有機化学 / 芳香族化合物
頻出解法パターン
パターン1: 置換反応か付加反応かを、反応条件から判断する
こんな問題で使う
ベンゼン環に対する反応が、置換反応と付加反応のどちらとして起こるかを問う問題。
解法の手順
- 反応条件(触媒の種類、温度・圧力、光の有無)を確認する。
- 鉄(Fe)やその化合物を触媒とする穏やかな条件であれば、共鳴による安定化を保てる置換反応が起こると判断する。
- ニッケル(Ni)触媒での高温高圧、または紫外線照射のような激しい条件であれば、共鳴による安定化を犠牲にする付加反応が起こると判断する。
- 生成物の分子式・構造式を、置換なら「H原子1個が置き換わる」、付加なら「二重結合の数だけH原子(またはハロゲン)が増える」という視点で書き出す。
具体例
ベンゼンに鉄を触媒として塩素を作用させると、置換反応が起こりクロロベンゼン $\ce{C6H5Cl}$ が生じる。同じベンゼンに紫外線を当てながら塩素を作用させると、付加反応が起こり $\ce{C6H6Cl6}$ が生じる、というように、触媒と条件の違いで反応の種類を見分ける。
パターン2: 酸の強さを比較して、塩基との反応の可否を判定する
こんな問題で使う
カルボン酸・炭酸・フェノール類のうち、どれが炭酸水素ナトリウムや水酸化ナトリウムと反応するかを問う問題。
解法の手順
- 「カルボン酸 > 炭酸 > フェノール類」という酸の強さの序列を思い出す。
- 反応させる相手が炭酸水素ナトリウム(弱塩基、炭酸の塩)であれば、炭酸より強い酸(カルボン酸)だけが反応すると判断する。
- 反応させる相手が水酸化ナトリウム(強塩基)であれば、カルボン酸・フェノール類のどちらも反応すると判断する。
- 気体(二酸化炭素)が発生するかどうかを、炭酸水素ナトリウムとの反応の目印として使う。
具体例
安息香酸とフェノールの混合物に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えると、安息香酸だけが反応して二酸化炭素を発生し水層に移るが、フェノールは反応せずエーテル層に残る。
パターン3: 官能基ごとの検出反応を整理して、構造を絞り込む
こんな問題で使う
未知の芳香族化合物に対していくつかの呈色反応・気体発生反応の結果が与えられ、官能基を特定する問題。
解法の手順
- 塩化鉄(III)水溶液で呈色するか → する場合、フェノール性ヒドロキシ基がある。
- 炭酸水素ナトリウム水溶液で気体が発生するか → する場合、カルボキシ基(炭酸より強い酸)がある。
- 臭素水を加えて白色沈殿を生じるか → 生じる場合、アミノ基やフェノール性ヒドロキシ基によってベンゼン環が強く活性化されている。
- 複数の反応結果を組み合わせて、分子内に存在する官能基をすべて特定する。
具体例
ある化合物が塩化鉄(III)で呈色し、かつ炭酸水素ナトリウムで気体を発生させたなら、フェノール性ヒドロキシ基とカルボキシ基の両方をもつ化合物(サリチル酸のような構造)であると判断できる。
パターン4: サリチル酸の2つの官能基のどちらが反応するかを見極める
こんな問題で使う
サリチル酸から誘導体(アスピリン、サリチル酸メチルなど)をつくる反応で、生成物の構造や性質を問う問題。
解法の手順
- 反応させる試薬が酸無水物(無水酢酸など)なら、ヒドロキシ基がアセチル化されると判断する。
- 反応させる試薬がアルコール+酸触媒(濃硫酸など)なら、カルボキシ基がエステル化されると判断する。
- 反応後の生成物について、どちらの官能基が残っているかを確認する。
- 残っている官能基がヒドロキシ基であれば塩化鉄(III)で呈色し、カルボキシ基であれば炭酸水素ナトリウムと反応する、という性質を対応づける。
具体例
サリチル酸+無水酢酸 → アスピリン(ヒドロキシ基が反応、カルボキシ基が残る → 塩化鉄(III)で呈色しない)。サリチル酸+メタノール(酸触媒)→ サリチル酸メチル(カルボキシ基が反応、ヒドロキシ基が残る → 塩化鉄(III)で呈色する)。
パターン5: 酸塩基抽出による分離の手順を組み立てる
こんな問題で使う
酸性・塩基性・中性の芳香族化合物が混ざったエーテル溶液から、1種類ずつ分離する手順を問う問題。
解法の手順
- 混合物に含まれる各化合物を、塩基性・炭酸より強い酸・炭酸より弱い酸(フェノール類)・中性、の4種類に分類する。
- 希塩酸を加え、塩基性物質(アミン)を塩にして水層へ移す。
- 炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、炭酸より強い酸(カルボン酸)を塩にして水層へ移す。
- 水酸化ナトリウム水溶液を加え、フェノール類を塩にして水層へ移す。
- 最後に残ったエーテル層から、中性物質を回収する。
- 各水層には対応する強酸(希塩酸など)を加えて、目的の化合物を遊離させ回収する。
具体例
アニリン・安息香酸・フェノール・トルエンの混合物なら、希塩酸→炭酸水素ナトリウム水溶液→水酸化ナトリウム水溶液の順に加えることで、アニリン→安息香酸→フェノール→トルエン(残ったエーテル層)の順に1種類ずつ分離できる。
パターン6: 酸性・塩基性の強さを、電子の非局在化で説明する
こんな問題で使う
フェノールの酸性やアニリンの塩基性の強さの理由を、構造にもとづいて説明させる問題。
解法の手順
- 問題になっている官能基(ヒドロキシ基ならフェノール、アミノ基ならアニリン)が、ベンゼン環に直接結合しているかを確認する。
- フェノールの場合、電離後の陰イオン(フェノキシドイオン)の負電荷がベンゼン環に非局在化して安定化される → 電離しやすくなる → 酸性が強まる、という論理で説明する。
- アニリンの場合、窒素上の非共有電子対がベンゼン環に非局在化し、水素イオンを受け取る能力そのものが下がる → 塩基性が弱まる、という論理で説明する。
- 比較対象(アルコールやアンモニアなど、ベンゼン環をもたない化合物)との違いを明示して答える。
具体例
「フェノールがエタノールより酸性が強い理由」を問われたら、フェノキシドイオンの負電荷がベンゼン環に分散して安定化されるためエタノールより電離しやすい、と説明する。「アニリンがアンモニアより塩基性が弱い理由」を問われたら、窒素の非共有電子対がベンゼン環に非局在化し水素イオンを受け取りにくくなるため、と説明する。