無機化学 / 無機物質の分析
陰イオンの検出
要点整理
陰イオンの検出も「沈殿の溶解度の違い」が土台になる
陽イオンの分離と同じように、陰イオンの検出も基本的には特定の陽イオンと結びついたときに、水に溶けにくい沈殿ができるかどうかを利用しています。ここでは代表的な3種類の陰イオン(Cl−、SO4^2−、CO3^2−)を中心に見ていきます。
塩化物イオンCl−の検出
Cl−を含む水溶液に硝酸銀水溶液を加えると、白色のAgClの沈殿を生じます。
$\ce{Ag+ + Cl- -> AgCl v}$
このAgClは希硝酸を加えても溶けないという性質があり、これによって次に紹介する炭酸塩などの「酸で溶ける沈殿」と区別できます。
硫酸イオンSO4^2−の検出
SO4^2−を含む水溶液に塩化バリウム水溶液(またはBa(NO3)2水溶液)を加えると、白色のBaSO4の沈殿を生じます。
$\ce{Ba^2+ + SO4^2- -> BaSO4 v}$
BaSO4は数ある白色沈殿の中でも際立って水にも酸にも溶けにくく、希塩酸や希硝酸を加えても溶けません。この「酸を加えても溶けない」という性質が、SO4^2−の検出における重要な決め手になります。
炭酸イオンCO3^2−の検出
CO3^2−を含む水溶液(炭酸塩)に希塩酸のような強酸を加えると、気体が発生します。
$\ce{CO3^2- + 2HCl -> 2Cl- + H2O + CO2 ^}$
これは、弱酸である炭酸$\ce{H2CO3}$の塩に、より強い酸である塩酸を加えることで炭酸が遊離し、不安定な炭酸がただちに分解して二酸化炭素と水になる、という**「強酸が弱酸を追い出す」酸・塩基の基本パターンです。発生した気体を石灰水**(水酸化カルシウム水溶液)に通じると、白濁が生じることでCO2であることを確認できます。
$\ce{CO2 + Ca(OH)2 -> CaCO3 v + H2O}$
また、CO3^2−を含む水溶液に塩化カルシウム水溶液を加えても、白色のCaCO3の沈殿が直接生じます。
$\ce{Ca^2+ + CO3^2- -> CaCO3 v}$
この沈殿は、BaSO4とは違って希塩酸を加えるとすぐに溶けて気体(CO2)を発生します。同じ「白色沈殿」でも、酸を加えたときに溶けて気体が出るか、まったく変化しないかによって、炭酸塩と硫酸塩をはっきり区別できます。
白色沈殿の見分け方の整理
| 沈殿 | 希塩酸・希硝酸を加えたときの変化 |
|---|---|
| $\ce{AgCl}$ | 溶けない(ただし過剰のアンモニア水には溶ける) |
| $\ce{BaSO4}$ | 溶けない |
| $\ce{CaCO3}$、$\ce{BaCO3}$ | 気体(CO2)を発生しながら溶ける |
その他の代表的な陰イオンの検出反応(参考)
| 陰イオン | 検出反応 | 現象 |
|---|---|---|
| $\ce{SO3^2-}$(亜硫酸イオン) | 希硫酸を加える | 刺激臭のあるSO2が発生 |
| $\ce{S^2-}$(硫化物イオン) | 希塩酸を加える、または酢酸鉛(II)水溶液を加える | 腐卵臭のあるH2Sが発生、またはPbSの黒色沈殿を生じる |
| $\ce{NO3-}$(硝酸イオン) | 濃硫酸と鉄(II)イオンを用いた褐色環反応 | 溶液の境界面に褐色の輪ができる(発展的な反応) |
例題
例題1(基本)
問題
ある水溶液に硝酸銀水溶液を加えると白色沈殿が生じ、この沈殿は希硝酸を加えても溶けなかった。この水溶液に含まれていたと考えられる陰イオンは何か。
解答・解説を見る
硝酸銀と反応して白色沈殿をつくり、かつ希硝酸に溶けない代表的な陰イオンはCl−です。
$\ce{Ag+ + Cl- -> AgCl v}$
答え:塩化物イオンCl−
例題2(標準)
問題
白色沈殿A・Bがある。Aは希塩酸を加えても変化しないが、Bは希塩酸を加えると気体を発生しながら溶けた。A・Bとして考えられる化合物をそれぞれ1つ挙げ、Bで発生する気体の確認方法も答えよ。
解答・解説を見る
Aのように酸を加えても変化しない白色沈殿の代表例はBaSO4(硫酸バリウム)です。
Bのように酸を加えると気体を発生しながら溶ける白色沈殿の代表例はCaCO3(炭酸カルシウム)です。
$\ce{CaCO3 + 2HCl -> CaCl2 + H2O + CO2 ^}$
発生した気体を石灰水に通じると白濁することでCO2であると確認できます。
答え:A=BaSO4、B=CaCO3。発生する気体はCO2で、石灰水に通じると白く濁ることで確認できる。
例題3(応用)
問題
炭酸カルシウムに希塩酸を加えると二酸化炭素が発生する反応を、「強酸が弱酸を追い出す」という酸・塩基の考え方を用いて説明せよ。
解答・解説を見る
炭酸カルシウムは弱酸である炭酸$\ce{H2CO3}$の塩です。ここへ、炭酸よりも強い酸である塩酸(強酸)を加えると、弱酸である炭酸が塩から追い出される形で遊離します。しかし炭酸は非常に不安定な物質であるため、生じるとただちに分解して二酸化炭素と水になります。
$\ce{CaCO3 + 2HCl -> CaCl2 + H2CO3}\ \left(\to\ \ce{H2O + CO2 ^}\right)$
答え:強酸である塩酸が、弱酸である炭酸をカルシウム塩から追い出して遊離させ、不安定な炭酸がただちにH2OとCO2に分解するため。
練習問題
問題
硫酸イオンSO4^2−と炭酸イオンCO3^2−は、どちらもバリウムイオンやカルシウムイオンと白色沈殿をつくる。この2つの沈殿を見分ける簡単な方法を1つ答えよ。
答え
希塩酸(または希硝酸)を加える。炭酸塩は気体(CO2)を発生しながら溶けるが、硫酸塩は変化せず溶けない。