化学 / 溶液
浸透圧
要点整理
半透膜と浸透
セロハン膜のように、水のような小さい溶媒分子は通すが、デンプンや塩類のような大きい溶質粒子は通さない膜を半透膜といいます。
半透膜を隔てて、片側に純粋な水、もう片側に砂糖水を入れて放置すると、水分子は半透膜を自由に通り抜けられるので、水は両側の「水の割合」を均一にしようとする向き、つまり水の少ない砂糖水側へ移動していきます。この現象を浸透といいます。放っておくと砂糖水側の液面はどんどん上昇していきます。
この液面の上昇を止めるために、砂糖水側に外部から加える必要がある圧力を浸透圧といい、記号 $\Pi$(パイ)で表します。
ファントホッフの法則
オランダの化学者ファントホッフは、希薄溶液の浸透圧について、次の関係が成り立つことを見出しました。
$\Pi V = nRT$
ここで、$V$ は溶液の体積、$n$ は溶質の物質量、$R$ は気体定数、$T$ は絶対温度です。この式は、気体の状態方程式 $pV=nRT$ と全く同じ形をしていることに気づくでしょう。これは偶然ではなく、溶液中で溶質粒子が熱運動によって溶媒中を飛び回るようすが、気体分子の運動と似たふるまいをすることに由来しています。
$c=\dfrac{n}{V}$(モル濃度)を使うと、次のようにも書けます。
$\Pi = cRT$
電解質の場合は、これまでの束一的性質と同様に、電離後の粒子の総物質量(または総モル濃度)を使う必要があります。
計算するときは、気体定数 $R$ の単位に注意しましょう。圧力を $\mathrm{Pa}$、体積を $\mathrm{L}$ で扱う場合は $R=8.3\times10^{3}\ \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}$、圧力を $\mathrm{atm}$ で扱う場合は $R=0.082\ \mathrm{atm\cdot L/(mol\cdot K)}$ を使います。単位をそろえないまま計算すると、答えが桁違いになってしまうので注意が必要です。
例題
例題1(基本)
問題
$27\ \mathrm{^\circ C}$ における $0.10\ \mathrm{mol/L}$ グルコース水溶液の浸透圧を求めよ。気体定数は $R=8.3\times10^{3}\ \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}$ とする。
解答・解説を見る
絶対温度は $T=27+273=300\ \mathrm{K}$ です。$\Pi=cRT$ に代入します。
$\Pi = 0.10\times(8.3\times10^{3})\times300$
数字の部分をまとめて計算すると、$0.10\times8.3\times300=249$ なので、
$\Pi = 249\times10^{3}\ \mathrm{Pa} \approx 2.5\times10^{5}\ \mathrm{Pa}$
答え:$\Pi \approx 2.5\times10^{5}\ \mathrm{Pa}$
例題2(標準)
問題
ある高分子化合物 $1.0\ \mathrm{g}$ を水に溶かして $250\ \mathrm{mL}$ とした溶液の、$27\ \mathrm{^\circ C}$ における浸透圧は $1.0\times10^{3}\ \mathrm{Pa}$ であった。この高分子化合物のモル質量を求めよ。$R=8.3\times10^{3}\ \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}$ とする。
解答・解説を見る
$\Pi V=nRT$ を $n$ について解くと $n=\dfrac{\Pi V}{RT}$ です。$V=250\ \mathrm{mL}=0.250\ \mathrm{L}$、$T=300\ \mathrm{K}$ を代入します。
$n = \frac{1.0\times10^{3}\times0.250}{8.3\times10^{3}\times300} = \frac{250}{2.49\times10^{6}} \approx 1.0\times10^{-4}\ \mathrm{mol}$
モル質量は、質量を物質量で割って求めます。
$M = \frac{1.0}{1.0\times10^{-4}} = 1.0\times10^{4}\ \mathrm{g/mol}$
答え:モル質量は約 $1.0\times10^{4}\ \mathrm{g/mol}$
タンパク質や合成高分子のようにモル質量が非常に大きい物質では、同じ質量を溶かしても物質量 $n$ がとても小さくなるため、凝固点降下や沸点上昇では変化量が小さすぎて測定が難しくなります。浸透圧は同じ物質量でも比較的大きな圧力として測定できるため、高分子のモル質量の測定によく利用されます。
例題3(応用)
問題
体液(血液)の浸透圧は、体温 $37\ \mathrm{^\circ C}$ において約 $7.7\times10^{5}\ \mathrm{Pa}$ である。これと等しい浸透圧を持つ塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)をつくるには、$\ce{NaCl}$ のモル濃度を何 $\mathrm{mol/L}$ にすればよいか。$\ce{NaCl}$ は水溶液中で完全に電離するものとし、$R=8.3\times10^{3}\ \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}$ とする。
解答・解説を見る
絶対温度は $T=37+273=310\ \mathrm{K}$ です。$\Pi=cRT$ の $c$ は、電離後の粒子の総モル濃度であることに注意して、まず $c$ を求めます。
$c = \frac{\Pi}{RT} = \frac{7.7\times10^{5}}{8.3\times10^{3}\times310}$
分母を計算すると $8.3\times10^{3}\times310=2.573\times10^{6}$ なので、
$c = \frac{7.7\times10^{5}}{2.573\times10^{6}} \approx 0.30\ \mathrm{mol/L}$
これは $\ce{Na+}$ と $\ce{Cl-}$ を合わせた粒子の総モル濃度です。$\ce{NaCl}$ は電離して2つの粒子になるので、$\ce{NaCl}$ 自体のモル濃度 $c_{\ce{NaCl}}$ は、この半分になります。
$c_{\ce{NaCl}} = \frac{0.30}{2} = 0.15\ \mathrm{mol/L}$
答え:$\ce{NaCl}$ のモル濃度を約 $0.15\ \mathrm{mol/L}$ にすればよい
実際に病院などで使われる生理食塩水は、質量パーセント濃度で約 $0.9\%$(モル濃度でおよそ $0.15\ \mathrm{mol/L}$)の塩化ナトリウム水溶液であり、この計算結果とよく一致しています。生理食塩水は、体液と浸透圧がほぼ等しくなるように濃度が調整されているのです。
練習問題
問題
$27\ \mathrm{^\circ C}$ で $0.020\ \mathrm{mol/L}$ のスクロース(非電解質)水溶液の浸透圧を求めよ。$R=8.3\times10^{3}\ \mathrm{Pa\cdot L/(mol\cdot K)}$ とする。
答え
$T=300\ \mathrm{K}$、$\Pi=cRT=0.020\times8.3\times10^{3}\times300=4.98\times10^{4}\ \mathrm{Pa}\approx5.0\times10^{4}\ \mathrm{Pa}$