公式の証明・導出
体心立方格子・面心立方格子の充填率の導出
関連単元: 化学 化学結合と結晶
証明する内容
金属の結晶構造としてよく登場する体心立方格子(BCC)と面心立方格子(FCC)について、単位格子(結晶の繰り返しの最小単位となる立方体)の中に原子がどれだけ密に詰まっているかを表す体積充填率を求めます。原子を半径 $r$ の球とみなし、単位格子の一辺の長さ(格子定数)を $a$ とするとき、次の結果が得られます。
$\text{BCCの充填率} = \frac{\sqrt{3}}{8}\pi \approx 0.68\ (68\%), \qquad \text{FCCの充填率} = \frac{\pi}{3\sqrt{2}} \approx 0.74\ (74\%)$
充填率を求めるには、(a) 単位格子1個あたりに含まれる原子の数、(b) 原子どうしが接している方向に注目した、半径 $r$ と格子定数 $a$ の関係、(c) それらを使った体積の比、という3つのステップを踏みます。ここでは、BCCとFCCの両方について、この手順を並行して確認します。
証明
ステップ1:単位格子に含まれる原子の数(BCC)
体心立方格子は、立方体の8つの頂点と、立方体の中心に、それぞれ原子が1個ずつ配置された構造です。
頂点の原子は、隣接する8個の単位格子で共有されているため、1つの単位格子に属する体積としては、1個の原子の $\dfrac{1}{8}$ 分しかカウントされません。頂点は全部で8か所あるので、頂点由来の原子数は、
$8\times\frac{1}{8} = 1\ \text{個}$
一方、体心(立方体の中心)の原子は、他のどの単位格子とも共有されておらず、まるごと1個分がこの単位格子に属します。
$1\times1 = 1\ \text{個}$
したがって、BCCの単位格子に含まれる原子の総数は、
$1+1 = 2\ \text{個}$
ステップ2:単位格子に含まれる原子の数(FCC)
面心立方格子は、立方体の8つの頂点と、6つの各面の中心に、それぞれ原子が1個ずつ配置された構造です。
頂点由来の原子数は、BCCと同じ理由で、
$8\times\frac{1}{8} = 1\ \text{個}$
面の中心にある原子は、隣接する2個の単位格子で共有されているため、1つの単位格子に属する体積としては、1個の原子の $\dfrac{1}{2}$ 分になります。面は全部で6か所あるので、面心由来の原子数は、
$6\times\frac{1}{2} = 3\ \text{個}$
したがって、FCCの単位格子に含まれる原子の総数は、
$1+3 = 4\ \text{個}$
ステップ3:半径rと格子定数aの関係(BCC:体対角線に注目)
原子どうしが実際に接触しているのは、原子どうしの中心間距離が最も短くなる方向です。BCCでは、これは立方体の体対角線(向かい合う頂点どうしを、体心を通って結ぶ対角線)の方向になります。
一辺の長さが $a$ の立方体の体対角線の長さは、三平方の定理を2回使うことで、$\sqrt{3}\,a$ になることが分かります(まず底面の対角線の長さが $\sqrt{a^2+a^2}=\sqrt{2}\,a$、次にこの底面対角線と高さ $a$ を2辺とする直角三角形を考えると、体対角線の長さは $\sqrt{(\sqrt{2}a)^2+a^2}=\sqrt{2a^2+a^2}=\sqrt{3a^2}=\sqrt{3}\,a$ となります)。
この体対角線上には、頂点の原子・体心の原子・反対側の頂点の原子が、この順に一直線上に並んで接触しています。したがって、体対角線の長さは、次の4つの半径分の長さの合計に等しくなります。
- 頂点の原子の中心から、その原子の表面まで:半径 $r$
- 体心の原子の直径分:$2r$
- 反対側の頂点の原子の表面から、その原子の中心まで:半径 $r$
$\sqrt{3}\,a = r + 2r + r = 4r$
この式を $r$ について解くと、
$r = \frac{\sqrt{3}}{4}a \qquad\Longleftrightarrow\qquad a = \frac{4r}{\sqrt{3}}$
ステップ4:半径rと格子定数aの関係(FCC:面対角線に注目)
FCCでは、原子どうしが実際に接触しているのは、立方体の各面の対角線(面の4つの頂点のうち、向かい合う2つの頂点を結ぶ対角線)の方向です。この対角線上には、頂点の原子・面の中心の原子・反対側の頂点の原子が、この順に一直線上に並んで接触しています。
一辺の長さが $a$ の正方形(立方体の1つの面)の対角線の長さは、三平方の定理より $\sqrt{a^2+a^2}=\sqrt{2}\,a$ です。この長さは、BCCの体対角線のときと全く同じ考え方で、半径4つ分の合計に等しくなります。
$\sqrt{2}\,a = r+2r+r = 4r$
この式を $r$ について解くと、
$r = \frac{\sqrt{2}}{4}a \qquad\Longleftrightarrow\qquad a = \frac{4r}{\sqrt{2}} = 2\sqrt{2}\,r$
ステップ5:体積充填率を計算する(BCC)
体積充填率は、単位格子の体積のうち、原子の体積が占める割合として定義されます。
$\text{充填率} = \frac{(\text{単位格子中の原子の総体積})}{(\text{単位格子の体積})}$
BCCでは、原子は2個(ステップ1)、原子1個の体積は球の体積の公式より $\dfrac{4}{3}\pi r^3$ なので、原子の総体積は、
$2\times\frac{4}{3}\pi r^3 = \frac{8}{3}\pi r^3$
単位格子の体積は、ステップ3の $a=\dfrac{4r}{\sqrt3}$ を使って、
$a^3 = \left(\frac{4r}{\sqrt3}\right)^3 = \frac{4^3r^3}{(\sqrt3)^3} = \frac{64r^3}{3\sqrt3}$
したがって、充填率は、
$\text{充填率(BCC)} = \frac{\dfrac{8}{3}\pi r^3}{\dfrac{64r^3}{3\sqrt3}} = \frac{8}{3}\pi r^3\times\frac{3\sqrt3}{64r^3}$
$r^3$ と $3$ を約分すると、
$= \frac{8\pi\sqrt3}{64} = \frac{\sqrt3}{8}\pi$
数値を計算すると、$\sqrt3\approx1.732$、$\pi\approx3.1416$ より、
$\frac{\sqrt3}{8}\pi \approx \frac{1.732\times3.1416}{8} \approx \frac{5.441}{8} \approx 0.680$
したがって、BCCの体積充填率は約 $68\%$ です。
ステップ6:体積充填率を計算する(FCC)
FCCでは、原子は4個(ステップ2)なので、原子の総体積は、
$4\times\frac{4}{3}\pi r^3 = \frac{16}{3}\pi r^3$
単位格子の体積は、ステップ4の $a=2\sqrt2\,r$ を使って、
$a^3 = (2\sqrt2\,r)^3 = 2^3\times(\sqrt2)^3\times r^3 = 8\times2\sqrt2\times r^3 = 16\sqrt2\,r^3$
したがって、充填率は、
$\text{充填率(FCC)} = \frac{\dfrac{16}{3}\pi r^3}{16\sqrt2\,r^3} = \frac{16\pi}{3}\times\frac{1}{16\sqrt2} = \frac{\pi}{3\sqrt2}$
分母を有理化すると、
$\frac{\pi}{3\sqrt2} = \frac{\pi\sqrt2}{6}$
数値を計算すると、$\sqrt2\approx1.414$ より、
$\frac{\pi\sqrt2}{6} \approx \frac{3.1416\times1.414}{6} \approx \frac{4.443}{6} \approx 0.740$
したがって、FCCの体積充填率は約 $74\%$ です。
この証明のポイント
この証明の核心は、単位格子の中で「原子どうしが実際に接触している方向」を正しく見抜くことです。BCCでは体対角線、FCCでは面対角線という、それぞれ異なる方向に原子が接しており、この方向の長さを、三平方の定理を使って一辺の長さ $a$ で表し、それが半径4つ分($4r$)に等しいとおくことで、$r$ と $a$ の関係式が得られます。あとは、(単位格子あたりの原子数)×(球の体積)を、(単位格子の体積 $a^3$)で割るだけで充填率が求まります。FCCの充填率(約74%)は、単純立方格子(約52%)やBCC(約68%)よりも高く、球を最も密に詰め込んだときの限界(最密充填率、約74%)と一致することも、あわせて覚えておくとよいでしょう。