公式の証明・導出
元素分析データから組成式・分子式を決定する手順の導出
関連単元: 有機化学 有機化合物の構造決定
証明する内容
炭素 $\ce{C}$、水素 $\ce{H}$、酸素 $\ce{O}$ からなる有機化合物を完全燃焼させると、炭素はすべて $\ce{CO2}$ に、水素はすべて $\ce{H2O}$ になります。このとき生じた $\ce{CO2}$ と $\ce{H2O}$ の質量を測定すること(元素分析)によって、もとの化合物に含まれていた $\ce{C}$、$\ce{H}$、$\ce{O}$ の質量やmol比を逆算でき、最終的には化合物の組成式(原子数の最も簡単な整数比を表す式)や、分子量が分かっていれば分子式まで決定できます。ここでは、この逆算の手順を、1つずつ省略せずに確認します。
証明
ステップ1:燃焼で生じるCO2・H2Oの意味を確認する
化合物中の炭素原子は、燃焼によってすべて $\ce{CO2}$ に変わります。$\ce{CO2}$ 1分子には炭素原子が1個含まれるので、生じた $\ce{CO2}$ の物質量は、もとの化合物に含まれていた炭素原子の物質量に等しくなります。
$n(\text{C}) = n(\ce{CO2})$
同様に、化合物中の水素原子は、燃焼によってすべて $\ce{H2O}$ に変わります。$\ce{H2O}$ 1分子には水素原子が2個含まれるので、生じた $\ce{H2O}$ の物質量の2倍が、もとの化合物に含まれていた水素原子の物質量になります。
$n(\text{H}) = 2\times n(\ce{H2O})$
酸素については、燃焼に使った $\ce{O2}$ 由来の酸素と、もとの化合物由来の酸素が生成物の中で混ざってしまうため、$\ce{CO2}$・$\ce{H2O}$ の量から直接求めることはできません。そこで、酸素は「全体の質量から、炭素と水素の質量を引いた残り」として、質量保存の法則を使って間接的に求めます。
$m(\text{O}) = m(\text{試料}) - m(\text{C}) - m(\text{H})$
ステップ2:CO2・H2Oの質量から物質量を求める
生じた $\ce{CO2}$、$\ce{H2O}$ の質量が分かれば、それぞれのモル質量($\ce{CO2}$:$44$ g/mol、$\ce{H2O}$:$18$ g/mol)で割ることで、物質量が求まります。
$n(\ce{CO2}) = \frac{m(\ce{CO2})}{44}, \qquad n(\ce{H2O}) = \frac{m(\ce{H2O})}{18}$
ステップ3:C・Hの質量を求める
ステップ1の関係を使って、炭素・水素それぞれの物質量を求め、それに原子量($\ce{C}$:$12$、$\ce{H}$:$1$)をかけて、質量に変換します。
$m(\text{C}) = n(\text{C})\times12 = n(\ce{CO2})\times12$
$m(\text{H}) = n(\text{H})\times1 = 2\,n(\ce{H2O})\times1$
ステップ4:酸素の質量・物質量を求める
ステップ1の質量保存の式に、ステップ3で求めた $m(\text{C})$、$m(\text{H})$ を代入して、酸素の質量を求めます。
$m(\text{O}) = m(\text{試料}) - m(\text{C}) - m(\text{H})$
得られた酸素の質量を、酸素の原子量($16$)で割って、物質量に変換します。
$n(\text{O}) = \frac{m(\text{O})}{16}$
ステップ5:mol比から組成式(実験式)を決定する
ステップ3・ステップ4で求めた $n(\text{C})$、$n(\text{H})$、$n(\text{O})$ の比をとり、それぞれを最も小さい値で割って、最も簡単な整数比に直します。この整数比が、そのまま組成式(実験式)の添字になります。
ステップ6:数値例で計算する(組成式を求める)
$\ce{C}$、$\ce{H}$、$\ce{O}$ からなる有機化合物 $3.00$ g を完全燃焼させたところ、$\ce{CO2}$ が $4.40$ g、$\ce{H2O}$ が $1.80$ g 生じました。組成式を求めます。
炭素の物質量・質量:
$n(\ce{CO2}) = \frac{4.40}{44} = 0.100\ \text{mol} \quad\Longrightarrow\quad n(\text{C}) = 0.100\ \text{mol}$
$m(\text{C}) = 0.100\times12 = 1.20\ \text{g}$
水素の物質量・質量:
$n(\ce{H2O}) = \frac{1.80}{18} = 0.100\ \text{mol} \quad\Longrightarrow\quad n(\text{H}) = 2\times0.100 = 0.200\ \text{mol}$
$m(\text{H}) = 0.200\times1 = 0.200\ \text{g}$
酸素の質量・物質量:
$m(\text{O}) = 3.00 - 1.20 - 0.200 = 1.60\ \text{g}$
$n(\text{O}) = \frac{1.60}{16} = 0.100\ \text{mol}$
mol比を整数比に直す:
$n(\text{C}):n(\text{H}):n(\text{O}) = 0.100:0.200:0.100$
すべてを最小の $0.100$ で割ると、
$1:2:1$
したがって、組成式は $\ce{CH2O}$ です。
ステップ7:分子量から分子式を決定する
組成式は「原子数の比」しか表していないため、実際の分子式は、組成式の整数倍(1倍、2倍、3倍…)のどれかになります。分子式を決定するには、別途、分子量(モル質量)の実測値が必要です。
組成式の式量(組成式1組あたりの質量)を $M_{\text{組成式}}$、実際の分子量を $M_{\text{分子}}$ とすると、分子式は組成式の
$n = \frac{M_{\text{分子}}}{M_{\text{組成式}}}$
倍になります。この $n$ は、必ず整数(またはほぼ整数とみなせる値)になるはずです。
この化合物の分子量が、別の実験(たとえば蒸気密度測定)によって $60$ と分かったとします。組成式 $\ce{CH2O}$ の式量は、
$M_{\text{組成式}} = 12+2\times1+16 = 30$
なので、
$n = \frac{60}{30} = 2$
したがって、分子式は組成式 $\ce{CH2O}$ を2倍した、
$\ce{C2H4O2}$
であると決定できます(これは酢酸 $\ce{CH3COOH}$ の分子式に一致します)。
この証明のポイント
この証明の手順で最も間違えやすいのは、酸素の扱いです。炭素・水素は、生成物($\ce{CO2}$、$\ce{H2O}$)の物質量から直接読み取れますが、酸素は燃焼に使った空気(または酸素)由来の分と、もとの化合物由来の分が生成物中で区別できなくなるため、「試料全体の質量から、判明した炭素・水素の質量を引いた残りが酸素である」という、質量保存の法則にもとづいた間接的な計算が必要になります。また、組成式(原子数の比)と分子式(実際の原子数)は別物であり、分子式を決めるには組成式に加えて分子量の情報がもう1つ必要になる、という点も重要な区別です。