無機化学 / 遷移元素
銅とその化合物
要点整理
銅の反応性 — イオン化傾向がすべての出発点
化学基礎で学んだイオン化傾向の順序を思い出しましょう。
$\ce{Li > K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H2) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au}$
銅は水素よりイオン化傾向が小さい位置にあります。これはつまり、銅は希塩酸や希硫酸のような「酸化力のない酸」には溶けないということを意味します(鉄や亜鉛との決定的な違いです)。銅を溶かすには、水素イオンの酸としての力だけでなく、酸そのものに酸化剤としての力がある「酸化力のある酸」——希硝酸・濃硝酸・熱濃硫酸——が必要です。
銅と酸化力のある酸の反応
| 酸 | 反応式 | 発生する気体 |
|---|---|---|
| 希硝酸 | $\ce{3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 2NO ^ + 4H2O}$ | 一酸化窒素NO(無色、空気中で赤褐色のNO2に変化) |
| 濃硝酸 | $\ce{Cu + 4HNO3 -> Cu(NO3)2 + 2NO2 ^ + 2H2O}$ | 二酸化窒素NO2(赤褐色、有毒) |
| 熱濃硫酸 | $\ce{Cu + 2H2SO4 -> CuSO4 + SO2 ^ + 2H2O}$ | 二酸化硫黄SO2(刺激臭) |
いずれの反応でも、銅の酸化数は $0 \to +2$ に上がって(酸化されて)Cu2+になります。一方、酸化剤としてはたらいた側の原子の酸化数は次のように下がっています。
- 希硝酸: N の酸化数 $+5 \to +2$(NOになる)
- 濃硝酸: N の酸化数 $+5 \to +4$(NO2になる)
- 熱濃硫酸: S の酸化数 $+6 \to +4$(SO2になる)
「濃度によって硝酸の還元される先(NOかNO2か)が変わる」という事実は、単に暗記するのではなく、濃硝酸の方が酸化力が強く、より穏やかな反応(電子を多く奪う反応)が進みにくい代わりに、反応速度自体は速いという一連のイメージとセットで覚えると定着しやすくなります。
硫酸銅(II)五水和物の色と脱水
硫酸銅(II)五水和物 $\ce{CuSO4.5H2O}$ は青色の結晶です。これを加熱すると結晶水を失い、白色粉末の無水硫酸銅(II)になります。
$\ce{CuSO4.5H2O ->[\Delta] CuSO4 + 5H2O}$
逆に、この白色粉末に水を加えると、再び水和して青色に戻ります。この色の変化ははっきりしていて可逆的なので、無水硫酸銅(II)は水の検出試薬として実験でよく利用されます(白色→青色に変われば、そこに水が存在した証拠になります)。
水酸化銅(II)とテトラアンミン銅(II)イオン
Cu2+を含む水溶液に少量の水酸化ナトリウム水溶液を加えると、青白色の水酸化銅(II)の沈殿が生じます。
$\ce{Cu^2+ + 2OH- -> Cu(OH)2 v}$
Cu(OH)2を加熱すると、脱水されて黒色の酸化銅(II)CuOになります。
$\ce{Cu(OH)2 ->[\Delta] CuO + H2O}$
ここで重要なのが、Cu(OH)2に過剰量のアンモニア水を加えたときの変化です。沈殿はいったん溶け、深青色の溶液に変わります。
$\ce{Cu(OH)2 + 4NH3 -> [Cu(NH3)4]^2+ + 2OH-}$
これは、Cu2+にアンモニア分子が4個配位結合してテトラアンミン銅(II)イオンという錯イオンをつくり、水に溶けやすい形に変わったためです。「沈殿が過剰のアンモニアで溶けて深青色になる」という現象は、Cu2+の検出反応としても、次の錯イオンの単元の予習としても重要なポイントです。
銅の化合物の色のまとめ
| 化合物・イオン | 色 |
|---|---|
| $\ce{Cu^2+}$ 水溶液 | 青色 |
| $\ce{CuSO4.5H2O}$(結晶) | 青色 |
| $\ce{CuSO4}$(無水物) | 白色 |
| $\ce{Cu(OH)2}$ | 青白色の沈殿 |
| $\ce{CuO}$ | 黒色 |
| $\ce{[Cu(NH3)4]^2+}$ | 深青色 |
銅の製錬 — 粗銅から電解精錬まで
銅は主に黄銅鉱($\ce{CuFeS2}$)などの硫化鉱から製錬されます。鉱石を溶鉱炉・転炉で処理して得られる純度約99%の銅を粗銅といいます。粗銅にはまだ鉄・亜鉛・銀・金など複数の不純物が含まれているため、電気を使って純度を高める電解精錬を行います。
電解精錬では、粗銅を陽極、純銅の薄板を陰極とし、硫酸酸性の硫酸銅(II)水溶液を電気分解します。
- 陽極(粗銅): $\ce{Cu -> Cu^2+ + 2e-}$(銅が溶け出す。同時にイオン化傾向が銅より大きい鉄や亜鉛などの不純物もイオンとなって溶け出す)
- 陰極(純銅): $\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$(Cu2+が還元されて純粋な銅が析出する)
イオン化傾向が銅より小さい銀・金・白金などの不純物は、陽極で溶けきれずに沈殿として陽極の下に沈みます。これを陽極泥と呼び、貴金属の重要な回収源になっています。このように電解精錬は、化学基礎で学んだ電気分解(陽極で酸化、陰極で還元)とイオン化傾向の考え方をそのまま応用したものです。
例題
例題1(基本)
問題
銅を希硝酸に加えたところ、気体が発生して溶液が青色になった。この反応を化学反応式で表し、発生した気体の色と名称を答えよ。
解答・解説を見る
銅は希硝酸(酸化力のある酸)と反応し、一酸化窒素を発生しながらCu2+(青色)に溶けます。
$\ce{3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 2NO ^ + 4H2O}$
答え:$\ce{3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 2NO ^ + 4H2O}$。発生する気体は無色の一酸化窒素NO(空気に触れると赤褐色のNO2になる)。
例題2(標準)
問題
硫酸銅(II)水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を少量加えると青白色の沈殿(A)が生じた。この沈殿にさらにアンモニア水を過剰に加えると、沈殿は溶けて深青色の溶液(B)になった。(A)の化学式と、(B)に含まれるイオンの化学式・名称を答えよ。
解答・解説を見る
少量のNaOHを加えると、$\ce{Cu^2+ + 2OH- -> Cu(OH)2 v}$ より、青白色のCu(OH)2が沈殿します。これが(A)です。
さらに過剰のアンモニア水を加えると、$\ce{Cu(OH)2 + 4NH3 -> [Cu(NH3)4]^2+ + 2OH-}$ の反応により、Cu(OH)2はアンモニアと配位結合して錯イオンとなり、深青色の溶液になります。
答え:(A) $\ce{Cu(OH)2}$(青白色)。(B) $\ce{[Cu(NH3)4]^2+}$(テトラアンミン銅(II)イオン、深青色)。
例題3(応用)
問題
粗銅を電解精錬すると、粗銅中に含まれていた次の(a)~(c)の金属は、それぞれどうなるか。もっとも適切な説明を選び、理由も述べよ。ただし、金・銀・鉄のイオン化傾向は $\ce{Fe > Cu > Ag > Au}$ の順である。
(a) 鉄 (b) 銀 (c) 金
【選択肢】ア. イオンとなって溶液中に残る イ. 陽極泥として陽極の下にたまる
解答・解説を見る
電解精錬では、陽極で銅とともに、銅よりイオン化傾向が大きい金属はイオンとなって溶け出しますが、陰極では還元されにくい(銅の方が優先的に還元される)ため、溶液中にイオンのまま残ります。逆に、銅よりイオン化傾向が小さい金属は陽極でも溶けきれず、金属のまま陽極の下に沈みます(陽極泥)。
(a) 鉄はCuよりイオン化傾向が大きいので、ア(イオンとなって溶液中に残る)。 (b) 銀はCuよりイオン化傾向が小さいので、イ(陽極泥)。 (c) 金もCuよりイオン化傾向が小さいので、イ(陽極泥)。
答え:(a) ア (b) イ (c) イ
イオン化傾向という1つの物差しで、電解精錬における不純物の行方がすべて説明できることを確認しましょう。
練習問題
問題
無水硫酸銅(II)の粉末は、ある物質を検出するための試薬として使われる。何を検出するための試薬か、また色がどのように変化するか答えよ。
答え
水(H2O)の検出試薬。 白色の無水硫酸銅(II)に水が触れると、水和して硫酸銅(II)五水和物になり、青色に変化する。