化学 / 熱化学
ヘスの法則
要点整理
ヘスの法則とは
エンタルピー $H$ は、その物質が「今どんな状態にあるか」だけで決まる量です(このような量を状態量といいます)。反応エンタルピー $\Delta H$ は、反応前後のエンタルピーの差 $\Delta H = H_{\text{生成系}}-H_{\text{反応系}}$ で決まるので、反応の始まりと終わりの状態さえ同じであれば、途中でどんな経路をたどったとしても、$\Delta H$ の値は変わりません。これを**ヘスの法則(総熱量保存の法則)**といいます。
たとえば、反応物Aから生成物Bへ直接反応する経路と、Aから中間体Cを経て、Cから改めてBに至る経路の、2通りの経路があったとします。
$\text{A} \xrightarrow{\Delta H} \text{B}, \qquad \text{A} \xrightarrow{\Delta H_1} \text{C} \xrightarrow{\Delta H_2} \text{B}$
このとき、ヘスの法則により、次の関係が成り立ちます。
$\Delta H = \Delta H_1 + \Delta H_2$
これを図にしたものがエネルギー図です。縦軸にエンタルピーの高さをとり、A、B、Cのエンタルピーを高さで表し、それぞれの反応を矢印でつなぐと、「AからBへ直接下りる矢印」と「AからCを経てBへ下りる、2本の矢印をつないだもの」の、高さの差(=エンタルピー変化の合計)が一致することが視覚的に確認できます。
熱化学反応式を使った計算(反応式の足し算・引き算)
ヘスの法則を使うと、直接測定するのが難しい反応の $\Delta H$ を、別の(測定しやすい)反応の熱化学反応式を組み合わせて求めることができます。手順は次の通りです。
- 目的の反応式を確認する。
- 与えられた熱化学反応式を、ふつうの数式の等式のように扱い、目的の反応式ができあがるように、定数倍したり、足し合わせたり、引き算したりする。
- 反応式に対して行った操作(定数倍・足し算・引き算)と全く同じ操作を、$\Delta H$ の値に対しても行う。
- 反応式が逆向きになる(左辺と右辺が入れ替わる)場合は、$\Delta H$ の符号も逆転させる。
例:次の2つの熱化学反応式が与えられているとき、
$\ce{C(s) + O2(g) -> CO2(g)} \qquad \Delta H_1 = -394\ \mathrm{kJ} \quad \cdots ①$
$\ce{CO(g) + 1/2 O2(g) -> CO2(g)} \qquad \Delta H_2 = -283\ \mathrm{kJ} \quad \cdots ②$
目的の反応 $\ce{C(s) + 1/2 O2(g) -> CO(g)}$ の $\Delta H_3$ を求めたいとします。①式から②式を引くと、
$\ce{C(s) + O2(g)} - \ce{CO(g) - 1/2 O2(g)} \longrightarrow \ce{CO2(g) - CO2(g)}$
左辺を整理すると $\ce{C(s) + 1/2 O2(g) - CO(g)}$、右辺は $0$ になるので、$\ce{CO(g)}$ を右辺に移項すれば、ちょうど目的の反応式が得られます。反応式に対して「①から②を引く」という操作をしたので、$\Delta H$ にも同じ操作を行います。
$\Delta H_3 = \Delta H_1 - \Delta H_2 = -394-(-283) = -111\ \mathrm{kJ}$
生成エンタルピーを使った計算
多くの化合物については、あらかじめ生成エンタルピー(成分元素の単体1molから化合物1molができるときの $\Delta H$)の値が、データ表としてまとめられています。この値を使うと、ヘスの法則から、次の便利な公式を導くことができます。
$\Delta H = \Sigma \Delta H_f(\text{生成物}) - \Sigma \Delta H_f(\text{反応物})$
これは、「反応物をいったんすべて成分元素の単体に分解し、そこから改めて生成物を組み立て直す」という、成分元素の単体を経由する仮想的な経路を考えることで、ヘスの法則から導かれる式です(この導出は、この単元の考え方を「結合エネルギー」バージョンに応用した、証明のページ「結合エネルギーから反応熱を求める式の導出」でも同様の論理を確認できます)。なお、単体そのものの生成エンタルピーは $0$ として扱います(単体を単体から作る反応にはエンタルピー変化がないため)。
例題
例題1(基本)
問題
次の2つの熱化学反応式を用いて、一酸化炭素 $\ce{CO}$ が燃焼して二酸化炭素になる反応 $\ce{CO(g) + 1/2 O2(g) -> CO2(g)}$ の反応エンタルピー $\Delta H_3$ を求めよ。
$\ce{C(s) + O2(g) -> CO2(g)} \qquad \Delta H_1 = -394\ \mathrm{kJ}$
$\ce{C(s) + 1/2 O2(g) -> CO(g)} \qquad \Delta H_2 = -111\ \mathrm{kJ}$
解答・解説を見る
目的の反応式 $\ce{CO(g)+1/2O2(g) -> CO2(g)}$ は、1つ目の式から2つ目の式を引くと得られます。
$\ce{[C(s)+O2(g)] - [C(s)+1/2O2(g)] -> CO2(g) - CO(g)}$
左辺を整理すると $\ce{O2(g)-1/2O2(g)}=\ce{1/2 O2(g)}$ となり、$\ce{CO(g)}$ を右辺から左辺に移項すると、目的の反応式と一致します。反応式に対して「①から②を引く」操作をしたので、$\Delta H$ にも同じ操作を行います。
$\Delta H_3 = \Delta H_1 - \Delta H_2 = -394-(-111) = -283\ \mathrm{kJ}$
答え:$\Delta H_3=-283\ \mathrm{kJ}$
例題2(標準)
問題
次の3つの熱化学反応式を用いて、メタン $\ce{CH4}$ の燃焼エンタルピー($\ce{CH4(g)+2O2(g) -> CO2(g)+2H2O(l)}$ の $\Delta H$)を求めよ。
$\ce{C(s) + O2(g) -> CO2(g)} \qquad \Delta H_1 = -394\ \mathrm{kJ}\quad\cdots①$
$\ce{H2(g) + 1/2 O2(g) -> H2O(l)} \qquad \Delta H_2 = -286\ \mathrm{kJ}\quad\cdots②$
$\ce{C(s) + 2H2(g) -> CH4(g)} \qquad \Delta H_3 = -75\ \mathrm{kJ}\quad\cdots③$
解答・解説を見る
目的の反応式は、①式に、②式を2倍したものを足し、そこから③式を引くと得られることを確認します(炭素と水素をいったん単体として経由する経路を考えるイメージです)。
$①+②\times 2-③:\quad \ce{C(s)+O2(g)+2H2(g)+O2(g)-C(s)-2H2(g) -> CO2(g)+2H2O(l)-CH4(g)}$
左辺を整理すると $\ce{2O2(g)}$、右辺の $\ce{CH4(g)}$ を移項すると、目的の反応式 $\ce{CH4(g)+2O2(g) -> CO2(g)+2H2O(l)}$ と一致します。反応式と同じ操作($①+②\times2-③$)を $\Delta H$ にも行います。
$\Delta H = \Delta H_1+2\Delta H_2-\Delta H_3 = (-394)+2\times(-286)-(-75)$
$= -394-572+75 = -891\ \mathrm{kJ}$
答え:メタンの燃焼エンタルピーは $-891\ \mathrm{kJ/mol}$
例題3(応用)
問題
プロパン $\ce{C3H8(g)}$、二酸化炭素 $\ce{CO2(g)}$、水 $\ce{H2O(l)}$ の生成エンタルピーが、それぞれ $-105\ \mathrm{kJ/mol}$、$-394\ \mathrm{kJ/mol}$、$-286\ \mathrm{kJ/mol}$ であるとき、プロパンの燃焼エンタルピー(次の反応の $\Delta H$)を求めよ。
$\ce{C3H8(g) + 5O2(g) -> 3CO2(g) + 4H2O(l)}$
解答・解説を見る
生成エンタルピーを使った公式 $\Delta H=\Sigma\Delta H_f(\text{生成物})-\Sigma\Delta H_f(\text{反応物})$ を使います。単体である $\ce{O2(g)}$ の生成エンタルピーは $0$ とします。
生成物側の和
$3\times(-394) + 4\times(-286) = -1182-1144 = -2326\ \mathrm{kJ}$
反応物側の和
$1\times(-105) + 5\times 0 = -105\ \mathrm{kJ}$
反応エンタルピー
$\Delta H = -2326-(-105) = -2326+105 = -2221\ \mathrm{kJ}$
答え:プロパンの燃焼エンタルピーは $-2221\ \mathrm{kJ/mol}$
練習問題
問題
次の2つの熱化学反応式を用いて、$\ce{S(s) + O2(g) -> SO2(g)}$ の反応エンタルピー($\ce{S}$ の燃焼エンタルピー)を求めよ。
$\ce{SO2(g) + 1/2 O2(g) -> SO3(g)} \qquad \Delta H_1 = -99\ \mathrm{kJ}$
$\ce{S(s) + 3/2 O2(g) -> SO3(g)} \qquad \Delta H_2 = -395\ \mathrm{kJ}$
答え
目的の式は②式から①式を引くと得られる。$\Delta H = \Delta H_2-\Delta H_1 = -395-(-99) = -296\ \mathrm{kJ}$