化学 / 物質の状態変化
蒸気圧と沸点
要点整理
飽和蒸気圧とは
密閉した容器に液体を入れて放置すると、液体の表面からは分子が蒸発して気体になる一方で、気体になった分子の一部は再び液体に戻ります(凝縮)。はじめのうちは蒸発する分子の数の方が多いため、容器内の蒸気の圧力はしだいに大きくなっていきますが、蒸気の圧力が大きくなるにつれて凝縮する分子の数も増えていき、やがて「蒸発する速さ」と「凝縮する速さ」がつり合った状態になります。この状態を気液平衡といい、このときの蒸気の圧力を飽和蒸気圧(単に蒸気圧ともいう)といいます。
重要な性質として、飽和蒸気圧は温度だけで決まり、容器の体積や、容器内に残っている液体の量には関係ありません(液体が少しでも残っている限り、体積を変えても蒸気圧は変化しません)。温度が高くなるほど、分子の熱運動が激しくなって蒸発しやすくなるため、飽和蒸気圧は大きくなります。
蒸気圧曲線
横軸に温度、縦軸に飽和蒸気圧をとってグラフに描くと、温度が高くなるほど飽和蒸気圧も大きくなる、右上がりの曲線が得られます。これを蒸気圧曲線といいます。例えば、水の飽和蒸気圧はおよそ次のような値になることが知られています。
| 温度 | 飽和蒸気圧 |
|---|---|
| $20℃$ | $2.3\times10^3\ \mathrm{Pa}$ |
| $40℃$ | $7.4\times10^3\ \mathrm{Pa}$ |
| $60℃$ | $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$ |
| $80℃$ | $4.7\times10^4\ \mathrm{Pa}$ |
| $100℃$ | $1.013\times10^5\ \mathrm{Pa}$ |
沸点の定義
液体を加熱していくと、液体の飽和蒸気圧はしだいに大きくなっていきます。液体の飽和蒸気圧が、液面にかかっている外部の圧力(通常は大気圧)と等しくなると、液体の内部からも気泡が発生して盛んに蒸発するようになります。この現象を沸騰といい、沸騰が起こる温度、すなわち「飽和蒸気圧が外部の圧力(大気圧)と等しくなる温度」を沸点と呼びます。
この定義から、外部の圧力が変われば、沸点も変わることがわかります。標高の高い山の上では大気圧が低いため、水の飽和蒸気圧がより低い温度で大気圧と等しくなり、水は $100℃$ より低い温度で沸騰します。逆に、圧力鍋の中のように外部の圧力を高くすると、水はより高い温度にならないと沸騰しなくなります(沸点が上昇する)。
密閉容器内の液体の蒸発を扱う問題の考え方
一定の体積・温度の密閉容器に液体を入れたとき、液体がすべて蒸発するか、それとも一部が液体のまま残るかを判定する問題では、次の手順で考えます。
- 容器に入れた物質の質量から物質量 $n$ を求め、「もしすべて気体になったとしたら」という仮定のもとで、状態方程式 $PV=nRT$ を使って圧力 $P$ を計算する。
- その温度における飽和蒸気圧の値と、1.で求めた $P$ を比較する。
- $P$ が飽和蒸気圧より小さい(または等しい)場合:仮定どおりすべて気体になっており、実際の圧力は1.で求めた $P$ に等しい。
- $P$ が飽和蒸気圧より大きい場合:これは矛盾(気体はそんなに高い圧力にはなれず、途中で凝縮が始まる)なので、実際には液体の一部が蒸発しきれずに残り、蒸気の圧力は飽和蒸気圧に等しくなる。
例題
例題1(基本)
問題
上の表(水の飽和蒸気圧)を用いて、大気圧が $4.7\times10^4\ \mathrm{Pa}$ しかない山の頂上では、水は何℃で沸騰するか答えよ。
解答・解説を見る
沸点は「飽和蒸気圧が外部の圧力(大気圧)と等しくなる温度」です。表より、水の飽和蒸気圧が $4.7\times10^4\ \mathrm{Pa}$ になるのは $80℃$ のときなので、この山の頂上では水は $80℃$ で沸騰します。標高が高く大気圧が低い場所では、標準の大気圧($1.013\times10^5\ \mathrm{Pa}$)のときの沸点($100℃$)よりも低い温度で沸騰することがわかります。
答え:$80℃$
例題2(標準)
問題
体積 $1.0\ \mathrm{L}$ の真空の容器に、水 $0.10\ \mathrm{g}$ を入れて $60℃$ に保った。$60℃$ における水の飽和蒸気圧を $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$、水のモル質量を $18\ \mathrm{g/mol}$、気体定数を $R=8.3\times10^3\ \mathrm{Pa\cdot L/(K\cdot mol)}$ として、容器内の水はすべて蒸発するかどうかを判定し、そのときの容器内の圧力を求めよ。
解答・解説を見る
まず、水がすべて気体になったと仮定して、そのときの圧力を計算します。物質量は、
$n = \frac{0.10}{18} = 5.6\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$
絶対温度は $T=60+273=333\ \mathrm{K}$ です。状態方程式 $PV=nRT$ より、
$P = \frac{nRT}{V} = \frac{5.6\times10^{-3}\times8.3\times10^3\times333}{1.0}$
$\approx 1.5\times10^4\ \mathrm{Pa}$
この仮定の圧力 $1.5\times10^4\ \mathrm{Pa}$ を、$60℃$ における飽和蒸気圧 $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$ と比較すると、仮定の圧力の方が小さいので、矛盾なくすべて気体になれることがわかります。したがって、水はすべて蒸発し、容器内の圧力は $1.5\times10^4\ \mathrm{Pa}$ になります。
答え:水はすべて蒸発する。容器内の圧力は約 $1.5\times10^4\ \mathrm{Pa}$
例題3(応用)
問題
体積 $1.0\ \mathrm{L}$ の真空の容器に、水 $0.50\ \mathrm{g}$ を入れて $60℃$ に保った。$60℃$ における水の飽和蒸気圧を $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$、水のモル質量を $18\ \mathrm{g/mol}$、気体定数を $R=8.3\times10^3\ \mathrm{Pa\cdot L/(K\cdot mol)}$ として、次の問いに答えよ。
(1) 水がすべて蒸発すると仮定したときの圧力を求め、実際に水がすべて蒸発するかどうかを判定せよ。 (2) 容器内の圧力(実際の値)を求めよ。 (3) 気体として存在している水の質量と、液体として残っている水の質量を、それぞれ求めよ。
解答・解説を見る
(1)
物質量は、
$n = \frac{0.50}{18} = 2.8\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$
すべて気体になったと仮定して、$T=333\ \mathrm{K}$ を用いると、
$P = \frac{nRT}{V} = \frac{2.8\times10^{-2}\times8.3\times10^3\times333}{1.0} \approx 7.7\times10^4\ \mathrm{Pa}$
この値は、$60℃$ における飽和蒸気圧 $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$ よりも大きいため、この仮定は矛盾しています。実際には、水はすべて蒸発することはできず、一部が液体のまま残ります。
(2)
液体が少しでも残っていれば、容器内の蒸気は気液平衡の状態にあるので、蒸気の圧力は飽和蒸気圧に等しくなります。
$P = 2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$
(3)
気体として存在している水の物質量は、実際の圧力(飽和蒸気圧)を使って、状態方程式から逆算できます。
$n_{\text{気体}} = \frac{PV}{RT} = \frac{2.0\times10^4\times1.0}{8.3\times10^3\times333} \approx 7.2\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$
質量に直すと、
$w_{\text{気体}} = 7.2\times10^{-3}\times18 \approx 0.13\ \mathrm{g}$
したがって、液体として残っている水の質量は、
$w_{\text{液体}} = 0.50-0.13 = 0.37\ \mathrm{g}$
答え:(1) 仮定の圧力 約 $7.7\times10^4\ \mathrm{Pa}$、これは飽和蒸気圧を超えるため、すべては蒸発しない (2) $2.0\times10^4\ \mathrm{Pa}$ (3) 気体:約 $0.13\ \mathrm{g}$、液体:約 $0.37\ \mathrm{g}$
練習問題
問題
標準大気圧($1.013\times10^5\ \mathrm{Pa}$)のもとでのエタノールの沸点は $78℃$ である。大気圧が $6.3\times10^4\ \mathrm{Pa}$ しかない山の頂上では、エタノールの沸点は $78℃$ より高くなるか、低くなるか。理由とともに答えよ。
答え
低くなる。沸点は「飽和蒸気圧が外部の圧力と等しくなる温度」であり、外部の圧力(大気圧)が低いほど、より低い温度で飽和蒸気圧がその値に達するため、沸点は低くなる。