有機化学 / 高分子化合物
天然高分子(糖類)
要点整理
単糖類:グルコースとフルクトース
単糖類は、それ以上加水分解されない糖類の最小単位です。代表的な単糖類であるグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)は、どちらも分子式 $\ce{C6H12O6}$ で表される構造異性体です。
- グルコース:鎖状構造ではホルミル基($\ce{-CHO}$)をもつアルデヒド構造。水溶液中では、大部分がホルミル基の炭素と離れた位置のヒドロキシ基が結びついた環状構造(六員環)として存在するが、ごくわずかに開環した鎖状構造(アルデヒド構造)とも平衡状態にある。
- フルクトース:鎖状構造ではケトン構造($\ce{C=O}$ が鎖の中間にある)をもつ。
グルコースもフルクトースも、水溶液中では環状構造(グルコースは六員環、フルクトースは五員環が多い)として存在していますが、この環状構造は、鎖状構造のカルボニル基とヒドロキシ基が分子内で結合してできたヘミアセタール(グルコース)・ヘミケタール(フルクトース)構造であり、水溶液中でわずかに開環して鎖状構造に戻ることができます。
単糖類の還元性
グルコースは、鎖状構造にホルミル基をもつため、還元性を示します。銀鏡反応やフェーリング液の還元によって、それぞれ銀の析出・酸化銅(I)の赤色沈殿を生じます。
フルクトースはケトンであり、ホルミル基をもたないにもかかわらず、実はフルクトースも還元性を示します。これは、フェーリング液のような塩基性の強い条件のもとでは、ケトースであるフルクトースの構造がエンジオール(隣り合う2つの炭素にヒドロキシ基がついた二重結合構造)を経て、ホルミル基をもつアルドースの構造に異性化してしまうためです。つまり、フルクトースそのものが直接還元剤としてはたらくというより、塩基性の反応条件のもとで一部がアルデヒド構造に変化することで、還元性を示すようになります。
注意:「還元性を示すのはアルデヒド(ホルミル基)だけ」という理解は半分正しいですが、フルクトースのように、反応条件下で異性化してホルミル基が現れる例外があることも覚えておきましょう。
二糖類:スクロースとマルトース
二糖類は、2分子の単糖が、それぞれの環状構造がもつヒドロキシ基どうしで縮合してできた糖で、分子式は $\ce{C12H22O11}$ になります。
$2\ce{C6H12O6} \to \ce{C12H22O11} + \ce{H2O}$
二糖類のうち、還元性を示すかどうかは、単糖どうしを結びつけるグリコシド結合(縮合した部分)が、両方の単糖の「還元性を生み出す炭素(ヘミアセタール・ヘミケタールの炭素)」を使っているかどうかで決まります。
- スクロース(ショ糖):グルコースとフルクトースが、互いのヘミアセタール炭素・ヘミケタール炭素どうしで結合している。両方の還元性を生み出す部分が結合に使われてふさがっているため、開環してホルミル基やケトン構造が現れることができず、還元性を示さない(非還元糖)。
- マルトース(麦芽糖):グルコース2分子が、一方のヘミアセタール炭素ともう一方の(ヘミアセタール炭素ではない)ヒドロキシ基とで結合している。もう一方のグルコース単位には、還元性を生み出す部分が結合に使われずに残っているため、還元性を示す。
| 二糖類 | 構成する単糖 | 還元性 |
|---|---|---|
| スクロース | グルコース+フルクトース(両方の還元性部位が結合に使われる) | 示さない |
| マルトース | グルコース+グルコース(片方の還元性部位が残る) | 示す |
多糖類:デンプンとセルロース
多糖類は、非常に多数のグルコース単位が縮合重合してできた高分子化合物で、一般式 $(\ce{C6H10O5})_n$ で表されます。分子が非常に大きいため、還元性を生み出せる末端(還元末端)は分子全体からみてごくわずかであり、実質的に還元性を示しません。
デンプンとセルロースは、どちらもグルコースだけからできた多糖類ですが、グルコース単位どうしを結ぶグリコシド結合の種類が異なり、それによって構造と性質が大きく異なります。
- デンプン:グルコース単位が $\alpha$-1,4結合 でつながっている。この結合の仕方では、鎖がらせん状に巻いた構造になる。直鎖状のアミロースと、枝分かれしたアミロペクチンの2成分からなる。
- セルロース:グルコース単位が $\beta$-1,4結合 でつながっている。$\beta$結合では、隣り合うグルコース単位が交互に180°回転した形でつながるため、らせんを巻かずにまっすぐ伸びた構造になり、分子間で強く水素結合し合う(繊維としての強さのもとになる)。
ヨウ素デンプン反応
デンプン水溶液にヨウ素ヨウ化カリウム水溶液を加えると、青紫色に呈色します。これは、デンプン(特にアミロース)のらせん構造の内部の空洞に、ヨウ素分子($\ce{I2}$、実際には $\ce{I3-}$ などの形)が取り込まれることによって起こる呈色で、加熱するとらせん構造がゆるんでヨウ素が抜け出し、色が消え、冷却すると再びらせん構造ができて色が戻ります。
一方、セルロースは $\beta$-1,4結合によってまっすぐな構造をとり、らせん構造をつくらないため、ヨウ素デンプン反応を示しません。このように、同じグルコースからできた多糖類でも、グリコシド結合の種類の違いが、らせん構造の有無、ひいてはヨウ素との呈色反応の有無にまで影響しているのです。
同様に、人間の消化酵素(アミラーゼ)は $\alpha$-1,4結合を分解できますが $\beta$-1,4結合は分解できないため、デンプンは消化できてもセルロースは消化できません。これも、グリコシド結合の種類の違いが生物学的な性質にまで影響する例です。
例題
例題1(基本)
問題
グルコースは還元性を示すが、その理由を構造にもとづいて説明せよ。また、フルクトースも還元性を示す理由を、グルコースの場合と対比しながら説明せよ。
解答・解説を見る
グルコースは、水溶液中でほとんどが環状構造として存在するが、ごくわずかに開環した鎖状構造(ホルミル基 $\ce{-CHO}$ をもつアルデヒド構造)とも平衡になっている。このホルミル基が銀イオンや銅(II)イオンを還元するため、グルコースは還元性を示す。
フルクトースはケトン構造をもち、直接ホルミル基をもつわけではないが、フェーリング液のような強い塩基性条件のもとでは、エンジオール構造を経てホルミル基をもつ構造に異性化する。この異性化によって生じたホルミル基が還元性を示すため、フルクトースも(間接的にではあるが)還元性を示す。
答え:グルコースは開環時に生じるホルミル基によって直接還元性を示す。フルクトースは塩基性条件下でホルミル基をもつ構造に異性化することで、間接的に還元性を示す。
例題2(標準)
問題
スクロースは還元性を示さないが、マルトースは還元性を示す。この違いを、それぞれの二糖を構成する単糖どうしの結合の仕方から説明せよ。
解答・解説を見る
二糖類が還元性を示すかどうかは、単糖どうしを結ぶグリコシド結合が、還元性のもとになる炭素(ヘミアセタール・ヘミケタールの炭素)をふさいでしまっているかどうかで決まる。
スクロースは、グルコースのヘミアセタール炭素とフルクトースのヘミケタール炭素どうしが直接結合してできている。両方の単糖の「還元性を生み出す部分」が結合に使われてふさがっているため、どちらの単糖も開環してホルミル基やケトン構造を現すことができず、還元性を示さない。
マルトースは、一方のグルコースのヘミアセタール炭素と、もう一方のグルコースの(ヘミアセタール炭素ではない)ヒドロキシ基とが結合してできている。もう一方のグルコース単位には、ヘミアセタール炭素が結合に使われずに残っているため、開環してホルミル基を現すことができ、還元性を示す。
答え:スクロースは両方の単糖の還元性を生み出す炭素どうしが結合に使われふさがるため還元性を示さないが、マルトースは片方のグルコースの還元性を生み出す炭素が結合に使われず残るため還元性を示す。
例題3(応用)
問題
デンプンとセルロースは、どちらもグルコースのみからなる多糖類であるにもかかわらず、デンプンはヨウ素デンプン反応を示し消化酵素で分解されるが、セルロースはどちらも示さない。この違いをグリコシド結合の種類から説明せよ。
解答・解説を見る
デンプンは、グルコース単位が $\alpha$-1,4結合でつながっており、この結合の仕方では分子鎖がらせん状に巻いた構造をとる。このらせん構造の内部の空洞にヨウ素分子が取り込まれることで、ヨウ素デンプン反応(青紫色の呈色)が起こる。また、ヒトの消化酵素であるアミラーゼは $\alpha$-1,4結合を認識して分解できるため、デンプンは消化される。
セルロースは、グルコース単位が $\beta$-1,4結合でつながっている。この結合では隣り合うグルコース単位が交互に180°回転した向きでつながるため、らせんを巻かずにまっすぐ伸びた構造になる。らせん構造をもたないためヨウ素分子を取り込む空洞がなく、ヨウ素デンプン反応を示さない。また、ヒトの消化酵素は $\beta$-1,4結合を分解できないため、セルロースは消化されない。
答え:デンプンは $\alpha$-1,4結合によりらせん構造をとりヨウ素を取り込めるが、セルロースは $\beta$-1,4結合によりまっすぐな構造をとりらせん構造をもたないため、ヨウ素デンプン反応を示さず、また消化酵素にも分解されない。
練習問題
問題
スクロースを希硫酸とともに加熱すると加水分解が起こり、得られた溶液はフェーリング液を還元するようになった。この変化を説明せよ。
答え
スクロースは還元性を示さないが、加水分解されるとグルコースとフルクトースに分解される。
$\ce{C12H22O11 + H2O -> C6H12O6(グルコース) + C6H12O6(フルクトース)}$
生成したグルコースとフルクトースは、どちらも還元性を示す単糖であるため、加水分解後の溶液はフェーリング液を還元するようになる。