公式の証明・導出

酸化還元滴定における量的関係の式の導出

関連単元: 化学基礎 酸化還元反応

証明する内容

中和滴定では、「酸が出す $\ce{H+}$ の物質量」と「塩基が出す $\ce{OH-}$ の物質量」が等しいという関係、すなわち

$(\text{酸の価数})\times(\text{酸のmol数}) = (\text{塩基の価数})\times(\text{塩基のmol数})$

を使って、濃度や体積を計算しました。酸化還元滴定でも、これと全く同じ発想の関係式が成り立ちます。すなわち、

$(\text{還元剤が失った電子のmol数}) = (\text{酸化剤が受け取った電子のmol数})$

という関係です。ここでは、この式が半反応式(電子を含むイオン反応式)からどのように出てくるのかを確認し、過マンガン酸カリウム $\ce{KMnO4}$ を使った滴定を例に、実際に計算してみます。

証明

ステップ1:酸化剤・還元剤のはたらきを電子のやり取りとして表す

酸化還元反応とは、本質的には「電子を失う変化(酸化)」と「電子を受け取る変化(還元)」が同時に起こる反応です。

  • 還元剤:相手に電子を与える(自分は酸化される)物質
  • 酸化剤:相手から電子を受け取る(自分は還元される)物質

それぞれのはたらきは、半反応式(イオン反応式に電子 $e^-$ を書き加えたもの)で表せます。たとえば、還元剤 $\ce{Fe^2+}$ は電子を1個失って $\ce{Fe^3+}$ になります。

$\ce{Fe^2+ -> Fe^3+ + e-}$

一方、酸化剤である過マンガン酸イオン $\ce{MnO4-}$ は、酸性条件下で電子を5個受け取って $\ce{Mn^2+}$ になります。

$\ce{MnO4- + 8H+ + 5e- -> Mn^2+ + 4H2O}$

ステップ2:反応の量的な条件を立てる

酸化還元反応が過不足なく進行するとき、還元剤が失った電子の総物質量と、酸化剤が受け取った電子の総物質量は、電子そのものが余ったり不足したりしないという電子の保存則から、必ず等しくなります。

$n(\text{還元剤が失う電子}) = n(\text{酸化剤が受け取る電子})$

還元剤1molあたり $z_1$ 個の電子を失い、酸化剤1molあたり $z_2$ 個の電子を受け取るとすると、還元剤の物質量を $n_1$、酸化剤の物質量を $n_2$ として、

$z_1 n_1 = z_2 n_2$

という関係式が成り立ちます。これが、酸化還元滴定における量的関係の一般形です。中和滴定の「価数×mol数」の式と比べると、「価数($z_1$、$z_2$)」の役割を「反応に関わる電子の数」が果たしていることが分かります。

ステップ3:KMnO4とFeSO4の場合にあてはめる

ステップ1の半反応式から、$\ce{Fe^2+}$ は1molあたり電子1個を失う($z_1=1$)、$\ce{MnO4-}$ は1molあたり電子5個を受け取る($z_2=5$)ことが分かります。これをステップ2の式 $z_1n_1=z_2n_2$ にあてはめると、

$1\times n(\ce{Fe^2+}) = 5\times n(\ce{MnO4-})$

$n(\ce{Fe^2+}) = 5\,n(\ce{MnO4-})$

という関係式が得られます。これは、$\ce{Fe^2+}$ が $\ce{MnO4-}$ の5倍の物質量だけ反応する、という意味です。

ステップ4:滴定の数値例で計算する

濃度未知の $\ce{FeSO4}$ 水溶液 $20.0$ mL を、酸性条件下で濃度 $0.0500$ mol/L の $\ce{KMnO4}$ 水溶液で滴定したところ、$8.00$ mL 加えたところで反応がちょうど終了した(過マンガン酸イオンの赤紫色が消えなくなった)とします。$\ce{FeSO4}$ 水溶液のモル濃度を求めます。

まず、滴下した $\ce{KMnO4}$(つまり $\ce{MnO4-}$)の物質量を求めます。

$n(\ce{MnO4-}) = 0.0500\ \text{mol/L}\times\frac{8.00}{1000}\ \text{L} = 4.00\times10^{-4}\ \text{mol}$

ステップ3の関係式 $n(\ce{Fe^2+})=5\,n(\ce{MnO4-})$ を使うと、

$n(\ce{Fe^2+}) = 5\times4.00\times10^{-4} = 2.00\times10^{-3}\ \text{mol}$

この $\ce{Fe^2+}$ が、もとの $\ce{FeSO4}$ 水溶液 $20.0$ mL($=20.0\times10^{-3}$ L)に含まれていたので、モル濃度は、

$c(\ce{FeSO4}) = \frac{2.00\times10^{-3}\ \text{mol}}{20.0\times10^{-3}\ \text{L}} = 0.100\ \text{mol/L}$

と求まります。

ステップ5:別の還元剤(シュウ酸)の場合にも同じ考え方が使える

同じ考え方は、還元剤が $\ce{Na2C2O4}$(シュウ酸ナトリウム、シュウ酸イオン $\ce{C2O4^2-}$)の場合にも通用します。このときの半反応式は、

$\ce{C2O4^2- -> 2CO2 + 2e-}$

であり、$\ce{C2O4^2-}$ 1molあたり電子2個を失います($z_1=2$)。ステップ2の式 $z_1n_1=z_2n_2$ に $z_1=2$、$z_2=5$($\ce{MnO4-}$)を代入すると、

$2\,n(\ce{C2O4^2-}) = 5\,n(\ce{MnO4-})$

という関係式になります。反応する物質の組み合わせが変わっても、「半反応式から電子の数を読み取り、電子の物質量をそろえる」という手順そのものは変わりません。

この証明のポイント

この証明のポイントは、酸化還元滴定の量的関係が、中和滴定の「価数×mol数が等しい」という関係の焼き直しになっている、ということです。中和滴定では両辺の「価数」が $\ce{H+}$・$\ce{OH-}$ の授受数を表していたのに対し、酸化還元滴定では「反応式1つあたりに授受される電子の数($z$)」が同じ役割を果たします。したがって、どんな酸化剤・還元剤の組み合わせであっても、まず半反応式を書いて「1molあたり何個の電子を授受するか」を確認しさえすれば、同じ枠組み $z_1n_1=z_2n_2$ で滴定計算ができます。