有機化学 / 炭化水素
有機化合物の分類と特徴
要点整理
有機化合物とは
有機化合物とは、炭素原子 $\ce{C}$ を骨格に持つ化合物の総称です(ただし $\ce{CO2}$、$\ce{CO}$、炭酸塩などの単純な炭素化合物は、性質が無機化合物に近いため例外的に無機化合物として扱われます)。有機化合物を構成する元素は、炭素 $\ce{C}$ と水素 $\ce{H}$ を中心に、酸素 $\ce{O}$、窒素 $\ce{N}$、硫黄 $\ce{S}$、ハロゲンなど、比較的少数の元素に限られています。これは、無機化合物がほぼすべての元素を含みうるのとは対照的です。
有機化合物には、次のような共通した性質が見られます。
- 可燃性:多くは燃えやすく、完全燃焼すると二酸化炭素 $\ce{CO2}$ と水 $\ce{H2O}$ を生じる(炭素と水素を主成分とするため)。
- 非電解質が多い:分子どうしが共有結合でできた分子性物質であり、水に溶けてもイオンに電離しないものが多い(ただしカルボン酸のように弱い電解質になるものもある)。
- 融点・沸点が比較的低い:イオン結合や金属結合でできたイオン結晶・金属に比べ、分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)は弱いため、融点・沸点が低いものが多い。
- 水に溶けにくいものが多い:炭化水素部分は極性が小さいため、極性の大きい水とはなじみにくい。ただし、$\ce{-OH}$ や $\ce{-COOH}$ のような極性の大きい官能基を持つ小さな分子は水に溶けやすい。
これらの性質は、無機化合物の多くがイオン結合でできていて融点が高く、水に溶けると電離してイオンになりやすい(電解質)のと対照的です。有機化合物の性質は、「炭素骨格」と「官能基」という2つの視点から整理すると理解しやすくなります。
炭素骨格による分類
有機化合物は、炭素原子どうしのつながり方(炭素骨格)によって、まず次のように分類されます。
| 分類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 鎖式化合物(脂肪族化合物) | 炭素原子が枝分かれはあっても輪を作らず、鎖状につながる | $\ce{CH3-CH2-CH3}$(プロパン) |
| 環式化合物 | 炭素原子が輪(環)状につながった部分を持つ | ベンゼン $\ce{C6H6}$、シクロヘキサン $\ce{C6H12}$ |
環式化合物は、さらにベンゼン環のような特別に安定な環構造を持つ芳香族化合物と、それ以外の脂環式化合物(シクロアルカンなど)に分けられます。芳香族化合物は別の単元でくわしく学びます。
また、炭素原子間の結合の種類によって、次のようにも分類されます。
- 飽和化合物:炭素原子間の結合がすべて単結合であるもの(例:アルカン)
- 不飽和化合物:炭素原子間に二重結合・三重結合を含むもの(例:アルケン、アルキン)
不飽和結合(二重結合・三重結合)は、単結合に比べて反応性が高く、後の単元で学ぶ「付加反応」を起こしやすいという特徴があります。
官能基による分類
有機化合物のもう1つの分類の軸が官能基です。官能基とは、分子の中で特徴的な反応性を示す原子団のことで、同じ官能基を持つ化合物どうしは、炭素骨格の部分(炭化水素基、$\ce{R-}$ と表すことが多い)が違っても、共通した化学的性質を示します。主な官能基を整理すると、次のようになります。
| 官能基 | 名称 | 一般式の例 | 化合物の分類 |
|---|---|---|---|
| $\ce{-OH}$ | ヒドロキシ基 | $\ce{R-OH}$ | アルコール(鎖式)、フェノール類(芳香環に直結) |
| $\ce{-O-}$ | エーテル結合 | $\ce{R-O-R'}$ | エーテル |
| $\ce{-CHO}$ | アルデヒド基 | $\ce{R-CHO}$ | アルデヒド |
| $\ce{>C=O}$ | ケトン基(カルボニル基) | $\ce{R-CO-R'}$ | ケトン |
| $\ce{-COOH}$ | カルボキシ基 | $\ce{R-COOH}$ | カルボン酸 |
| $\ce{-COO-}$ | エステル結合 | $\ce{R-COO-R'}$ | エステル |
| $\ce{-NH2}$ | アミノ基 | $\ce{R-NH2}$ | アミン |
| $\ce{-NO2}$ | ニトロ基 | $\ce{R-NO2}$ | ニトロ化合物 |
| $\ce{-SO3H}$ | スルホ基 | $\ce{R-SO3H}$ | スルホン酸 |
この単元(炭化水素)では官能基を持たない、炭素と水素だけからなる炭化水素を学び、次の単元からは、これらの官能基を1つずつ導入していきます。「どんな官能基を持つか」がわかれば、その化合物がどんな反応を起こしやすいかを予測できるようになる、というのが有機化学を学ぶうえでの大きな見通しです。
異性体の基礎
分子式が同じでも、原子のつながり方や配置が異なるために、まったく性質の違う物質になることがあります。このような、分子式が同じで別の物質どうしの関係を異性体と呼びます。異性体は大きく2種類に分けられます。
構造異性体は、分子式は同じでも、原子の結びつき方(構造)そのものが異なるものです。さらに次のように細かく分けられます。
- 炭素骨格異性体:炭素骨格の枝分かれ方が異なるもの。例:ブタン $\ce{CH3-CH2-CH2-CH3}$ と2-メチルプロパン $\ce{(CH3)2CH-CH3}$(どちらも分子式 $\ce{C4H10}$)
- 位置異性体:官能基や不飽和結合の位置が異なるもの。例:1-プロパノール $\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$ と2-プロパノール $\ce{(CH3)2CH-OH}$(どちらも分子式 $\ce{C3H8O}$)
- 官能基異性体:官能基の種類そのものが異なるもの。例:エタノール $\ce{C2H5-OH}$(ヒドロキシ基を持つアルコール)とジメチルエーテル $\ce{CH3-O-CH3}$(エーテル結合を持つエーテル)(どちらも分子式 $\ce{C2H6O}$)
立体異性体は、原子の結びつき方(構造式)は同じですが、原子の空間的な配置だけが異なるものです。高校で学ぶ立体異性体には、次の2種類があります。
- 幾何異性体(シス・トランス異性体):二重結合を軸にして、原子団が同じ側にあるか反対側にあるかで区別される異性体。詳しくはアルケンの単元で学びます。
- 鏡像異性体(光学異性体):4つの異なる原子・原子団が結合した炭素原子(不斉炭素原子)があるとき、実物と鏡像が重ね合わせられない関係になる異性体。例えば乳酸 $\ce{CH3-CH(OH)-COOH}$ の中央の炭素原子は、$\ce{CH3}$、$\ce{H}$、$\ce{OH}$、$\ce{COOH}$ という4種類の異なる原子団が結合しており、不斉炭素原子になっています。鏡像異性体どうしは、融点・沸点などほとんどの物理的性質が等しいですが、光学的な性質(偏光を回転させる向き)が異なります。
異性体の考え方は、有機化学のほぼすべての単元で登場する重要な視点です。「分子式が同じだからといって同じ物質とは限らない」ことを、この先の学習でつねに意識しておきましょう。
例題
例題1(基本)
問題
次の(a)〜(e)の物質を、①鎖式化合物、②環式化合物、のいずれかに分類せよ。
(a) $\ce{CH3-CH2-CH2-CH3}$(ブタン) (b) シクロヘキサン $\ce{C6H12}$ (c) ベンゼン $\ce{C6H6}$ (d) $\ce{CH2=CH-CH3}$(プロペン) (e) $\ce{CH3-CH2-OH}$(エタノール)
解答・解説を見る
炭素原子が輪(環)状につながっているかどうかに注目します。
- (a) ブタン:炭素原子4個が枝分かれなく鎖状につながっている → 鎖式化合物
- (b) シクロヘキサン:炭素原子6個が環状につながっている → 環式化合物
- (c) ベンゼン:炭素原子6個がベンゼン環を作っている → 環式化合物
- (d) プロペン:二重結合を含むが、炭素は鎖状につながっている(環はない) → 鎖式化合物
- (e) エタノール:炭素原子2個が鎖状につながっている(環はない) → 鎖式化合物
答え:鎖式化合物は(a)(d)(e)、環式化合物は(b)(c)
「環があるかどうか」は、二重結合の有無(飽和・不飽和)とは別の視点であることに注意しましょう。(d)は不飽和ですが鎖式です。
例題2(標準)
問題
分子式 $\ce{C3H8O}$ で表される化合物には、構造の異なるものが3種類存在する。これらをすべて構造式で書き、それぞれの官能基の種類を答えよ。また、これらの関係は構造異性体・立体異性体のどちらか。
解答・解説を見る
$\ce{C3H8O}$ は炭素数3、酸素数1で、水素の数($8$個)から考えると不飽和結合を持たない飽和の化合物です。酸素原子の入り方には、「$\ce{-OH}$(ヒドロキシ基)として入る」場合と、「$\ce{-O-}$(エーテル結合)として炭素鎖の間に入る」場合の2通りがあります。
- $\ce{-OH}$ が末端の炭素につく:$\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$(1-プロパノール、ヒドロキシ基)
- $\ce{-OH}$ が中央の炭素につく:$\ce{CH3-CH(OH)-CH3}$(2-プロパノール、ヒドロキシ基)
- 酸素がエーテル結合として炭素鎖の間に入る:$\ce{CH3-O-CH2-CH3}$(メチルエチルエーテル、エーテル結合)
1-プロパノールと2-プロパノールは、同じ官能基(ヒドロキシ基)を持ちながら位置が異なるので位置異性体、プロパノール類とエーテルは官能基の種類そのものが異なるので官能基異性体の関係にあります。どちらも構造(原子のつながり方)が異なるので、構造異性体です。
答え:$\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$(ヒドロキシ基)、$\ce{CH3-CH(OH)-CH3}$(ヒドロキシ基)、$\ce{CH3-O-CH2-CH3}$(エーテル結合)の3種類。互いに構造異性体の関係にある。
例題3(応用)
問題
乳酸 $\ce{CH3-CH(OH)-COOH}$ について、不斉炭素原子を指摘せよ。また、なぜその炭素原子が不斉炭素原子であるといえるのか、結合している4つの原子・原子団を挙げて説明せよ。
解答・解説を見る
不斉炭素原子とは、4つの異なる原子・原子団が結合している炭素原子のことです。乳酸の構造式 $\ce{CH3-CH(OH)-COOH}$ の中央の炭素原子(2番目の炭素)に注目すると、この炭素原子には次の4つが結合しています。
- $\ce{CH3-}$(メチル基)
- $\ce{H}$(水素原子)
- $\ce{-OH}$(ヒドロキシ基)
- $\ce{-COOH}$(カルボキシ基)
これら4つはすべて異なる原子・原子団なので、この中央の炭素原子は不斉炭素原子です。不斉炭素原子を持つ分子は、実物とその鏡像を重ね合わせることができない関係(鏡像異性体)になります。乳酸の場合、この性質のために2種類の乳酸(D体・L体、あるいは右旋性・左旋性)が存在し、これらは融点や沸点などの物理的性質はほとんど同じですが、偏光を回転させる向きが逆になるという違いがあります。
答え:中央の炭素原子($\ce{-CH(OH)-}$ の炭素)が不斉炭素原子。$\ce{CH3-}$、$\ce{H}$、$\ce{-OH}$、$\ce{-COOH}$ という4つの異なる原子・原子団が結合しているため。
練習問題
問題
次の物質のうち、官能基異性体の関係にある組を1つ選び、その官能基の種類をそれぞれ答えよ。
$\ce{CH3-CH2-CHO}$(プロパナール)、$\ce{CH3-CO-CH3}$(アセトン)、$\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$(1-プロパノール)
答え
プロパナール($\ce{C3H6O}$、アルデヒド基 $\ce{-CHO}$)とアセトン($\ce{C3H6O}$、ケトン基 $\ce{>C=O}$)は、分子式が同じ $\ce{C3H6O}$ で官能基の種類が異なるので、官能基異性体の関係にある。(1-プロパノールは分子式が $\ce{C3H8O}$ で異なるため、これらとは異性体の関係にない。)