化学 / 熱化学

よくある間違い

間違い1: 発熱反応なのにΔHを正の値にしてしまう

よくある誤答例

「394 kJ発生する」という発熱反応を、$\Delta H=+394\ \mathrm{kJ}$ と書いてしまう。

なぜ間違いなのか

現在の課程で使う $\Delta H$(反応エンタルピー)は、以前の課程で使われていた「反応熱 $Q$」(発熱を正の値で表す量)とは、符号の約束が異なります。$\Delta H$ は「生成系のエンタルピー $-$ 反応系のエンタルピー」で定義されるため、発熱反応(エネルギーを失う反応)ではマイナスの値になります。

正しい考え方

「発熱反応は $\Delta H<0$」「吸熱反応は $\Delta H>0$」という対応を、符号ごとセットで覚えましょう。もし以前の課程の参考書や資料で「反応熱 $Q=394\ \mathrm{kJ}$(正の値で発熱を表す)」のような表記を見かけても、現在の $\Delta H$ の書き方とは符号のルールが逆になっている場合があるので注意が必要です。

間違い2: 熱化学反応式に物質の状態を書き忘れる

よくある誤答例

$\ce{H2 + 1/2 O2 -> H2O}$、$\Delta H=-286\ \mathrm{kJ}$ のように、状態 $(g)$、$(l)$ を書かずに済ませてしまう。

なぜ間違いなのか

同じ物質でも、固体・液体・気体のどの状態にあるかによってエンタルピーの値は異なります。水が液体か気体かで、生成するときに出入りする熱量($\Delta H$ の値)が変わってしまうため、状態を書かないと、その熱化学反応式が正確に何を表しているかがわからなくなります。

正しい考え方

熱化学反応式を書くときは、必ずすべての物質に $(s)$、$(l)$、$(g)$、$(aq)$ のいずれかを付け、どの状態での変化なのかを明確にする習慣をつけましょう。

間違い3: 「1molあたり」という基準量を無視して係数のまま計算してしまう

よくある誤答例

燃焼エンタルピーが $-891\ \mathrm{kJ/mol}$ のメタンを $2.0\ \mathrm{mol}$ 燃焼させたときの熱量を、molの計算をせずにそのまま $891\ \mathrm{kJ}$ と答えてしまう。

なぜ間違いなのか

燃焼エンタルピー・生成エンタルピー・中和エンタルピーなどは、すべて「対象の物質1molあたり」で定義された値です。実際に反応する物質の量が1molでない場合は、その分だけ倍率をかけて熱量を求める必要があります。

正しい考え方

熱量の計算問題では、まず「反応する物質は何molか」を確認し、$1\ \mathrm{mol}$ あたりの熱量(エンタルピーの絶対値)にその物質量をかけ算する、という手順を必ず踏みましょう。

間違い4: ヘスの法則で反応式を逆にするとき、ΔHの符号を反転させ忘れる

よくある誤答例

熱化学反応式 $①$ を逆向きに使って計算するとき、反応式の矢印は逆にしたのに、$\Delta H_1$ の符号はそのまま(プラスのまま、あるいはマイナスのまま)使ってしまう。

なぜ間違いなのか

反応式を逆向きにするということは、反応物と生成物を入れ替えるということです。$\Delta H=H_{\text{生成系}}-H_{\text{反応系}}$ の定義から、反応物と生成物を入れ替えれば、$\Delta H$ の符号も必ず反転します。

正しい考え方

ヘスの法則の計算では、「反応式に対して行った操作(何倍する、足す、引く、逆にする)と、まったく同じ操作を $\Delta H$ の数値にも行う」という原則を徹底しましょう。反応式を引き算する場合、引く方の式は実質的に逆向きに使っていることになるので、その $\Delta H$ にはマイナスの符号がつきます。

間違い5: 結合エネルギーの公式で「反応物−生成物」の順番を逆にしてしまう

よくある誤答例

結合エネルギーを使った計算で、$\Delta H=\Sigma(\text{生成物の結合エネルギー})-\Sigma(\text{反応物の結合エネルギー})$ のように、引き算の順番を逆にしてしまう。

なぜ間違いなのか

結合を切る(反応物の結合を切る)のは吸熱、結合を作る(生成物の結合を作る)のは発熱です。正しい式は「反応物の結合エネルギーの総和(吸熱分)から、生成物の結合エネルギーの総和(発熱分)を引く」という順番でなければ、符号が反転してしまいます。

正しい考え方

「結合エネルギーはすべて正の値」であることと、「反応物を先に書く($\Delta H=\Sigma$反応物$-\Sigma$生成物)」という順番を、必ずセットで覚えましょう。慣れないうちは、「反応物の結合を全部切る吸熱過程」と「生成物の結合を全部作る発熱過程」の2段階に分けて図を描き、それぞれの符号を確認してから式を立てると間違いにくくなります。

間違い6: 結合エネルギー計算で、分子内の結合の数(係数)をかけ忘れる

よくある誤答例

$\ce{N2+3H2 -> 2NH3}$ の反応で、$\ce{N-H}$ 結合の結合エネルギーをそのまま1回分だけ使って計算してしまう。

なぜ間違いなのか

$\ce{NH3}$ 1分子には $\ce{N-H}$ 結合が3本含まれており、さらに反応式の係数が2なので、切ったり作ったりする $\ce{N-H}$ 結合の総数は $3\times2=6$ 本になります。分子内の結合の数と、反応式の係数の両方を考慮しないと、結合の総数を数え間違えます。

正しい考え方

結合エネルギーの計算をするときは、必ず分子の構造式(またはルイス構造)を思い浮かべて、「1分子あたり何本の、どの種類の結合があるか」を先に確認し、そこに反応式の係数をかけて結合の総数を出す、という2段階の手順を踏みましょう。

間違い7: 中和エンタルピー・溶解エンタルピーの基準量を取り違える

よくある誤答例

中和エンタルピーを「酸1molが中和するときの熱量」だと思い込んでしまう。

なぜ間違いなのか

中和エンタルピーは、「水1molが生成するとき」を基準にした量です。1価の酸と1価の塩基の中和であれば結果的に酸1molと対応しますが、2価の酸や塩基が関わる場合は、酸・塩基の物質量と生成する水の物質量が一致しないことがあるため、基準を取り違えると計算が狂います。

正しい考え方

「中和エンタルピー→水1molあたり」「燃焼エンタルピー→燃焼する物質1molあたり」「生成エンタルピー→生成する化合物1molあたり」「溶解エンタルピー→溶解する物質1molあたり」というように、それぞれの反応エンタルピーが何を基準にした量なのかを、名前とセットで正確に覚えておきましょう。

間違い8: 熱量計算(Q=mcΔT)で、質量mの扱いを間違える

よくある誤答例

水に固体を溶かした実験で、比熱の対象になっている水の質量ではなく、溶かした固体の質量を $m$ として計算してしまう。

なぜ間違いなのか

$Q=mc\Delta T$ の $m$ と $c$ は、同じ物質に対応していなければなりません。「水の比熱」を使うなら、$m$ には熱を吸収した水の質量を代入する必要があり、溶かした溶質の質量を使ってはいけません(なお、より精密な計算では、溶質を含めた溶液全体の質量や比熱を使う場合もありますが、高校の問題では通常「水の質量とみなしてよい」といった指示に従います)。

正しい考え方

$Q=mc\Delta T$ を使うときは、$m$、$c$、$\Delta T$ がすべて同じ対象(たいてい問題文で指定された水や溶液)についての値になっているかを、代入する前に必ず確認しましょう。