まず、ケトンの段階で反応が止まります。

答え:エチルメチルケトン(ブタノン)$\ce{CH3-CH2-CO-CH3}$ が生成する。カルボニル炭素にはもはや水素原子が結合しておらず、酸化剤が引き抜く水素がないため、これ以上酸化されにくい。

例題3(応用)

問題

分子式 $\ce{C4H8O}$ で表されるカルボニル化合物(アルデヒドまたはケトン)の構造異性体をすべて構造式で書け。また、そのうち銀鏡反応を示すものをすべて選べ。

解答・解説を見る

$\ce{C4H8O}$ は一般式 $\mathrm{C_nH_{2n}O}$($n=4$)にあてはまるので、鎖式で飽和のアルデヒドまたはケトンが考えられます。炭素骨格の組み方(直鎖か枝分かれか)と、カルボニル基の位置(末端か中間か)を順に考えます。

アルデヒド(カルボニル基が末端、$\ce{-CHO}$)

  • 直鎖:ブタナール $\ce{CH3-CH2-CH2-CHO}$
  • 枝分かれ:2-メチルプロパナール $\ce{(CH3)2CH-CHO}$

ケトン(カルボニル基が中間)

4個の炭素で鎖を作り、カルボニル基を中間の炭素に置く組み方は、実質的に1通りしかありません(端から2番目に置いても、逆から数えれば同じ構造になるため)。

  • ブタノン(エチルメチルケトン)$\ce{CH3-CO-CH2-CH3}$

以上、合計3種類の構造異性体があります。このうち、カルボニル炭素に水素原子が残っているのはアルデヒドの2つだけなので、還元性を持ち銀鏡反応を示すのはアルデヒドの2つです。ケトンであるブタノンはカルボニル炭素に水素原子がなく、還元性を示しません。

答え:構造異性体はブタナール $\ce{CH3-CH2-CH2-CHO}$、2-メチルプロパナール $\ce{(CH3)2CH-CHO}$、ブタノン $\ce{CH3-CO-CH2-CH3}$ の3種類。このうち銀鏡反応を示すのはアルデヒドであるブタナールと2-メチルプロパナールの2つ。

練習問題

問題

アセトン $\ce{(CH3)2CO}$ とアセトアルデヒド $\ce{CH3CHO}$ に、それぞれフェーリング液を加えて加熱した。どちらに赤色沈殿が生じるか、理由とあわせて答えよ。

答え

アセトアルデヒドに赤色沈殿(酸化銅(I)$\ce{Cu2O}$)が生じる。アセトアルデヒドはアルデヒド基のカルボニル炭素に水素原子を持ち還元性があるが、アセトンはケトンでありカルボニル炭素に水素原子を持たず還元性を示さないため。