無機化学 / 非金属元素

ハロゲンとその化合物

要点整理

ハロゲン単体の性質比較

17族元素であるフッ素 F、塩素 Cl、臭素 Br、ヨウ素 I は、いずれも最外殻電子を7個持ち、電子を1個受け取ってオクテット則を満たす陰イオン($\mathrm{X^-}$)になりやすいという共通点を持ちます。単体はいずれも二原子分子($\mathrm{X_2}$)として存在します。

単体 色・状態(常温) 沸点の傾向
$\mathrm{F_2}$ 淡黄色の気体 低い
$\mathrm{Cl_2}$ 黄緑色の気体
$\mathrm{Br_2}$ 赤褐色の液体
$\mathrm{I_2}$ 黒紫色の固体(昇華性がある) 高い

原子番号が大きくなるほど分子量が大きくなり分子間力(ファンデルワールス力)が強くなるため、沸点・融点は $\mathrm{F_2}$ から $\mathrm{I_2}$ に向かって高くなり、常温での状態も気体→液体→固体へと変化します。$\mathrm{I_2}$ は固体から直接気体になる昇華性を持ち、加熱すると紫色の蒸気を生じます。

酸化力の周期的な傾向

ハロゲンの単体としての酸化力は、

$\mathrm{F_2 > Cl_2 > Br_2 > I_2}$

の順に弱くなります。これは化学基礎で学んだ電気陰性度・原子半径の周期的傾向と対応しています。原子番号が大きくなるほど原子半径が大きくなり、原子核と最外殻電子の間の距離が離れる(電子殻の数が増えて遮蔽効果も大きくなる)ため、外から電子1個を引きつける力(電気陰性度)が弱まります。「電子を引きつける力が強い=酸化力が強い」ので、原子番号が小さいハロゲンほど酸化力が強くなるのです。

この酸化力の序列は、酸化力の強いハロゲン単体は、酸化力の弱いハロゲンの陰イオンから電子を奪い、その単体を遊離させるという置換反応として観察できます。

$\ce{Cl2 + 2KBr -> 2KCl + Br2}$

$\ce{Cl2 + 2KI -> 2KCl + I2}$

$\ce{Br2 + 2KI -> 2KBr + I2}$

最初の式でイオン反応式に着目すると、$\ce{Cl2 + 2Br^- -> 2Cl^- + Br2}$ であり、$\mathrm{Cl}$ の酸化数は $0 \to -1$(還元)、$\mathrm{Br}$ の酸化数は $-1 \to 0$(酸化)と変化しています。酸化力の強い $\mathrm{Cl_2}$ が酸化剤としてはたらき、酸化力の弱い $\mathrm{Br^-}$ から電子を奪ったと理解できます。逆に、酸化力の弱いハロゲン単体(例えば $\mathrm{I_2}$)を、より酸化力の強いハロゲン化物イオン(例えば $\mathrm{Cl^-}$)に加えても、反応は進みません。この「酸化力の強弱」が反応の進む向きを決めるということが、置換反応を理解する鍵になります。

ハロゲン化水素(HX)の性質

ハロゲンは水素と化合してハロゲン化水素 $\mathrm{HX}$ をつくり、いずれも水に溶けて酸性を示します。

化合物 酸としての強さ 特記事項
$\mathrm{HF}$ 弱酸(例外的に弱い) ガラスの主成分 $\mathrm{SiO_2}$ を溶かす
$\mathrm{HCl}$ 強酸 塩酸として広く利用
$\mathrm{HBr}$ 強酸
$\mathrm{HI}$ 強酸(最も強い)

$\mathrm{HF}$ は分子間で強い水素結合を作るために沸点が異常に高く、また酸としては例外的に弱酸になります(結合エネルギーが非常に大きく電離しにくいため)。一方で $\mathrm{HF}$ には、ガラスの主成分である二酸化ケイ素を溶かすという特異な性質があり、ガラスの表面加工(すりガラス)に使われます。

$\ce{SiO2 + 4HF -> SiF4 + 2H2O}$

この反応があるため、フッ化水素酸はガラス容器ではなく、ポリエチレンなどの容器で保存します。

塩素の実験室的製法

実験室では、酸化マンガン(IV)に濃塩酸を加えて加熱することで塩素を発生させます。

$\ce{MnO2 + 4HCl -> MnCl2 + Cl2 ^ + 2H2O}$

$\mathrm{Mn}$ の酸化数は $+4 \to +2$(還元)、塩化物イオンのうち一部の $\mathrm{Cl}$ は $-1 \to 0$(酸化)へと変化しており、$\mathrm{MnO_2}$ が酸化剤としてはたらく酸化還元反応です(4個の $\mathrm{Cl}$ のうち2個だけが酸化されて $\mathrm{Cl_2}$ になり、残り2個は $\mathrm{MnCl_2}$ の陰イオンとしてそのまま残る点に注意)。発生した塩素は空気より重く、水に少し溶けるため、下方置換で捕集します。

塩素は水に溶けると一部が反応し、次亜塩素酸を生じます。

$\ce{Cl2 + H2O <=> HCl + HClO}$

次亜塩素酸 $\mathrm{HClO}$ は強い酸化力を持ち、これが塩素水や、さらし粉・塩素系漂白剤の殺菌・漂白作用のもとになっています。

塩素を水酸化ナトリウム水溶液に吸収させると、次のような反応が起こります。

$\ce{Cl2 + 2NaOH -> NaCl + NaClO + H2O}$

この反応では塩素原子が $\mathrm{Cl^-}$($-1$)と $\mathrm{ClO^-}$($+1$)の両方に変化しており、同じ元素が酸化数の異なる2種類の生成物に分かれる**自己酸化還元反応(不均化反応)**の代表例です。

ハロゲン化銀と沈殿反応

銀イオン $\mathrm{Ag^+}$ とハロゲン化物イオンは、$\mathrm{AgF}$ を除いていずれも水に溶けにくい沈殿を作ります。色の違いと、光による分解性(感光性)は写真フィルムにも応用されてきた重要な性質です。

沈殿 水への溶解性
$\mathrm{AgF}$ 例外的に水に溶ける
$\mathrm{AgCl}$ 白色 溶けにくい
$\mathrm{AgBr}$ 淡黄色 溶けにくい
$\mathrm{AgI}$ 黄色 溶けにくい(最も溶けにくい)

$\ce{Ag+ + Cl- -> AgCl v}$

これらのハロゲン化銀は光を当てると分解して銀の単体を析出する感光性を持ちます。

$\ce{2AgBr -> 2Ag + Br2}$

また、$\mathrm{AgCl}$ はアンモニア水を過剰に加えると、錯イオンを作って溶解します。

$\ce{AgCl + 2NH3 -> [Ag(NH3)2]+ + Cl-}$

$\mathrm{AgBr}$ は濃いアンモニア水にわずかに溶けますが、$\mathrm{AgI}$ はアンモニア水にはほとんど溶けません。この溶解性の違いは、ハロゲン化物イオンの中でどのイオンが含まれているかを見分ける実験(定性分析)に利用されます。

例題

例題1(基本)

問題

塩素水にヨウ化カリウム水溶液を加えると、溶液が黄褐色に変化した。(1) この反応の化学反応式を書け。(2) この反応が起こる理由を、ハロゲンの酸化力の強さの順序に触れて説明せよ。

解答・解説を見る

(1)

$\ce{Cl2 + 2KI -> 2KCl + I2}$

(2)

ハロゲン単体の酸化力は $\mathrm{Cl_2 > Br_2 > I_2}$ の順に強く、原子番号の小さい塩素は原子番号の大きいヨウ素よりも酸化力が強いです。そのため、酸化力の強い $\mathrm{Cl_2}$ がヨウ化物イオン $\mathrm{I^-}$ から電子を奪って還元され $\mathrm{Cl^-}$ になり、$\mathrm{I^-}$ は酸化されて単体の $\mathrm{I_2}$(黄褐色)が遊離します。

答え:(1) $\ce{Cl2 + 2KI -> 2KCl + I2}$ (2) 塩素はヨウ素より酸化力が強いため、ヨウ化物イオンから電子を奪って還元され、ヨウ素の単体が遊離するため。

例題2(標準)

問題

塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンをそれぞれ含む3種類の水溶液がある。これらに硝酸銀水溶液を加えたときに生じる沈殿の色をそれぞれ答えよ。また、これらの沈殿にアンモニア水を過剰に加えたときの溶けやすさの違いについて簡潔に述べよ。

解答・解説を見る

$\mathrm{Cl^-}$ を含む水溶液に $\mathrm{Ag^+}$ を加えると白色の $\mathrm{AgCl}$、$\mathrm{Br^-}$ を含む水溶液では淡黄色の $\mathrm{AgBr}$、$\mathrm{I^-}$ を含む水溶液では黄色の $\mathrm{AgI}$ の沈殿がそれぞれ生じます。

アンモニア水を過剰に加えると、$\mathrm{AgCl}$ は錯イオン $\mathrm{[Ag(NH_3)_2]^+}$ を作ってよく溶けますが、$\mathrm{AgBr}$ はわずかにしか溶けず、$\mathrm{AgI}$ はほとんど溶けません。この溶けやすさの違いを利用して、どのハロゲン化物イオンが含まれているかを区別することができます。

答え:AgCl(白)、AgBr(淡黄)、AgI(黄)。アンモニア水にはAgCl>AgBr>AgIの順に溶けやすく、AgClはよく溶けるがAgIはほとんど溶けない。

例題3(応用)

問題

塩素を水酸化ナトリウム水溶液に通じると、次の反応が起こる。

$\ce{Cl2 + 2NaOH -> NaCl + NaClO + H2O}$

この反応が酸化還元反応であることを、塩素原子の酸化数の変化を示して説明せよ。また、このような反応を何と呼ぶか答えよ。

解答・解説を見る

反応前の $\mathrm{Cl_2}$ 中の塩素原子の酸化数は $0$ です。反応後、$\mathrm{NaCl}$ 中の塩素原子(塩化物イオン $\mathrm{Cl^-}$)の酸化数は $-1$、$\mathrm{NaClO}$ 中の塩素原子(次亜塩素酸イオン $\mathrm{ClO^-}$)の酸化数は $+1$ になっています。同じ塩素という元素が、一方は還元され($0 \to -1$)、他方は酸化される($0 \to +1$)ため、この反応は酸化還元反応です。同一の元素が酸化と還元の両方を同時に起こすこのような反応を、**不均化反応(自己酸化還元反応)**と呼びます。

答え:Clの酸化数が0から-1(還元)と+1(酸化)の両方に変化しており酸化還元反応である。このような反応を不均化反応(自己酸化還元反応)という。

練習問題

問題

次の(1)〜(3)に答えよ。

(1) $\mathrm{F_2}$、$\mathrm{Cl_2}$、$\mathrm{Br_2}$、$\mathrm{I_2}$ を酸化力の強い順に並べよ。

(2) ヨウ化カリウム水溶液に臭素水を加えたとき、反応は起こるか。起こる場合は化学反応式を、起こらない場合は理由を答えよ。

(3) フッ化水素酸(HF水溶液)がガラス容器ではなく、ポリエチレン容器で保存される理由を、化学反応式を用いて説明せよ。

答え

(1) $\mathrm{F_2 > Cl_2 > Br_2 > I_2}$

(2) 起こる。臭素はヨウ素より酸化力が強いため、ヨウ化物イオンから電子を奪って還元され、ヨウ素が遊離する。$\ce{Br2 + 2KI -> 2KBr + I2}$

(3) $\ce{SiO2 + 4HF -> SiF4 + 2H2O}$ の反応により、ガラスの主成分である二酸化ケイ素がフッ化水素酸に溶かされてしまうため。