有機化学 / 炭化水素

アルキン

要点整理

アルキンの一般式と構造

炭素原子間に三重結合を1個持つ、鎖式の不飽和炭化水素をアルキンといいます。アルキンの分子式は、炭素原子の数を $n$ として、次の一般式で表されます。

$\mathrm{C_nH_{2n-2}}$

三重結合は1本のσ結合と2本のπ結合からできており、アルケンの二重結合(σ結合1本+π結合1本)よりもさらに水素原子が2個少なくなっています。三重結合にも反応性の高いπ電子が(アルケンの2倍)含まれるため、アルキンはアルケンと同様に付加反応を起こしやすい炭化水素です。

アセチレン

もっとも代表的なアルキンが、もっとも簡単な構造を持つアセチレン(エチン) $\ce{CH#CH}$($n=2$)です。アセチレンは、炭化カルシウム(カーバイド)$\ce{CaC2}$ に水を加えることで得られます。

$\ce{CaC2 + 2H2O -> C2H2 + Ca(OH)2}$

アセチレンは燃焼すると非常に高い温度の炎(酸素アセチレン炎、約3000℃)を出すため、金属の溶接・切断に利用されます。また、後述するように多くの有機化合物・合成高分子の出発原料としても重要です。

三重結合の付加反応

三重結合はπ結合を2本持つため、アルケンの二重結合(π結合1本)とは異なり、2分子分の試薬が段階的に付加することができます。

臭素の付加

$\ce{CH#CH + Br2 -> CHBr=CHBr ->[+Br2] CHBr2-CHBr2}$

まず1分子の $\ce{Br2}$ が付加して二重結合を持つ化合物になり、さらに1分子の $\ce{Br2}$ が付加して、二重結合のない化合物になります。

水素の付加

触媒(Ni、Ptなど)のもとで水素を反応させると、段階的に水素が付加し、最終的にアルカンになります。

$\ce{CH#CH + 2H2 ->[触媒] CH3-CH3}$

アセチレンからの誘導反応

アセチレンに、水・塩化水素・酢酸・シアン化水素などを付加させると、それぞれ重要な工業原料が得られます。いずれも、三重結合の一方のπ結合だけが反応し、二重結合を持つ化合物が生成する点が共通しています。

水の付加(アセトアルデヒドの生成)

硫酸水銀(II)などを触媒として水を付加させると、不安定なビニルアルコール $\ce{CH2=CH-OH}$ が一時的に生じますが、これはただちに構造を変えて安定なアセトアルデヒド $\ce{CH3-CHO}$ になります。

$\ce{CH#CH + H2O ->[触媒] [CH2=CH-OH] -> CH3-CHO}$

塩化水素の付加(塩化ビニルの生成)

$\ce{CH#CH + HCl ->[触媒] CH2=CH-Cl}$

生成する塩化ビニル $\ce{CH2=CHCl}$ は、付加重合してポリ塩化ビニル($\ce{PVC}$、塩化ビニル樹脂)の原料になります。

酢酸の付加(酢酸ビニルの生成)

$\ce{CH#CH + CH3COOH ->[触媒] CH2=CH-O-CO-CH3}$

生成する酢酸ビニルは、付加重合してポリ酢酸ビニル(接着剤・ガムベースなどに利用)の原料になります。

シアン化水素の付加(アクリロニトリルの生成)

$\ce{CH#CH + HCN ->[触媒] CH2=CH-CN}$

生成するアクリロニトリルは、付加重合してアクリル繊維や、合成ゴム・ABS樹脂などの原料になります。

このように、アセチレンは三重結合への付加反応を通じて、さまざまな二重結合を持つモノマー(単量体)へと誘導され、それらがさらに付加重合することで、私たちの身近にある多くの合成高分子が作られています(高分子化合物の単元でくわしく学びます)。

例題

例題1(基本)

問題

炭化カルシウム $\ce{CaC2}$ に水を加えてアセチレンを発生させたい。この反応の化学反応式を書け。また、炭化カルシウム $6.4\ \mathrm{g}$(モル質量 $64\ \mathrm{g/mol}$)から発生するアセチレンの体積は、標準状態で何Lか。

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化学反応式

$\ce{CaC2 + 2H2O -> C2H2 + Ca(OH)2}$

アセチレンの体積

炭化カルシウムの物質量は、

$n(\ce{CaC2}) = \frac{6.4}{64} = 0.1\ \mathrm{mol}$

反応式の係数比 $\ce{CaC2}:\ce{C2H2}=1:1$ より、発生するアセチレンも $0.1\ \mathrm{mol}$。標準状態のモル体積 $22.4\ \mathrm{L/mol}$ を使うと、

$V = 0.1\times 22.4 = 2.24\ \mathrm{L}$

答え:化学反応式 $\ce{CaC2 + 2H2O -> C2H2 + Ca(OH)2}$、発生するアセチレンの体積 $2.24\ \mathrm{L}$

例題2(標準)

問題

アセチレン $1\ \mathrm{mol}$ に、水素 $\ce{H2}$ を過不足なく完全に付加させたい。必要な水素は何molか。また、生成する物質の名称を答えよ。

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アセチレンの三重結合は、アルケンの二重結合とは異なり、π結合を2本持っています。そのため、水素は2分子分(2mol)付加してはじめて、三重結合がすべて単結合になります。

$\ce{CH#CH + 2H2 ->[触媒] CH3-CH3}$

途中でエチレン $\ce{CH2=CH2}$(1mol付加の段階)を経由しますが、「完全に付加させる」ので最終的にはエタンまで反応が進みます。

答え:必要な水素は $2\ \mathrm{mol}$。生成する物質はエタン $\ce{CH3-CH3}$。

例題3(応用)

問題

アセチレンに水を付加させるとアセトアルデヒドが生成する。この反応が、アルケンへの水の付加(例:エチレン+水→エタノール)と異なり、いったん不安定な中間体を経由することを、反応式で示して説明せよ。

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エチレンに水を付加させると、そのまま安定なアルコールであるエタノールが直接生成します。

$\ce{CH2=CH2 + H2O -> CH3-CH2-OH}$

一方、アセチレンに水を付加させる場合は、まず二重結合とヒドロキシ基を両方持つビニルアルコール $\ce{CH2=CH-OH}$ が生じます。

$\ce{CH#CH + H2O -> CH2=CH-OH}$

しかし、二重結合の炭素に直接ヒドロキシ基が結合した構造(エノール形)は不安定で、ただちに水素原子が移動して、より安定なカルボニル基($\ce{C=O}$)を持つ構造(ケト形)に変化します。

$\ce{CH2=CH-OH -> CH3-CHO}$

この結果、最終的にはアルコールではなく、アルデヒドであるアセトアルデヒド $\ce{CH3-CHO}$ が得られます。

答え:アセチレンへの水の付加では、いったん不安定なビニルアルコール $\ce{CH2=CH-OH}$(二重結合の炭素に直接 $\ce{-OH}$ が結合した構造)が生じるが、これはただちに構造を変えて安定なアセトアルデヒド $\ce{CH3-CHO}$ になるため。エチレンの場合は二重結合の炭素に直接 $\ce{-OH}$ がつかないため、そのまま安定なエタノールが得られる。

練習問題

問題

アセチレンに塩化水素 $\ce{HCl}$ を付加させると得られる化合物の名称と、その化合物を付加重合させて得られる高分子化合物の名称を答えよ。

答え

塩化ビニル($\ce{CH2=CHCl}$)。これを付加重合させるとポリ塩化ビニル(塩化ビニル樹脂、PVC)が得られる。