化学基礎 / 酸と塩基
よくある間違い
間違い1: 酸の価数を、分子中の水素原子の数と混同する
よくある誤答例
酢酸 $\ce{CH3COOH}$ には水素原子が4個あるので、「酢酸は4価の酸」だと思い込んでしまう。
なぜ間違いなのか
酸の価数は「分子中に含まれる水素原子の総数」ではなく、「電離して $\ce{H+}$ として実際に放出できる水素原子の数」で決まります。酢酸の4個の水素原子のうち、電離して $\ce{H+}$ になれるのはカルボキシ基(-COOH)の1個だけで、残りの3個(メチル基の水素)は電離しません。
正しい考え方
化学式だけを見て水素の数を数えるのではなく、「その物質がどのように電離するか」という電離の式を思い浮かべて価数を判断しましょう。酢酸は $\ce{CH3COOH -> CH3COO- + H+}$ と電離するので1価の酸です。
間違い2: 塩基の価数を、$\ce{OH}$ の数だけで判断してしまう
よくある誤答例
アンモニア $\ce{NH3}$ には $\ce{OH}$ が含まれていないので、「アンモニアは塩基の価数を持たない」あるいは「0価」だと考えてしまう。
なぜ間違いなのか
塩基の価数は、化学式に含まれる $\ce{OH}$ の数だけでなく、「受け取ることができる $\ce{H+}$ の数」でも決まります。$\ce{NH3}$ は $\ce{H+}$ を1個受け取って $\ce{NH4+}$ になれるので、$\ce{OH}$ を持たなくても1価の塩基として扱います。
正しい考え方
ブレンステッド・ローリーの定義に立ち返り、「その塩基が受け取れる $\ce{H+}$ は何個か」で価数を判断しましょう。
間違い3: pHの計算で対数のマイナス符号を忘れる
よくある誤答例
$[\ce{H+}]=1.0\times10^{-3}$ のとき、$\log_{10}(1.0\times10^{-3})=-3$ をそのままpHの値として使い、「$\mathrm{pH}=-3$」と答えてしまう。
なぜ間違いなのか
pHの定義は $\mathrm{pH}=-\log_{10}[\ce{H+}]$ であり、対数の値にさらにマイナスをかける必要があります。マイナスをかけ忘れると、符号が逆になってしまいます。
正しい考え方
$\log_{10}[\ce{H+}]$ を計算したら、最後に必ずマイナスをかけるという手順を、毎回セットで意識しましょう。$[\ce{H+}]=1.0\times10^{-3}$ なら $\log_{10}[\ce{H+}]=-3$、$\mathrm{pH}=-(-3)=3$ となります。
間違い4: 弱酸・弱塩基にも $[\ce{H+}]=c$ をそのまま当てはめてしまう
よくある誤答例
濃度 $c\ \mathrm{mol/L}$ の酢酸水溶液について、強酸のときと同じように $[\ce{H+}]=c$ として、いきなりpHを計算してしまう。
なぜ間違いなのか
$[\ce{H+}]=c$ という式は、酸がほぼ100%電離するとみなせる強酸の場合にしか使えません。酢酸のような弱酸は、水溶液中でごく一部しか電離していないため、$[\ce{H+}]$ は $c$ よりもずっと小さい値になります。
正しい考え方
まず、その酸(塩基)が強酸・強塩基なのか、弱酸・弱塩基なのかを確認しましょう。この単元で扱う $\mathrm{pH}=-\log_{10}[\ce{H+}]$ を使ったpH計算は、強酸・強塩基のときにだけ、$[\ce{H+}]=nc$(または $[\ce{OH-}]=nc$)という簡単な式が使えます。弱酸・弱塩基のpH計算には、電離定数を使った別の考え方が必要になります(発展的な内容です)。
間違い5: 中和の量的関係が、酸・塩基の強弱によって変わると誤解する
よくある誤答例
弱酸である酢酸の中和計算には、強酸の中和計算とは違う特別な公式が必要だと思い込んでしまう。
なぜ間違いなのか
中和の量的関係 $n_{酸}\times a = n_{塩基}\times b$ は、酸・塩基の強弱にかかわらず、価数と物質量だけで決まります。弱酸は電離度が小さいものの、$\ce{H+}$ が消費されるたびに電離平衡が移動してさらに電離が進み、最終的にはすべての $\ce{H+}$ を出し切るところまで反応が進むためです。
正しい考え方
中和の計算では、酸・塩基が強いか弱いかを気にする必要はありません。価数と物質量(または濃度×体積)だけに注目して、同じ式を使いましょう。強弱が関係してくるのは、中和反応の「量」の計算ではなく、生成した塩の水溶液の「液性」(酸性・中性・塩基性)を考えるときです。
間違い6: 「正塩」という名前から、水溶液も必ず中性だと思い込む
よくある誤答例
$\ce{CH3COONa}$ は正塩に分類されるので、水溶液は中性のはずだと考えてしまう。
なぜ間違いなのか
「正塩・酸性塩・塩基性塩」という分類は、化学式の中にHやOHが残っているかどうかという組成上の分類であり、水溶液の実際の性質(液性)とは別の基準です。$\ce{CH3COONa}$ は正塩ですが、$\ce{CH3COO-}$ の加水分解により、水溶液は塩基性を示します。
正しい考え方
塩の水溶液の液性は、名前(正塩・酸性塩・塩基性塩)ではなく、「もとになった酸と塩基がそれぞれ強いか弱いか」の組み合わせで判断しましょう。
間違い7: 「酸性塩」という名前から、水溶液も必ず酸性だと思い込む
よくある誤答例
$\ce{NaHCO3}$ は酸性塩に分類されるので、水溶液も酸性のはずだと考えてしまう。
なぜ間違いなのか
これも間違い6と同じ理由です。$\ce{NaHCO3}$ は化学式にHが残っているので酸性塩に分類されますが、水溶液中では $\ce{HCO3-}$ が加水分解して $\ce{OH-}$ を生じるため、実際には塩基性を示します。
正しい考え方
酸性塩・塩基性塩という名前だけで液性を判断せず、もとになった酸・塩基の強弱の組み合わせで考える習慣をつけましょう。
間違い8: 中和滴定の器具を、すべて共洗いしてしまう
よくある誤答例
滴定に使うホールピペット・ビュレット・コニカルビーカーのすべてを、これから使う溶液で共洗いしてから使う。
なぜ間違いなのか
ホールピペットとビュレットは、正確な濃度・体積をはかり取るための器具なので、水でぬれたまま使うと溶液が薄まり、誤差の原因になります。共洗いが必要です。一方、コニカルビーカー(反応容器)は、すでにホールピペットで正確にはかり取った物質量をそのまま受け止める容器であり、あとから水で多少薄まっても含まれる溶質の物質量は変わりません。共洗いすると、逆にコニカルビーカーの内壁に残った溶液の分だけ物質量が変わってしまう恐れがあります。
正しい考え方
「体積を正確にはかる器具(ホールピペット・ビュレット)は共洗いする」「反応させるだけの器具(コニカルビーカー)は水でぬれたままでよい」と、器具の役割ごとに区別して覚えましょう。
間違い9: 中和点のpHを考えずに、いつも同じ指示薬を使おうとする
よくある誤答例
弱酸と強塩基の滴定でも、強酸と弱塩基の滴定でも、いつもフェノールフタレインを使ってしまう。
なぜ間違いなのか
指示薬は、その変色域が中和点のpH付近に入っているものを選ぶ必要があります。強酸と弱塩基の滴定では中和点が酸性側にずれるため、塩基性側でしか変色しないフェノールフタレインでは、色の変化を確認できません。
正しい考え方
滴定を始める前に、まず生成する塩の液性(中和点のpHが7より大きいか小さいか)を確認し、それに合った指示薬(弱酸+強塩基→フェノールフタレイン、強酸+弱塩基→メチルオレンジ)を選びましょう。
間違い10: 濃度や体積の単位換算を忘れて、計算の桁を間違える
よくある誤答例
体積を $\mathrm{mL}$ のまま $c=\dfrac{n}{V}$ の式に代入してしまい、答えが1000倍(または $\frac{1}{1000}$)ずれてしまう。
なぜ間違いなのか
モル濃度の単位は $\mathrm{mol/L}$ なので、体積は必ず $\mathrm{L}$ の単位で扱う必要があります。$\mathrm{mL}$ のまま計算すると、体積の値が1000倍大きくなり、求める物質量や濃度が1000倍ずれてしまいます。
正しい考え方
計算式に代入する前に、必ず単位を確認する習慣をつけましょう。$\mathrm{mL}$ の値は、$1000$ で割ってから($\div1000$、あるいは $\times10^{-3}$)、$\mathrm{L}$ に直してから代入します。