公式の証明・導出
ドルトンの分圧の法則の導出
関連単元: 化学 物質の状態変化
証明する内容
体積 $V$ の容器の中に、複数の気体(たとえば気体Aと気体Bの混合気体)が同じ温度 $T$ で入っているとき、それぞれの気体が「自分だけでその容器を占めたとしたら示すであろう圧力」を、その気体の分圧と呼びます。ドルトンの分圧の法則は、次の2つを主張します。
- 混合気体の全圧は、各成分気体の分圧の和に等しい:$p = p_A + p_B + \cdots$
- 各成分気体の分圧は、全圧にその成分のモル分率をかけたものに等しい:$p_A = x_A\,p$(ただし $x_A$ は気体Aのモル分率)
ここでは、これらが理想気体の状態方程式 $pV=nRT$ から自然に導かれることを確認します。
証明
ステップ1:分圧の定義を式で表す
体積 $V$、温度 $T$ の容器の中に、気体Aが $n_A$ mol、気体Bが $n_B$ mol 入っているとします(話を簡単にするため2成分としますが、3成分以上でも考え方は同じです)。
気体Aの分圧 $p_A$ とは、「気体Aだけが、この容器(体積 $V$、温度 $T$)を単独で占めたとしたときに示す圧力」のことです。気体Aだけを考えれば、これは理想気体の状態方程式がそのまま使えるので、
$p_AV = n_ART \quad\Longrightarrow\quad p_A = \frac{n_ART}{V}$
同様に、気体Bの分圧は、
$p_B = \frac{n_BRT}{V}$
と表せます。
ステップ2:混合気体全体に状態方程式を適用する
一方、実際にこの容器の中で測定される圧力(全圧)$p$ は、混合気体全体、つまり気体Aと気体Bを合わせた全物質量 $n = n_A+n_B$ に対して、理想気体の状態方程式を適用したものになります。
$pV = nRT \quad\Longrightarrow\quad p = \frac{nRT}{V} = \frac{(n_A+n_B)RT}{V}$
これは、「混合気体を1種類の気体とみなして状態方程式を適用しても成り立つ」という、理想気体の重要な性質(理想気体分子どうしは互いに相互作用しないと仮定しているため、混ぜても分子の数さえ合っていれば同じ状態方程式が使える)にもとづいています。
ステップ3:全圧を分圧の和に分解する
ステップ2の式の右辺を、分配法則を使って2つの項に分けます。
$p = \frac{(n_A+n_B)RT}{V} = \frac{n_ART}{V} + \frac{n_BRT}{V}$
ステップ1で、$\dfrac{n_ART}{V}=p_A$、$\dfrac{n_BRT}{V}=p_B$ であったことを思い出すと、この式は、
$p = p_A + p_B$
と書き直せます。これが、ドルトンの分圧の法則(全圧は分圧の和)です。3成分以上の混合気体でも、全く同じ議論を繰り返せば、$p=p_A+p_B+p_C+\cdots$ が成り立つことが分かります。
ステップ4:分圧とモル分率の関係を導く
次に、分圧 $p_A$ を全圧 $p$ とモル分率(全物質量に対する、その成分の物質量の割合)$x_A=\dfrac{n_A}{n}$ で表してみます。
ステップ1の式 $p_A=\dfrac{n_ART}{V}$ と、ステップ2の式 $p=\dfrac{nRT}{V}$ を比べると、両方とも $\dfrac{RT}{V}$ という共通の因子を含んでいます。$p_A$ の式を $p$ の式で割ってみます。
$\frac{p_A}{p} = \frac{n_ART/V}{nRT/V} = \frac{n_A}{n}$
右辺の $\dfrac{n_A}{n}$ は、まさにモル分率 $x_A$ の定義そのものです。したがって、
$\frac{p_A}{p} = x_A \quad\Longrightarrow\quad p_A = x_A\,p$
が得られます。これが、分圧はモル分率と全圧の積で求められる、という関係です。
ステップ5:数値例で確認する
ある容器に、窒素 $\ce{N2}$ が $2.0$ mol、酸素 $\ce{O2}$ が $3.0$ mol 入っていて、全圧が $5.0\times10^5$ Pa であったとします。それぞれの分圧を求めます。
全物質量は $n = 2.0+3.0=5.0$ mol なので、モル分率は、
$x(\ce{N2}) = \frac{2.0}{5.0} = 0.40, \qquad x(\ce{O2}) = \frac{3.0}{5.0} = 0.60$
ステップ4の式 $p_A=x_Ap$ を使うと、
$p(\ce{N2}) = 0.40\times5.0\times10^5 = 2.0\times10^5\ \text{Pa}$
$p(\ce{O2}) = 0.60\times5.0\times10^5 = 3.0\times10^5\ \text{Pa}$
検算として、分圧の和が全圧に一致することを確認します。
$2.0\times10^5 + 3.0\times10^5 = 5.0\times10^5\ \text{Pa}\ \checkmark$
この証明のポイント
この証明のポイントは、「混合気体全体に状態方程式を適用した式」と「各成分に個別に状態方程式を適用した式」を並べて比較する、という発想です。両方とも同じ $V$、$T$、$R$ を共有しているため、割り算や足し算によって、それらの共通因子がきれいに消え、物質量どうしの単純な比の関係(モル分率)だけが残ります。この「共通の条件(ここでは同じ容器・同じ温度)のもとで複数の式を比較し、共通因子を消去する」という手法は、浸透圧や反応の量的関係など、他の計算でも応用できる考え方です。