有機化学 / 高分子化合物

アミノ酸とタンパク質

要点整理

アミノ酸の構造と両性電解質としての性質

タンパク質を構成するアミノ酸の多くは、同じ炭素原子(α炭素)に、アミノ基($\ce{-NH2}$)とカルボキシ基($\ce{-COOH}$)の両方が結合したα-アミノ酸です。一般式で表すと次のようになります。

$\ce{H2N-CHR-COOH}$

($R$ はアミノ酸の種類によって異なる側鎖)

この構造から、アミノ酸は分子内に酸性の官能基(カルボキシ基)と塩基性の官能基(アミノ基)を両方もつことがわかります。このような、酸としても塩基としてもはたらくことができる物質を両性電解質と呼びます。

溶液のpHによる構造の変化

アミノ酸は、水溶液のpHに応じて、次の3つの形のいずれかで存在します。

溶液のpH アミノ酸の主な形 全体の電荷
酸性(低いpH) $\ce{H3N+-CHR-COOH}$(アミノ基が $\ce{H+}$ を受け取る)
等電点付近 $\ce{H3N+-CHR-COO-}$(双性イオン) 0(正味)
塩基性(高いpH) $\ce{H2N-CHR-COO-}$(カルボキシ基が $\ce{H+}$ を失う)

注目すべきは、中性に近いpHでも、アミノ酸は $\ce{H2N-CHR-COOH}$ という「電荷をもたない形」で存在しているわけではないという点です。実際には、カルボキシ基が $\ce{H+}$ を放出すると同時に、その $\ce{H+}$ をアミノ基が受け取り、$\ce{H3N+-CHR-COO-}$ という、正電荷と負電荷を同一分子内にあわせもつ双性イオンとして存在しています。これは、酸性の官能基と塩基性の官能基が同じ分子内に共存しているために起こる現象です。

等電点

アミノ酸分子全体を見たときの電荷が、ちょうど正味0になるpHを等電点と呼びます。等電点では、アミノ酸のほとんどが双性イオン(正・負の電荷を打ち消し合って全体では0)として存在しています。

等電点は、アミノ酸の種類(側鎖 $R$ の性質)によって異なります。

  • 側鎖に酸性の官能基(カルボキシ基など)をもつアミノ酸(例:アスパラギン酸、グルタミン酸)は、負電荷を帯びやすいため、等電点が低くなる。
  • 側鎖に塩基性の官能基(アミノ基など)をもつアミノ酸(例:リシン)は、正電荷を帯びやすいため、等電点が高くなる。
  • 側鎖が中性のアミノ酸(例:グリシン、アラニン)は、等電点はおおよそ中性付近(pH 5〜6程度)になる。

等電点は、電気泳動によるアミノ酸の分離にも利用されます。電場の中にアミノ酸の溶液を置くと、溶液のpHが等電点よりも低ければアミノ酸は正に帯電して陰極側へ、高ければ負に帯電して陽極側へ移動します。ちょうど等電点のpHでは、正味の電荷が0なのでどちらの極にも移動しません。

ペプチド結合とタンパク質の構造

2分子のアミノ酸が、一方のカルボキシ基と他方のアミノ基の間で水1分子がとれて縮合すると、$\ce{-CO-NH-}$ という結合ができます。これをペプチド結合と呼びます。

$\ce{H2N-CHR1-COOH + H2N-CHR2-COOH -> H2N-CHR1-CO-NH-CHR2-COOH + H2O}$

多数のアミノ酸がペプチド結合で次々とつながったものがポリペプチドであり、タンパク質はこのポリペプチド鎖(またはその集合体)です。タンパク質の立体構造は、次のような階層に分けて考えられます。

構造の階層 内容
一次構造 ポリペプチド鎖を構成するアミノ酸の配列順序
二次構造 ペプチド結合の $\ce{N-H}$ と $\ce{C=O}$ の間の水素結合による、部分的に規則正しい立体構造($\alpha$ヘリックス、$\beta$シートなど)
三次構造 側鎖どうしの相互作用(水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、システインどうしのジスルフィド結合など)による、1本のポリペプチド鎖全体の立体的な折りたたみ
四次構造 複数のポリペプチド鎖(サブユニット)が組み合わさってできる、より大きな複合体の構造

タンパク質の検出反応

ビウレット反応は、水酸化ナトリウム水溶液を加えて塩基性にした後、少量の硫酸銅(II)水溶液を加えると、赤紫色に呈色する反応です。この呈色は、銅(II)イオンがペプチド結合中の窒素原子と錯体をつくることで起こるため、2個以上のペプチド結合(トリペプチド以上、つまりタンパク質のような長いポリペプチド)が必要です。アミノ酸単体やジペプチド(ペプチド結合が1個しかない)では、ビウレット反応は陽性になりません。

キサントプロテイン反応は、濃硝酸を加えて加熱すると黄色に呈色し、さらに冷やしてからアンモニア水を加えて塩基性にすると橙黄色が濃くなる反応です。これは、ベンゼン環をもつアミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンなどの芳香族アミノ酸)の側鎖のベンゼン環が、濃硝酸によってニトロ化されることで起こります。そのため、この反応は「ペプチド結合の有無」ではなく「芳香族アミノ酸を含んでいるかどうか」を調べる検出反応です。

反応名 検出する構造 呈色
ビウレット反応 ペプチド結合が2個以上(トリペプチド以上) 赤紫色
キサントプロテイン反応 芳香族アミノ酸のベンゼン環 黄色(さらに橙黄色)

例題

例題1(基本)

問題

グリシン($R=\ce{H}$ のアミノ酸)を、(1)強い酸性の水溶液、(2)等電点付近の水溶液、(3)強い塩基性の水溶液、に溶かしたとき、それぞれどのような形(イオンの種類)で主に存在するかを構造式で答えよ。

解答・解説を見る

アミノ酸は両性電解質であり、溶液のpHに応じてアミノ基・カルボキシ基の電離状態が変化する。

(1) 強い酸性の水溶液中では、カルボキシ基は電離せず、アミノ基が $\ce{H+}$ を受け取った陽イオンとして存在する:$\ce{H3N+-CH2-COOH}$

(2) 等電点付近では、カルボキシ基が $\ce{H+}$ を放出し、その $\ce{H+}$ をアミノ基が受け取った双性イオンとして存在する:$\ce{H3N+-CH2-COO-}$(正味の電荷は0)

(3) 強い塩基性の水溶液中では、アミノ基は $\ce{H+}$ を受け取らず、カルボキシ基が $\ce{H+}$ を放出した陰イオンとして存在する:$\ce{H2N-CH2-COO-}$

答え:(1) $\ce{H3N+-CH2-COOH}$(陽イオン) (2) $\ce{H3N+-CH2-COO-}$(双性イオン、正味の電荷0) (3) $\ce{H2N-CH2-COO-}$(陰イオン)

例題2(標準)

問題

タンパク質の水溶液に(a)ビウレット反応、(b)キサントプロテイン反応、をそれぞれ行ったとき、何が検出できるか、また呈色の色を答えよ。さらに、これら2つの反応が、それぞれタンパク質のどのような構造的特徴に基づいているかを説明せよ。

解答・解説を見る

(a) ビウレット反応

水酸化ナトリウム水溶液と少量の硫酸銅(II)水溶液を加えると赤紫色に呈色する。これは、銅(II)イオンが2個以上のペプチド結合と錯体を形成することで起こる呈色であり、タンパク質のようにペプチド結合が連続して存在する構造(一次構造)を検出している。

(b) キサントプロテイン反応

濃硝酸を加えて加熱すると黄色に呈色し、アンモニア水を加えるとさらに橙黄色になる。これは、側鎖に**ベンゼン環をもつアミノ酸(芳香族アミノ酸)**が濃硝酸によってニトロ化されることで起こる呈色であり、ペプチド結合の有無ではなく、含まれるアミノ酸の種類(側鎖の構造)を検出している。

答え:(a) ペプチド結合(2個以上)を検出し、赤紫色に呈色する。(b) 芳香族アミノ酸(ベンゼン環をもつ側鎖)を検出し、黄色(さらに橙黄色)に呈色する。

例題3(応用)

問題

グリシルグリシン(グリシン2分子からなるジペプチド)の水溶液にビウレット反応を行っても、赤紫色には呈色しない。この理由を説明せよ。

解答・解説を見る

ビウレット反応が赤紫色に呈色するのは、銅(II)イオンが2個以上連続したペプチド結合と錯体を形成するためである。グリシルグリシンは、グリシン2分子が1つのペプチド結合で結びついたジペプチドであり、分子内にペプチド結合を1個しかもたない

銅(II)イオンとの錯体形成には、隣り合う2個以上のペプチド結合(トリペプチド以上に相当)が必要であるため、ペプチド結合が1個しかないジペプチドでは、ビウレット反応は陽性にならない。

答え:ビウレット反応の呈色には2個以上のペプチド結合が必要だが、ジペプチドであるグリシルグリシンにはペプチド結合が1個しかないため、赤紫色に呈色しない。

練習問題

問題

あるタンパク質の水溶液にキサントプロテイン反応を行ったところ、陽性(黄色に呈色)であった。この結果から、このタンパク質についてどのようなことがわかるか答えよ。

答え

キサントプロテイン反応は、側鎖にベンゼン環をもつ芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニンなど)の検出反応である。陽性であったことから、このタンパク質は芳香族アミノ酸を含んでいることがわかる。