公式の証明・導出

結合エネルギーから反応熱を求める式の導出(ヘスの法則)

関連単元: 化学 熱化学

証明する内容

化学反応が起こるとき、反応物中の結合がいったん切れ、生成物の結合が新しくできます。反応熱 $\Delta H$ は、このとき出入りするエネルギーの収支として、次の式で求められます。

$\Delta H = \sum(\text{反応物の結合エネルギー}) - \sum(\text{生成物の結合エネルギー})$

ここでは、この式が、「結合を切るにはエネルギーを外から与える必要があり(吸熱)、結合ができるときにはエネルギーが放出される(発熱)」という事実と、ヘスの法則(反応熱は反応の経路によらず、始めと終わりの状態だけで決まる)から導かれることを確認し、$\ce{H2 + Cl2 -> 2HCl}$ を例に数値計算します。

証明

ステップ1:結合エネルギーの意味を確認する

結合エネルギーとは、気体状態の分子1molについて、その中にある特定の共有結合1molを完全に切り離して、ばらばらの原子(気体状態)にするのに必要なエネルギーのことです。結合を切るには、必ずエネルギーを外部から与える必要があるので、この過程は常に吸熱です。逆に、ばらばらの原子から同じ結合をつくるときには、切るときと同じ大きさのエネルギーが放出されます(この過程は発熱です)。

ステップ2:反応を「原子に一度ばらばらにする」経路で考える

ヘスの法則によれば、反応熱は反応の経路によらず、反応物(始めの状態)と生成物(終わりの状態)だけで決まります。そこで、実際の反応が1段階で起こるとしても、計算のためだけに、次のような仮想的な2段階の経路を考えます。

第1段階: 反応物の分子を、すべていったんばらばらの気体状態の原子に分解する。この段階では、反応物の中にあるすべての結合を切る必要があるので、必要なエネルギーは、反応物に含まれるすべての結合エネルギーの合計になります。

$Q_1 = \sum(\text{反応物の結合エネルギー})\quad(\text{吸熱})$

第2段階: 第1段階でできたばらばらの原子を組み合わせて、生成物の分子をつくる。この段階では、生成物の中にあるすべての結合が新しくできるので、放出されるエネルギーは、生成物に含まれるすべての結合エネルギーの合計になります。

$Q_2 = \sum(\text{生成物の結合エネルギー})\quad(\text{発熱})$

ステップ3:2段階のエネルギー収支を反応熱にまとめる

反応熱 $\Delta H$ は、熱化学において「吸熱を正、発熱を負」とする符号のつけ方(高校化学で採用される、エンタルピー変化としての $\Delta H$ の定義)にしたがうと、第1段階で吸収したエネルギーから、第2段階で放出したエネルギーを引いたものになります。

$\Delta H = Q_1 - Q_2 = \sum(\text{反応物の結合エネルギー}) - \sum(\text{生成物の結合エネルギー})$

ヘスの法則により、実際の反応が1段階で起ころうと、この仮想的な2段階の経路を通ろうと、始めの状態(ばらばらになる前の反応物)と終わりの状態(生成物)が同じであれば、反応熱 $\Delta H$ は同じ値になります。したがって、この式を使って、直接測定しなくても反応熱を計算で求めることができます。

ステップ4:H2 + Cl2 → 2HClで数値計算する

次の反応の反応熱を、結合エネルギーから求めます。

$\ce{H2 + Cl2 -> 2HCl}$

与えられた結合エネルギー(1molあたり)は、次の通りとします。

  • $\ce{H-H}$ 結合:$436$ kJ/mol
  • $\ce{Cl-Cl}$ 結合:$243$ kJ/mol
  • $\ce{H-Cl}$ 結合:$432$ kJ/mol

反応物の結合エネルギーの合計: 反応物は $\ce{H2}$(1molあたり $\ce{H-H}$ 結合1つ)と $\ce{Cl2}$(1molあたり $\ce{Cl-Cl}$ 結合1つ)なので、

$\sum(\text{反応物}) = 436 + 243 = 679\ \text{kJ}$

生成物の結合エネルギーの合計: 生成物は $\ce{HCl}$ が2mol($\ce{H-Cl}$ 結合2つ分)なので、

$\sum(\text{生成物}) = 2\times432 = 864\ \text{kJ}$

ステップ3の式に代入します。

$\Delta H = 679 - 864 = -185\ \text{kJ}$

$\Delta H$ が負の値になったので、この反応は発熱反応であり、$\ce{H2}$ と $\ce{Cl2}$ が $1$ molずつ反応すると、$185$ kJ の熱が放出されることが分かります。

この証明のポイント

この証明のポイントは、実際には一瞬で起こる反応を、「いったんすべての結合を切ってばらばらの原子にし、そこから改めて生成物の結合をつくる」という、現実には起こらない仮想的な2段階の経路に分解して考えたことです。この操作が許されるのは、ヘスの法則が「反応熱は経路によらず、始めと終わりの状態だけで決まる」ことを保証しているからです。この「実際の経路ではなく、計算しやすい別の経路を考えて始状態と終状態を比較する」という発想は、ヘスの法則を使うあらゆる反応熱の計算(生成熱からの計算なども含む)に共通する、最も重要な考え方です。