化学 / 化学結合と結晶
分子結晶と分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)
要点整理
分子結晶と分子間力
ドライアイス($\ce{CO2}$)やヨウ素($\ce{I2}$)、氷($\ce{H2O}$)のように、分子が規則正しく配列してできた結晶を分子結晶といいます。分子結晶では、分子の内部の原子どうしは強い共有結合で結びついていますが、分子と分子の間は、共有結合よりもずっと弱い分子間力という力で結びついているだけです。
このため、分子結晶は一般に、イオン結晶や共有結合の結晶に比べて融点・沸点が低く、軟らかいという特徴があります。分子間力には、大きく分けて「ファンデルワールス力」と「水素結合」の2種類があります。
ファンデルワールス力
ファンデルワールス力は、極性の有無にかかわらず、すべての分子(や、貴ガスのような単原子分子)の間にはたらく弱い引力です。分子中の電子は絶えず動いているため、瞬間的に電荷の偏り(瞬間的な双極子)が生じ、これが隣の分子の電子配置にも偏りを誘発することで、分子どうしが弱く引き合います。
ファンデルワールス力の強さには、次のような傾向があります。
- 分子量(電子の数)が大きいほど強くなる:電子の数が多いほど、瞬間的な電荷の偏りが大きくなりやすいため。
- 分子の接触面積が大きい(直鎖状・平たい)分子ほど強くなる:分子どうしが接触する面積が大きいほど、分子間力がはたらく箇所が増えるため。
同族元素の単体(貴ガスやハロゲンの単体)の沸点を比べると、分子量が大きくなるにつれて沸点が高くなる傾向がはっきりと現れます。これは、分子量が大きくなるほどファンデルワールス力が強くなり、分子どうしを引き離す(気体にする)のに、より多くの熱エネルギーが必要になるためです。
$\ce{F2} < \ce{Cl2} < \ce{Br2} < \ce{I2}\quad(\text{沸点が高くなる向き})$
$\ce{F2}$、$\ce{Cl2}$ は常温で気体、$\ce{Br2}$ は常温で液体、$\ce{I2}$ は常温で固体であることも、この沸点の傾向と対応しています。
水素結合
電気陰性度が非常に大きく、原子半径が小さい $\ce{F}$、$\ce{O}$、$\ce{N}$ の原子にH原子が直接結合していると、H原子は強く正に、$\ce{F}$・$\ce{O}$・$\ce{N}$ 原子は強く負に帯電します。このとき、ある分子のH原子と、別の分子の $\ce{F}$・$\ce{O}$・$\ce{N}$ 原子が、静電気的な引力によって結びつくことがあります。これを水素結合といいます。
水素結合は、ファンデルワールス力よりもかなり強い分子間力です(ただし、共有結合やイオン結合と比べればずっと弱いことに注意が必要です)。水素結合を形成する代表的な物質には、水 $\ce{H2O}$、フッ化水素 $\ce{HF}$、アンモニア $\ce{NH3}$ などがあります。
水素結合と沸点の異常
第14族~第17族の水素化合物について、分子量と沸点の関係をグラフにすると、同族元素内では分子量が大きいほど沸点が高くなる(ファンデルワールス力が強くなる)という傾向が見られます。ところが、$\ce{H2O}$、$\ce{HF}$、$\ce{NH3}$ は、この傾向から予想される値よりも著しく高い沸点を示します。
例えば、第16族の水素化合物 $\ce{H2O}$、$\ce{H2S}$、$\ce{H2Se}$、$\ce{H2Te}$ を比べると、分子量は $\ce{H2O} < \ce{H2S} < \ce{H2Se} < \ce{H2Te}$ の順に大きくなるので、ファンデルワールス力だけで考えれば沸点もこの順に高くなるはずです。しかし実際には、
$\ce{H2S} (-60℃) < \ce{H2Se} (-41℃) < \ce{H2Te} (-2℃) \ll \ce{H2O} (100℃)$
のように、分子量が最も小さい $\ce{H2O}$ の沸点が突出して高くなります。これは、$\ce{H2O}$ の分子間だけに水素結合という強い分子間力がはたらいており、$\ce{H2S}$ 以降の分子(S、Se、Teは電気陰性度がO・F・Nほど大きくないため水素結合を形成しにくい)にはファンデルワールス力しかはたらかないためです。同様に、第17族の $\ce{HF}$ や、第15族の $\ce{NH3}$ も、同族の他の水素化合物($\ce{HCl}$、$\ce{PH3}$ など)に比べて異常に高い沸点を示します。
例題
例題1(基本)
問題
次の①~④の物質のうち、分子間に水素結合を形成するものをすべて選べ。
① $\ce{CH4}$(メタン) ② $\ce{H2O}$(水) ③ $\ce{HF}$(フッ化水素) ④ $\ce{HCl}$(塩化水素)
解答・解説を見る
水素結合は、電気陰性度が大きく原子半径の小さい $\ce{F}$、$\ce{O}$、$\ce{N}$ の原子に直接結合したH原子が関わる分子間力です。$\ce{CH4}$ のC原子や $\ce{HCl}$ のCl原子は、電気陰性度が水素結合を形成するほど大きくない(あるいは原子半径が大きい)ため、水素結合は形成されません。$\ce{H2O}$ はH-O結合、$\ce{HF}$ はH-F結合を持つため、いずれも水素結合を形成します。
答え:②、③
例題2(標準)
問題
ハロゲンの単体 $\ce{F2}$、$\ce{Cl2}$、$\ce{Br2}$、$\ce{I2}$ の沸点は、この順に高くなっていく。この理由を説明せよ。
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ハロゲンの単体はいずれも無極性分子であり、これらの分子間にはたらく力はファンデルワールス力だけです。ファンデルワールス力の強さは、分子量(電子の数)が大きいほど強くなるという性質があります。
$\ce{F2}$、$\ce{Cl2}$、$\ce{Br2}$、$\ce{I2}$ の分子量は、原子番号が大きくなるにつれてこの順に大きくなっていくため、分子間にはたらくファンデルワールス力もこの順に強くなります。分子間力が強いほど、分子どうしを引き離して気体にする(沸騰させる)のに大きなエネルギーが必要になるため、沸点も $\ce{F2} < \ce{Cl2} < \ce{Br2} < \ce{I2}$ の順に高くなります。
答え:いずれも無極性分子で分子間力はファンデルワールス力のみであり、分子量が大きいほどファンデルワールス力が強くなるため、分子量が $\ce{F2}<\ce{Cl2}<\ce{Br2}<\ce{I2}$ の順に大きくなるにつれて沸点も高くなる。
例題3(応用)
問題
第15族の水素化合物である $\ce{NH3}$(分子量17)、$\ce{PH3}$(分子量34)、$\ce{AsH3}$(分子量78)の沸点は、実際にはそれぞれ $-33℃$、$-88℃$、$-62℃$ である。分子量だけから予想される沸点の順序と、実際の沸点の順序を比較し、この結果を説明せよ。
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分子量だけから予想される順序
ファンデルワールス力だけを考えるなら、分子量が大きいほど分子間力が強く沸点が高くなるはずなので、沸点の予想順序は、
$\ce{NH3}(17) < \ce{PH3}(34) < \ce{AsH3}(78)$
となるはずです。
実際の沸点の順序
しかし実際の沸点を比べると、
$\ce{PH3}(-88℃) < \ce{AsH3}(-62℃) < \ce{NH3}(-33℃)$
となっており、分子量が最も小さい $\ce{NH3}$ の沸点が、$\ce{PH3}$ や $\ce{AsH3}$ よりもかなり高くなっています。
理由
$\ce{PH3}$ や $\ce{AsH3}$ は、P、As原子の電気陰性度がN原子ほど大きくないため、分子間にはファンデルワールス力しかはたらきません。この2つを比べると、分子量が大きい $\ce{AsH3}$ の方が $\ce{PH3}$ より沸点が高く、これはファンデルワールス力の一般的な傾向と一致しています。
一方 $\ce{NH3}$ は、電気陰性度が大きく原子半径の小さいN原子にH原子が直接結合しているため、分子間に水素結合を形成できます。水素結合はファンデルワールス力よりもはるかに強い分子間力であるため、分子量が小さいにもかかわらず、$\ce{NH3}$ は $\ce{PH3}$ や $\ce{AsH3}$ よりも著しく高い沸点を示します。
答え:$\ce{PH3}$と$\ce{AsH3}$の間ではファンデルワールス力の傾向どおり分子量が大きい方が沸点が高いが、$\ce{NH3}$だけは分子間に水素結合が形成されるため、分子量が最も小さいにもかかわらず沸点が最も高くなる。
練習問題
問題
分子間力について、「ファンデルワールス力」と「水素結合」の強さを比較すると、どちらがより強い力か。また、水素結合が形成されるために必要な条件を、原子の種類に触れながら簡潔に述べよ。
答え
水素結合の方が強い。電気陰性度が大きく原子半径の小さい $\ce{F}$、$\ce{O}$、$\ce{N}$ の原子に直接結合したH原子と、別の分子中の $\ce{F}$、$\ce{O}$、$\ce{N}$ 原子との間で形成される。