有機化学 / 高分子化合物

ゴム

要点整理

天然ゴムの構造

天然ゴムは、ゴムノキの樹皮を傷つけたときに出てくる乳白色の樹液(ラテックス)から得られる弾性体です。天然ゴムの主成分は、イソプレン($\ce{CH2=C(CH3)-CH=CH2}$、2-メチル-1,3-ブタジエン)という分子が次々と付加重合してできたポリイソプレンです。

イソプレンのような、2つの二重結合をもつ分子(ジエン)が付加重合すると、もとの2つの二重結合のうち1つが新しい単結合になり、もう1つの二重結合が分子の真ん中に残った状態で鎖がつながっていきます(1,4-付加重合)。

$n\ce{CH2=C(CH3)-CH=CH2} \longrightarrow \ce{-(CH2-C(CH3)=CH-CH2)_n-}$

このとき、繰り返し単位の中に残った二重結合が、シス型(二重結合をはさんで同じ側に鎖が伸びる立体配置)になっているのが天然ゴムの特徴です。シス型の配置では、分子鎖が規則正しく密に並びにくく、ふだんは丸まった(コイル状の)形をとっています。ゴムを引き伸ばすと分子鎖がまっすぐに伸び、力を除くと再び丸まった形に戻ろうとします。これが、天然ゴムが大きく伸び縮みできる弾性(ゴム弾性)のもとになっています。

参考:同じイソプレンの重合体でも、二重結合がトランス型(二重結合をはさんで反対側に鎖が伸びる立体配置)になったものは、グッタペルカと呼ばれる、硬くて弾性に乏しい物質になります。同じ構成単位・同じ分子式でも、二重結合の立体配置(シスかトランスか)が違うだけで、ゴムのようにしなやかな物質にも、硬い物質にもなる、という好例です。

加硫

生ゴム(未処理の天然ゴム)は、そのままでは温度による性質の変化が大きく、実用性に乏しいという弱点があります。これを改善するために行われるのが加硫という処理です。

加硫では、生ゴムに少量の硫黄を加えて加熱します。すると、ポリイソプレン鎖の中に残っていた二重結合の部分で、硫黄原子(またはいくつかの硫黄原子がつながった鎖)が、隣り合った分子鎖どうしを橋渡しするように結合します(架橋構造)。

$\text{ポリイソプレン鎖}-\ce{S-S}-\text{ポリイソプレン鎖}$

この硫黄による架橋によって、分子鎖どうしがところどころで結びつけられるため、力を加えて変形させても、鎖全体がバラバラにずれてしまうことがなくなり、力を除いたときに元の形に戻りやすくなります(弾性・強度の向上)。また、温度変化に対しても安定になり、実用的なゴム製品として使えるようになります。

加える硫黄の量によって、できあがるゴムの性質は大きく変わります。

硫黄の添加量 できる物質 性質
少量(数%程度) 弾性ゴム 適度な架橋で、しなやかな弾性を保つ
多量(30〜40%程度) エボナイト 架橋が非常に多く、硬くて弾性を失った物質になる

「加硫すれば弾性が上がる」という理解だけでなく、硫黄の量によって、しなやかなゴムにも、硬いエボナイトにもなるという点を押さえておきましょう。

合成ゴム

石油などを原料として、人工的に合成されるゴムを合成ゴムと呼びます。多くの合成ゴムは、天然ゴムと同じように、ジエン系の単量体を付加重合(または共重合)させてつくられます。

合成ゴムの名称 単量体 備考
ブタジエンゴム(BR) 1,3-ブタジエン $\ce{CH2=CH-CH=CH2}$ 単独重合
スチレンブタジエンゴム(SBR) スチレンと1,3-ブタジエン 共重合、タイヤなどに利用
クロロプレンゴム(CR) クロロプレン $\ce{CH2=CCl-CH=CH2}$ 単独重合、耐油性・耐候性に優れる

これらの合成ゴムも、単量体がジエン構造(2つの二重結合)をもち、重合後に繰り返し単位の中に二重結合が残る点は天然ゴムと共通しています。そのため、天然ゴムと同じように硫黄による加硫を行うことができ、実用的な弾性・強度を得ることができます。

例題

例題1(基本)

問題

天然ゴムの主成分が何という単量体からできているかを答え、その単量体の構造式を書け。また、天然ゴムがゴム弾性(大きく伸び縮みできる性質)をもつ理由を、繰り返し単位中の二重結合の立体配置(シス型)と関連づけて説明せよ。

解答・解説を見る

天然ゴムの主成分は、イソプレン $\ce{CH2=C(CH3)-CH=CH2}$ が付加重合したポリイソプレンである。

重合後の繰り返し単位に残った二重結合がシス型の立体配置をとっているため、分子鎖はまっすぐには並びにくく、ふだんは丸まった(コイル状の)形をとっている。力を加えて引き伸ばすと分子鎖がまっすぐに伸び、力を除くと再び丸まった形に戻ろうとするため、天然ゴムは大きく伸び縮みできる弾性を示す。

答え:単量体はイソプレン $\ce{CH2=C(CH3)-CH=CH2}$。繰り返し単位の二重結合がシス型のため分子鎖が丸まった形をとりやすく、伸び縮みが可能な弾性(ゴム弾性)を示す。

例題2(標準)

問題

生ゴムに硫黄を加えて加熱する加硫という処理を行うと、ゴムの性質はどのように変化するか。加硫のしくみ(架橋構造)にもとづいて説明せよ。

解答・解説を見る

生ゴム(ポリイソプレン)の分子鎖に残っている二重結合の部分に硫黄原子が結合し、隣り合う分子鎖どうしを硫黄原子(架橋)でつなぐ構造ができる。

この架橋構造ができると、力を加えて変形させても分子鎖全体がバラバラにずれることがなくなり、力を除いたときに元の形に戻りやすくなる(弾性・強度が向上する)。また、温度による性質の変化も小さくなり、実用的な材料として使えるようになる。

答え:硫黄による架橋構造ができることで分子鎖どうしが結びつけられ、弾性・強度が向上し、温度による性質変化も小さくなる。

例題3(応用)

問題

少量の硫黄を加えて加硫したゴムは弾性に富むが、硫黄の添加量を30〜40%程度まで大幅に増やすと、エボナイトという硬く弾性のない物質になる。この違いを、架橋の量という観点から説明せよ。

解答・解説を見る

加硫による弾性の向上は、分子鎖どうしを硫黄原子による架橋でところどころ結びつけることで、変形させても元の形に戻りやすくする効果による。少量の硫黄を加えた場合、架橋の数は少なく、分子鎖の大部分はまだ自由に動くことができるため、しなやかな弾性を保つことができる。

一方、硫黄の添加量を大幅に増やすと、架橋の数が非常に多くなり、分子鎖どうしが至るところで固定されてしまう。分子鎖がほとんど動けなくなるため、伸び縮みするという性質(弾性)が失われ、硬くて脆いエボナイトになる。

答え:少量の硫黄では架橋が少なく分子鎖が動けるため弾性を保つが、硫黄を大幅に増やすと架橋が非常に多くなり分子鎖が動けなくなるため、弾性を失った硬い物質(エボナイト)になる。

練習問題

問題

合成ゴムであるブタジエンゴム(BR)の単量体の構造式を書け。また、この単量体が天然ゴムの単量体(イソプレン)と共通してもつ、重合に関わる構造的な特徴を答えよ。

答え

単量体は1,3-ブタジエン $\ce{CH2=CH-CH=CH2}$。イソプレンと同様に、分子内に2つの炭素間二重結合(ジエン構造)をもち、重合後も繰り返し単位の中に二重結合が1つ残る点が共通している。