無機化学 / 非金属元素
水素と貴ガス
要点整理
水素 H2 のなりたち
水素は原子番号1番、周期表の最も左上に位置する元素です。電子配置は $K$ 殻に電子1個だけという、あらゆる元素の中で最もシンプルな構造をしています。この電子1個をどう扱うかによって、水素は状況に応じて酸化数を $-1$、$0$、$+1$ と変化させる、化学的に幅の広い元素です。
| 酸化数 | 状態 | 具体例 |
|---|---|---|
| $-1$ | 陰イオン(ヒドリドイオン $\mathrm{H^-}$)になる | $\ce{NaH}$(水素化ナトリウム) |
| $0$ | 単体 $\mathrm{H_2}$ | 水素分子 |
| $+1$ | 陽イオン($\mathrm{H^+}$)や化合物中 | $\ce{H2O}$、$\ce{HCl}$ など |
化学基礎の酸化還元反応で学んだように、酸化数が変化する反応は必ず酸化還元反応です。水素が関わる反応の多くは、この酸化数の変化(0との間の行き来)として整理できます。
水素の実験室的製法
水素は、イオン化傾向が水素より大きい金属(例:亜鉛)に、酸を作用させることで発生させます。これは化学基礎の金属のイオン化傾向で学んだ「イオン化傾向が水素より大きい金属は、酸に溶けて水素を発生する」という性質そのものです。
$\ce{Zn + 2HCl -> ZnCl2 + H2 ^}$
$\ce{Zn + H2SO4 -> ZnSO4 + H2 ^}$
この反応を酸化数の変化で見ると、亜鉛は $0 \to +2$(酸化)、水素イオンは $+1 \to 0$(還元)となっており、亜鉛が還元剤、水素イオン(酸)が酸化剤としてはたらく酸化還元反応であることがわかります。発生した水素は水にほとんど溶けないため、水上置換で捕集します。
工業的には、水の電気分解や、天然ガス(メタン)を水蒸気と反応させる水蒸気改質法($\ce{CH4 + H2O -> CO + 3H2}$)などで大量に製造されます。
水素の性質
- 無色・無臭で、すべての気体の中で最も密度が小さい(最も軽い)。
- 水にほとんど溶けない。
- 可燃性で、酸素中で点火すると音を立てて燃え、水になる。
$\ce{2H2 + O2 -> 2H2O}$
- 高温にすると強い還元剤としてはたらき、金属酸化物から酸素を奪って金属の単体を得ることができる。
$\ce{CuO + H2 -> Cu + H2O}$
この反応では、銅は $+2 \to 0$ に還元され、水素は $0 \to +1$ に酸化されています。「還元される側」と「還元する側(還元剤)」を取り違えないように注意しましょう。
貴ガス(希ガス)の電子配置と安定性
18族に属する He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn は、まとめて貴ガスと呼ばれます。貴ガスの最大の特徴は、最外殻電子配置がすでに閉殻(He は2個、それ以外は8個=オクテット則を満たす配置)になっていることです。
化学基礎で学んだイオン化エネルギーの周期表上の傾向を思い出しましょう。同一周期の中で、貴ガスはイオン化エネルギーが最大になる元素でした。これは、閉殻構造から電子を1個取り去るのに非常に大きなエネルギーが必要なことを意味します。逆に、電子親和力(電子を1個受け取ったときに放出されるエネルギー)はほぼ0か負であり、陰イオンにもなりたがりません。
つまり貴ガスは、
- 電子を失って陽イオンになる(イオン化エネルギーが大きすぎる)
- 電子を受け取って陰イオンになる(すでに安定なので不要)
- 他の原子と電子を共有して共有結合を作る(すでに閉殻なので不要)
のいずれの理由からも、他の原子と結合を作る動機がほとんどありません。そのため貴ガスは単原子分子として存在し、化学的にきわめて不活性です(このため「不活性ガス」とも呼ばれます)。
貴ガスの用途
反応しにくいという性質そのものが、貴ガスの用途の土台になっています。
| 元素 | 特徴・用途 |
|---|---|
| He(ヘリウム) | 水素の次に軽く、しかも不燃性なので飛行船や気球に安全に使える。沸点が全物質中最も低く($-269°C$)、超伝導磁石(MRI装置など)の冷却材にも使われる。 |
| Ne(ネオン) | 放電管に封入すると赤橙色に発光する。ネオンサインに利用される。 |
| Ar(アルゴン) | 大気中に体積で約0.9%含まれ、貴ガスの中では最も存在量が多い。反応しない性質を利用して、白熱電球の封入ガスや、アーク溶接時に金属が酸化されるのを防ぐシールドガスに使われる。 |
| Kr, Xe(クリプトン、キセノン) | 高輝度の特殊な照明(キセノンランプなど)に利用される。 |
例題
例題1(基本)
問題
亜鉛に希硫酸を加えて水素を発生させる実験について、(1) 化学反応式を書け。(2) この反応が酸化還元反応であるといえる理由を、酸化数の変化に触れて説明せよ。
解答・解説を見る
(1)
$\ce{Zn + H2SO4 -> ZnSO4 + H2}$
(2)
亜鉛の酸化数は反応前は単体なので $0$、反応後は $\mathrm{Zn^{2+}}$ になっているので $+2$ へと変化しています(酸化)。一方、硫酸の水素イオン $\mathrm{H^+}$(酸化数 $+1$)は、水素分子 $\mathrm{H_2}$(酸化数 $0$)へと変化しています(還元)。このように反応の前後で酸化数が変化する原子が存在するため、この反応は酸化還元反応であるといえます。
答え:(1) $\ce{Zn + H2SO4 -> ZnSO4 + H2}$ (2) Znの酸化数が0→+2、Hの酸化数が+1→0と変化しており、電子の授受(酸化・還元)が起きているため。
例題2(標準)
問題
酸化銅(II)の粉末に水素ガスを通しながら加熱すると、銅が得られた。(1) この反応の化学反応式を書け。(2) この反応における水素の役割を、酸化還元の観点から説明せよ。
解答・解説を見る
(1)
$\ce{CuO + H2 -> Cu + H2O}$
(2)
銅の酸化数は $\mathrm{CuO}$ 中で $+2$ から、単体の $\mathrm{Cu}$ で $0$ へと減少しており、還元されています。一方、水素の酸化数は $\mathrm{H_2}$ の $0$ から $\mathrm{H_2O}$ 中の $+1$ へと増加しており、酸化されています。水素は酸化銅(II)から酸素を奪う相手に電子を与えて自らは酸化される側、すなわち還元剤としてはたらいています。
答え:水素は酸化銅(II)を還元する還元剤としてはたらき、自身は酸化数0から+1へと酸化される。
例題3(応用)
問題
貴ガス(18族元素)が単原子分子として存在し、他の原子とほとんど反応しない理由を、電子配置の観点から120字程度で説明せよ。
解答・解説を見る
貴ガスの最外殻電子配置は、すでに閉殻(オクテット則を満たす安定な配置)になっています。原子が結合を作ったりイオンになったりするのは、電子配置を安定な閉殻に近づけるためですが、貴ガスは最初からその安定な状態にあるため、電子を放出・受容・共有する動機がありません。そのためイオン化エネルギーが非常に大きく、電子親和力もほぼ0となり、化学的に不活性な単原子分子として存在します。
答え:貴ガスは最外殻電子配置がすでに閉殻で安定しており、電子を失っても得ても安定性が増さないため、イオン化エネルギーが大きく電子親和力も小さい。結果として他原子と結合(電子の授受・共有)を作る動機がなく、単原子分子のまま化学的に不活性である。
練習問題
問題
次の(1)〜(3)の記述について、正しいものには○、誤っているものには×をつけよ。
(1) 水素は水に溶けやすいので、捕集には上方置換を用いる。
(2) アルゴンは大気中に含まれる貴ガスの中で最も存在割合が高い。
(3) 貴ガスはイオン化エネルギーが小さく、陽イオンになりやすい。
答え
(1) ×(水素は水にほとんど溶けないため水上置換を用いる)
(2) ○
(3) ×(貴ガスはイオン化エネルギーが非常に大きく、陽イオンになりにくい)