化学 / 化学結合と結晶
金属結合と金属結晶
要点整理
金属結合のしくみ
金属原子は、比較的少数の価電子を持ち、それらを放出して陽イオンになりやすい性質があります。金属の単体が多数集まると、それぞれの原子が放出した価電子は、特定の原子に固定されることなく、金属結晶全体を自由に動き回れるようになります。この電子を自由電子と呼びます。
金属結晶は、規則正しく配列した金属の陽イオンの間を、この自由電子が海のように満たしている状態(電子の海モデル)と考えることができます。陽イオンどうしは本来反発し合うはずですが、負電荷を持つ自由電子が陽イオンの間を動き回ることで、陽イオンどうしを引きつけて結晶全体をまとめています。この結合を金属結合と呼びます。
金属に特有の性質
金属結合が自由電子を介した結合であることから、金属には次のような特徴的な性質が現れます。
- 電気伝導性・熱伝導性が高い:自由電子が結晶全体を自由に移動できるため、電流や熱をよく伝える。
- 金属光沢:自由電子が可視光を吸収・反射するため、特有の光沢を示す。
- 展性・延性:金属に外力を加えて陽イオンの層の位置がずれても、自由電子はその変化に応じて瞬時に再配置し、陽イオンどうしの結合を保ち続けることができる。そのため、イオン結晶のように割れたり砕けたりせず、金属は薄く箔状に広げたり(展性)、細長い線状に延ばしたり(延性)できる。
イオン結晶では、力を加えて配列がずれると同符号のイオンどうしが向かい合って反発し、結晶が割れてしまいますが、金属結晶では自由電子が「のり」のように柔軟に追従するため、変形しても結合が切れない、という対比を押さえておきましょう。
代表的な金属結晶構造
金属の単体では、原子(陽イオンの骨格)が結晶中でどのように積み重なっているかによって、いくつかの結晶構造に分類されます。高校化学でおさえるべき代表的な構造は、次の3つです。
| 結晶構造 | 単位格子中の原子数 | 配位数 | 充填率 | 代表的な金属 |
|---|---|---|---|---|
| 体心立方格子 | 2 | 8 | 約68% | Na、K、Cr、W、α-Fe(常温の鉄) |
| 面心立方格子 | 4 | 12 | 約74% | Cu、Ag、Au、Al、Ni |
| 六方最密構造 | 2(単位格子の取り方による) | 12 | 約74% | Mg、Zn、Ti |
(単位格子中の原子数・充填率の具体的な求め方は、次の「結晶格子の計算」のトピックで扱います。)
体心立方格子は、立方体の8個の頂点と、その中心に1個ずつ原子が位置する構造です。中心の原子から見ると、最も近い原子は8個の頂点の原子なので、配位数は8になります。
面心立方格子は、立方体の8個の頂点と、6個の各面の中心に1個ずつ原子が位置する構造です。これは原子を最も密に(すき間なく)積み重ねた配列の1つで、配位数は12になります。
六方最密構造も、面心立方格子と同じく、原子を最も密に積み重ねた配列の1つです。正六角柱を基本単位として考えることが多く、配位数は面心立方格子と同じ12、充填率も同じ約74%になります。面心立方格子と六方最密構造は、原子の積み重ね方(層の重なる順序)が異なるだけで、どちらも「最密構造(最密充填)」と呼ばれる仲間です。
例題
例題1(基本)
問題
金属が薄い箔に広げたり、細い線に延ばしたりできる理由を、金属結合の特徴に触れながら説明せよ。
解答・解説を見る
金属結晶では、陽イオンの間を自由電子が自由に動き回っており、金属結合はこの自由電子を介した結合です。外力を加えて陽イオンの層の位置がずれても、自由電子はその変化に応じてただちに再配置され、陽イオンどうしの結合を保ち続けます。そのため、イオン結晶のように同符号のイオンどうしが反発して割れることがなく、変形しても結合が切れないため、金属は薄く広げたり(展性)、細く延ばしたり(延性)することができます。
答え:金属結合は自由電子を介した結合であり、力を加えて原子の位置がずれても自由電子がただちに再配置されて結合を保つため、割れずに変形できるから。
例題2(標準)
問題
次の結晶構造と配位数の組み合わせのうち、正しいものをすべて選べ。
① 体心立方格子 - 配位数8 ② 面心立方格子 - 配位数8 ③ 面心立方格子 - 配位数12 ④ 六方最密構造 - 配位数6
解答・解説を見る
体心立方格子は、単位格子の中心にある原子から見て、8個の頂点の原子が最も近いため配位数は8です(①は正しい)。面心立方格子は、原子が最も密に詰まった配列の1つで、配位数は12です(②は誤り、③は正しい)。六方最密構造も面心立方格子と同じ「最密構造」の仲間であり、配位数は12です(④は誤り)。
答え:①、③
例題3(応用)
問題
同じ元素からなる金属でも、温度によって結晶構造が変わることがある。鉄は、常温では体心立方格子(α-Fe)であるが、約910℃以上に加熱すると面心立方格子(γ-Fe)に変化する。この構造変化にともなって、鉄の密度はどのように変化すると考えられるか、充填率の観点から理由とともに答えよ。ただし、原子半径の変化は無視できるものとする。
解答・解説を見る
密度は、単位体積あたりにどれだけ質量(原子)が詰まっているかを表す量なので、原子半径が変わらない場合、充填率(原子がすき間なく詰まっている割合)が大きいほど密度は大きくなると考えられます。
体心立方格子の充填率は約68%であるのに対し、面心立方格子の充填率は約74%であり、面心立方格子の方が原子がより密に詰まっています。したがって、鉄が体心立方格子(α-Fe)から面心立方格子(γ-Fe)に変化すると、同じ質量の原子がより小さい体積に詰め込まれることになり、密度は大きくなる(増加する)と考えられます。
(実際にも、鉄がα-FeからγーFeに変化するときにはわずかに体積が収縮することが知られています。)
答え:密度は大きくなる。体心立方格子の充填率(約68%)より面心立方格子の充填率(約74%)の方が大きく、原子半径が変わらなければ、より密に原子を詰め込める面心立方格子の方が単位体積あたりの質量(密度)が大きくなるため。
練習問題
問題
金属結晶において、自由電子が果たしている役割を2つ、簡潔に述べよ。
答え
(例)陽イオンどうしを引きつけて金属結合を形成する役割、電流や熱を伝える役割(このほか、変形時に陽イオンの結合を保ち展性・延性を生む役割なども可)