有機化学 / 炭化水素

脂環式炭化水素

要点整理

脂環式炭化水素とは

炭素原子が環状(輪状)に結合した炭化水素のうち、ベンゼン環のような特別な構造を持たないものを脂環式炭化水素といいます。単結合だけでできた環を持つシクロアルカンと、環の中に二重結合を持つシクロアルケンが代表例です。

シクロアルカン

炭素原子が単結合だけで環状につながった飽和炭化水素をシクロアルカンといいます。シクロアルカンの分子式は、次の一般式で表されます。

$\mathrm{C_nH_{2n}}$

炭素数 $n$ 分子式 名称
3 $\ce{C3H6}$ シクロプロパン
4 $\ce{C4H8}$ シクロブタン
5 $\ce{C5H10}$ シクロペンタン
6 $\ce{C6H12}$ シクロヘキサン

シクロアルカンの一般式 $\mathrm{C_nH_{2n}}$ は、アルケンの一般式と全く同じ形をしています。これは偶然ではありません。アルカン $\mathrm{C_nH_{2n+2}}$ に対して、シクロアルカンは「環を作るために炭素原子どうしがもう1組結合を作る」ことで水素原子が2個少なくなっており、アルケンは「二重結合を作るために炭素原子どうしがもう1組結合を作る」ことで水素原子が2個少なくなっている、という点で共通しているためです。つまり、環を1つ作ることと、二重結合を1つ作ることは、水素原子の数を減らす効果としては同じなのです。

このため、同じ炭素数のシクロアルカンとアルケンは、分子式が一致する構造異性体の関係になります。例えば、シクロプロパン $\ce{C3H6}$ とプロペン $\ce{CH2=CH-CH3}$ は、どちらも分子式 $\ce{C3H6}$ で、環を持つか二重結合を持つかという構造のちがいによる構造異性体です。

シクロアルケン

環の中にさらに二重結合を1個持つ不飽和の脂環式炭化水素をシクロアルケンといいます。シクロアルケンの分子式は、次の一般式で表されます。

$\mathrm{C_nH_{2n-2}}$

シクロアルケンは「環を1つ」と「二重結合を1つ」の両方を持つため、シクロアルカン($\mathrm{C_nH_{2n}}$)よりもさらに水素原子が2個少なくなります。この一般式 $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$ は、アルキンの一般式と一致します。したがって、同じ炭素数のシクロアルケンとアルキンも、分子式が一致する構造異性体の関係になります。例えば、シクロブテン $\ce{C4H6}$ と1-ブチン $\ce{HC#C-CH2-CH3}$ は、どちらも分子式 $\ce{C4H6}$ です。

一般式の整理

ここまで学んだ鎖式・環式の炭化水水素の一般式を整理すると、次のようになります。「環1個」も「二重結合(または三重結合の1本のπ結合)1個」も、どちらも水素原子を2個減らす効果を持つ、という視点で見ると覚えやすくなります。

分類 一般式 例($n=4$)
アルカン(鎖式・飽和) $\mathrm{C_nH_{2n+2}}$ ブタン $\ce{C4H10}$
アルケン・シクロアルカン $\mathrm{C_nH_{2n}}$ 1-ブテン、シクロブタン(どちらも $\ce{C4H8}$)
アルキン・シクロアルケン $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$ 1-ブチン、シクロブテン(どちらも $\ce{C4H6}$)

シクロアルカンは、アルカンと違って燃焼のしやすさなど基本的な性質はアルカンに似ていますが(単結合のみのため反応性は低い)、環のひずみが大きいシクロプロパンやシクロブタンでは、例外的に開環反応(環が開いて鎖状になる反応)を起こしやすいことが知られています。

例題

例題1(基本)

問題

シクロヘキサン $\ce{C6H12}$ と分子式が一致する、鎖式のアルケンを1つ、構造式で書け。

解答・解説を見る

シクロヘキサンは炭素数6のシクロアルカンなので、分子式は $\mathrm{C_nH_{2n}}$($n=6$)より $\ce{C6H12}$ です。アルケンの一般式も $\mathrm{C_nH_{2n}}$ なので、炭素数6のアルケンであれば分子式が一致します。もっとも単純な例は、直鎖の1-ヘキセンです。

$\ce{CH2=CH-CH2-CH2-CH2-CH3}$

答え:$\ce{CH2=CH-CH2-CH2-CH2-CH3}$(1-ヘキセン)など、分子式 $\ce{C6H12}$ のアルケンであればよい

例題2(標準)

問題

分子式 $\ce{C4H8}$ で表される化合物には、鎖式のアルケンと環式のシクロアルカンが両方含まれる。それぞれの構造式の例を1つずつ書き、これらが互いにどのような異性体の関係にあるか答えよ。

解答・解説を見る

$\ce{C4H8}$ は一般式 $\mathrm{C_nH_{2n}}$($n=4$)にあてはまるので、アルケン(鎖式・不飽和)とシクロアルカン(環式・飽和)の両方が考えられます。

  • 鎖式のアルケンの例:$\ce{CH2=CH-CH2-CH3}$(1-ブテン)
  • 環式のシクロアルカンの例:シクロブタン(炭素4個の環)

どちらも分子式は $\ce{C4H8}$ で共通していますが、原子のつながり方(環を持つか、二重結合を持つか)が異なるため、構造異性体の関係にあります。

答え:1-ブテン $\ce{CH2=CH-CH2-CH3}$ とシクロブタンは、ともに分子式 $\ce{C4H8}$ を持つ構造異性体である。

例題3(応用)

問題

分子式 $\ce{C5H8}$ で表される化合物として、シクロペンテン(環の中に二重結合を1個持つ5員環)と、鎖式のアルキンの一種である1-ペンチン $\ce{HC#C-CH2-CH2-CH3}$ が考えられる。それぞれの分子式が一致することを、一般式を使って確認せよ。

解答・解説を見る

シクロペンテンは、環(炭素5個)の中に二重結合を1つ持つシクロアルケンです。シクロアルケンの一般式は $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$ なので、$n=5$ を代入すると、

$\ce{C5H_{2\times5-2}} = \ce{C5H8}$

一方、1-ペンチンは炭素数5のアルキンです。アルキンの一般式も $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$ なので、同じく $n=5$ を代入すると、

$\ce{C5H_{2\times5-2}} = \ce{C5H8}$

どちらも一般式 $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$($n=5$)から $\ce{C5H8}$ となり、分子式が一致することが確認できます。これは、シクロアルケンが「環1個+二重結合1個」、アルキンが「三重結合1個(π結合2本)」というように、どちらも単結合だけのアルカンに比べて水素原子を4個減らす構造になっているためです。

答え:シクロアルケンとアルキンはどちらも一般式 $\mathrm{C_nH_{2n-2}}$ で表され、$n=5$ のときどちらも $\ce{C5H8}$ となり分子式が一致する。

練習問題

問題

シクロプロパンとプロペン(プロピレン)は、どちらも分子式 $\ce{C3H6}$ で表される。この2つが構造異性体の関係にある理由を、一般式の観点から簡潔に説明せよ。

答え

シクロプロパン(環式・飽和)もプロペン(鎖式・不飽和、二重結合1個)も、一般式 $\mathrm{C_nH_{2n}}$(シクロアルカンの一般式、およびアルケンの一般式)にあてはまり、$n=3$ のときどちらも $\ce{C3H6}$ となるため、分子式が一致する構造異性体の関係にある。