化学 / 反応速度と化学平衡
ルシャトリエの原理
要点整理
ルシャトリエの原理
平衡状態にある反応系に対して、外部から濃度・圧力(体積)・温度などの条件を変化させると、平衡の位置(各物質の濃度の比)が変化することがあります。この変化の向きについて、次のような経験則が成り立ちます。
平衡状態にある系に変化を与えると、その変化をやわらげる(打ち消す)向きに平衡が移動する。
これをルシャトリエの原理(平衡移動の原理)といいます。それぞれの変化について、具体的に見ていきましょう。
濃度の変化:ある物質の濃度を増やすと、その物質を消費する向きに平衡が移動します。反対に、ある物質を反応系から取り除く(濃度を減らす)と、その物質を補う向きに平衡が移動します。
圧力(体積)の変化:気体が関わる平衡で、体積を小さくして全体の圧力を大きくすると、気体の総分子数が少ない側(全体の圧力を下げる向き)に平衡が移動します。反対に、体積を大きくして圧力を小さくすると、気体の総分子数が多い側に平衡が移動します。ただし、反応の前後で気体の分子数が変化しない反応($\Delta n=0$)では、圧力(体積)を変えても平衡は移動しません。これは、双方の濃度が同じ比率で変化するため、平衡定数の式の値(反応商)が変わらないからです。
温度の変化:温度を上げると、その熱を吸収する向き、つまり吸熱反応の向きに平衡が移動します。反対に、温度を下げると発熱反応の向きに平衡が移動します。ここで重要なのは、濃度や圧力の変化とは違い、温度が変化すると平衡定数 $K$ の値そのものが変わるという点です(濃度や圧力の変化は、あくまで同じ $K$ のもとで平衡の位置がずれるだけです)。
触媒:触媒は正反応・逆反応の活性化エネルギーを同じだけ下げるため、平衡に到達するまでの時間は短くなりますが、平衡の位置(各濃度の比)や平衡定数 $K$ には影響を与えません。
反応商Qによる判定
ある瞬間の濃度が与えられたとき、その状態が平衡状態にあるかどうか、平衡状態でないならどちら向きに反応が進むかを判定するために、反応商 $Q$ を使う方法があります。$Q$ は平衡定数と全く同じ形の式に、その瞬間の(平衡とは限らない)濃度を代入したものです。
$Q = \frac{[\mathrm{C}]^c[\mathrm{D}]^d}{[\mathrm{A}]^a[\mathrm{B}]^b}$
- $Q < K$ のとき:生成系の割合がまだ少ないので、正反応が進んで $Q$ が大きくなり、$Q=K$ に近づく。
- $Q > K$ のとき:生成系の割合が多すぎるので、逆反応が進んで $Q$ が小さくなり、$Q=K$ に近づく。
- $Q = K$ のとき:すでに平衡状態にある。
例題
例題1(基本)
問題
窒素と水素からアンモニアが生成する反応 $\ce{N2 + 3H2 <=> 2NH3}$($\Delta H=-92\ \mathrm{kJ}$、発熱反応)が平衡状態にある。次の(a)~(d)の操作を行うと、平衡はそれぞれどちら向きに移動するか答えよ。
(a) $\ce{N2}$ を追加する (b) 体積を大きくして圧力を下げる (c) 温度を上げる (d) 触媒を加える
解答・解説を見る
(a) 反応物である $\ce{N2}$ を追加すると、それを消費する向き、つまり**正反応向き(右)**に移動します。
(b) この反応は左辺(反応物)が気体4分子($1+3$)、右辺(生成物)が気体2分子で、気体の総分子数が異なります。圧力を下げると、気体分子数が多い側に平衡が移動するので、**逆反応向き(左)**に移動します。
(c) この反応は発熱反応($\Delta H<0$)なので、正反応が発熱、逆反応が吸熱です。温度を上げると吸熱反応の向き、つまり**逆反応向き(左)**に移動します(同時に、平衡定数 $K$ の値も小さくなります)。
(d) 触媒は活性化エネルギーを下げて速度を大きくしますが、平衡の位置には影響しません。移動しない(ただし、平衡に達するまでの時間は短くなります)。
答え:(a) 正反応向き (b) 逆反応向き (c) 逆反応向き (d) 移動しない
例題2(標準)
問題
ある温度で $\ce{H2 + I2 <=> 2HI}$ の平衡定数は $K=64$ である。いま、$[\ce{H2}]=0.30\ \mathrm{mol/L}$、$[\ce{I2}]=0.20\ \mathrm{mol/L}$、$[\ce{HI}]=2.0\ \mathrm{mol/L}$ の状態にある(まだ平衡状態とは限らない)。この状態から、反応はどちら向きに進んで平衡に達するか、反応商 $Q$ を計算して判定せよ。
解答・解説を見る
反応商を計算します。
$Q = \frac{[\ce{HI}]^2}{[\ce{H2}][\ce{I2}]} = \frac{(2.0)^2}{0.30\times0.20} = \frac{4.0}{0.06} \approx 66.7$
$Q\approx66.7$ は $K=64$ より大きいので、生成系($\ce{HI}$)の割合が平衡時より多すぎる状態です。したがって、反応は $Q$ を小さくする向き、つまり**逆反応(左向き、$\ce{HI}$ が分解して $\ce{H2}$ と $\ce{I2}$ に戻る向き)**に進んで平衡に達します。
答え:逆反応(左)向きに進む($Q\approx66.7>K=64$ のため)
例題3(応用)
問題
(1) ある温度で $\ce{H2 + I2 <=> 2HI}$($K=64$)が体積 $1.0\ \mathrm{L}$ の容器内で平衡状態にあり、$[\ce{H2}]=[\ce{I2}]=0.20\ \mathrm{mol/L}$、$[\ce{HI}]=1.6\ \mathrm{mol/L}$ であった。この容器の体積を、温度を変えずに $2.0\ \mathrm{L}$ に広げた直後の反応商 $Q$ を計算し、新たな平衡に向けて反応が移動するかどうかを判定せよ。
(2) 同じ温度で、$\ce{N2O4 <=> 2NO2}$ の平衡定数が $K=0.40\ \mathrm{mol/L}$ であるとする。体積 $1.0\ \mathrm{L}$ の容器内で $[\ce{N2O4}]=0.90\ \mathrm{mol/L}$、$[\ce{NO2}]=0.60\ \mathrm{mol/L}$ で平衡状態にあったものを、体積 $2.0\ \mathrm{L}$ に広げた。新たな平衡状態での $[\ce{N2O4}]$、$[\ce{NO2}]$ を求めよ。
解答・解説を見る
(1) $\Delta n=0$ の場合
体積が2倍になると、すべての物質の物質量は変わらないまま濃度だけが半分になります。
$[\ce{H2}]=[\ce{I2}]=0.10\ \mathrm{mol/L}, \qquad [\ce{HI}]=0.80\ \mathrm{mol/L}$
反応商を計算すると、
$Q = \frac{(0.80)^2}{0.10\times0.10} = \frac{0.64}{0.01} = 64$
$Q=64=K$ なので、すでに新しい平衡状態に達しており、それ以上反応は進まないことがわかります。これは、$\ce{H2+I2 <=> 2HI}$ が反応の前後で気体分子数が変化しない($2 \to 2$)反応であるため、体積を変えても濃度の比がそのまま保たれ、平衡がずれないという性質を、数値で確認したものです。
(2) $\Delta n\neq0$ の場合
体積を2倍にした直後の濃度は、
$[\ce{N2O4}]=0.45\ \mathrm{mol/L}, \qquad [\ce{NO2}]=0.30\ \mathrm{mol/L}$
反応商は、
$Q = \frac{(0.30)^2}{0.45} = \frac{0.09}{0.45} = 0.20$
$Q=0.20$ は $K=0.40$ より小さいので、正反応($\ce{N2O4}$ が分解して $\ce{NO2}$ が増える向き、気体分子数が増える向き)に平衡が移動します。これは、体積を広げる(圧力を下げる)と気体分子数が多い側に平衡が移動するというルシャトリエの原理とも一致します。
反応した $\ce{N2O4}$ の濃度を $x\ \mathrm{mol/L}$ とおいて、変化を整理します。
| $\ce{N2O4}$ | $\ce{NO2}$ | |
|---|---|---|
| 直後 | $0.45$ | $0.30$ |
| 変化量 | $-x$ | $+2x$ |
| 新平衡 | $0.45-x$ | $0.30+2x$ |
平衡定数の式に代入します。
$\frac{(0.30+2x)^2}{0.45-x} = 0.40$
両辺に $(0.45-x)$ をかけて、
$(0.30+2x)^2 = 0.40(0.45-x) = 0.18-0.40x$
左辺を展開すると、
$0.09+1.2x+4x^2 = 0.18-0.40x$
$4x^2+1.2x+0.40x+0.09-0.18 = 0$
$4x^2+1.6x-0.09 = 0$
両辺を100倍して係数を整数にします。
$400x^2+160x-9=0$
解の公式を使うと、
$x = \frac{-160\pm\sqrt{160^2+4\times400\times9}}{2\times400} = \frac{-160\pm\sqrt{25600+14400}}{800} = \frac{-160\pm\sqrt{40000}}{800} = \frac{-160\pm200}{800}$
$x>0$ となる解を選ぶと、
$x = \frac{40}{800} = 0.050$
したがって、新しい平衡状態での濃度は、
$[\ce{N2O4}] = 0.45-0.050 = 0.40\ \mathrm{mol/L}, \qquad [\ce{NO2}] = 0.30+2\times0.050 = 0.40\ \mathrm{mol/L}$
答え:(1) $Q=64=K$ となり、体積を広げても平衡は移動しない。(2) 新しい平衡状態では $[\ce{N2O4}]=0.40\ \mathrm{mol/L}$、$[\ce{NO2}]=0.40\ \mathrm{mol/L}$
同じ「体積を2倍にする」という操作でも、反応の前後で気体分子数が変わらない(1)では平衡が移動せず、変わる(2)では平衡が移動することが、定量的な計算からもはっきりと確認できます。
練習問題
問題
炭酸カルシウムの熱分解 $\ce{CaCO3(s) <=> CaO(s) + CO2(g)}$ は吸熱反応である。この反応が平衡状態にあるとき、(a) 容器の体積を大きくする、(b) 温度を上げる、それぞれの操作で平衡はどちら向きに移動するか答えよ。
答え
(a) 気体は生成系側にのみ存在する($\ce{CO2}$ 1分子)ので、体積を大きくする(圧力を下げる)と気体分子数が増える正反応向きに移動する。(b) 吸熱反応なので、温度を上げると正反応向きに移動する。