無機化学
共通テスト対策
この分野の共通テストでの傾向
「化学」は、共通テストの理科科目の中では物理・生物・地学と並ぶ発展科目(いわゆる理科②)の1つで、多くの場合、1科目単独で60分の試験時間が設けられています。出題範囲は化学基礎・化学の全体に及びますが、その中でも無機化学の分野(非金属元素・典型金属元素・遷移元素・無機物質の分析)は、大問として独立して出題されることもあれば、理論化学の大問の中に一部として組み込まれることも多く、出題の形はさまざまです。
無機化学分野に共通する最大の特徴は、単なる知識の暗記だけでは対応しにくい出題が多いことです。共通テストでは、色や沈殿の有無を丸暗記しているかを直接問うのではなく、実験の手順や観察結果を示した会話文・資料をもとに、「なぜこの反応が起こるのか」「なぜこの色になるのか」を、化学基礎・化学で学んだ酸化還元反応・化学平衡(ルシャトリエの原理)・酸と塩基・溶解度といった理論と結びつけて考えさせる形式が主流になっています。このサイトが無機化学のすべての単元で「なぜこの反応が起こるのか」を理論とセットで解説しているのは、まさにこの出題傾向に対応するためです。
また、複数の分野をまたぐ総合的な問題もよく出題されます。たとえば「未知の金属イオンを含む水溶液に、いくつかの試薬を順番に加えていったときの変化を示し、含まれるイオンを特定させる」というような、無機物質の分析の考え方を軸にしながら、遷移元素の色や沈殿の知識、酸化還元反応の理解までを総動員させる問題は、共通テストらしい出題の代表例です。グラフや表(例えば酸化還元滴定の滴下量とpHや色の変化の関係)を読み取らせる問題も頻出なので、日頃から「反応式を書いて終わり」にせず、その反応がどんな現象(色・沈殿・気体の発生)として観察されるかまでセットで押さえておくことが大切です。
単元別の対策ポイント
非金属元素
- 気体の製法・捕集法・乾燥剤は、単発の暗記事項としてではなく、「水への溶けやすさ」「空気に対する密度」「酸性・塩基性」という共通の判定基準で整理しておくと、初めて見る気体が出題されても対応できます。
- ハロゲンや酸素・硫黄の単体・化合物は、酸化数の変化(酸化力の強さの序列、SO2のように相手によって酸化剤にも還元剤にもなる例など)を必ず反応式とセットで押さえましょう。
- 工業的製法(接触法によるH2SO4、ハーバー・ボッシュ法によるNH3など)は、化学平衡(ルシャトリエの原理)や触媒の役割と結びつけて理解しておくと、条件設定の理由を問う考察問題に対応しやすくなります。
典型金属元素
- アルミニウム・亜鉛・スズ・鉛などの両性金属は、酸にも強塩基にも溶けるという性質を、それぞれの反応式(酸性条件・塩基性条件)とセットで書けるようにしておきましょう。
- アルカリ金属・アルカリ土類金属は、炎色反応の色や、水との反応性の違い(反応の激しさの順序)を、周期表上の位置やイオン化傾向と関連づけて整理しておくと定着しやすくなります。
- 両性水酸化物が過剰の強塩基に溶けて錯イオン(ヒドロキシド錯イオン)をつくる反応は、遷移元素の単元で学ぶアンミン錯イオンの考え方と本質的に同じであることを意識しておくと、複合問題にも対応できます。
遷移元素
- 鉄・銅・銀のように複数の酸化数をとる元素は、色の変化を必ず「酸化数がいくつからいくつに変わったか」という酸化還元の視点で説明できるようにしておきましょう。
- クロム酸イオンと二クロム酸イオンの平衡、KMnO4やK2Cr2O7を用いた酸化還元滴定は、計算問題としても、平衡移動を説明する論述・選択問題としても頻出です。半反応式(電子の数)を正確に書けるようにしておくことが得点の鍵になります。
- 錯イオンについては、配位数・配位子の名称・化学式の組み立て方を確認しておくとともに、「沈殿が過剰の試薬に溶けるかどうか」を錯イオン形成の有無から説明できるようにしておきましょう。
無機物質の分析
- 気体発生・陽イオンの分離・陰イオンの検出はいずれも独立した知識ではなく、共通テストでは「未知試料の正体を推理する」形式の総合問題として出題されやすい分野です。
- 陽イオンの系統分離のフローチャートは、丸暗記ではなく「なぜこの試薬でこのイオンだけが沈殿するのか」(溶解度積、pHによるS2-濃度の変化、錯イオン形成の有無)を説明できる状態にしておきましょう。
- 白色沈殿どうしの見分け方(酸を加えて溶けるかどうか)のように、似た見た目の物質を区別する実験操作の意味を、理由つきで説明できるようにしておくと安心です。
実戦問題
共通テスト形式の問題を解いて、実戦力を確認してみましょう。
実戦問題1
問題
ある白色沈殿Xを2つの試験管に分けた。一方に希塩酸を加えると変化は見られなかったが、もう一方に希塩酸を加えると、気体を発生しながら沈殿が溶けた。後者の沈殿の正体として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① $\ce{AgCl}$ ② $\ce{BaSO4}$ ③ $\ce{CaCO3}$ ④ $\ce{AgBr}$
解答・解説を見る
希塩酸を加えると気体を発生しながら溶ける白色沈殿は、弱酸である炭酸の塩、すなわち炭酸カルシウムです。
$\ce{CaCO3 + 2HCl -> CaCl2 + H2O + CO2 ^}$
強酸である塩酸が、弱酸である炭酸を炭酸カルシウムから追い出し、生じた不安定な炭酸がただちにCO2とH2Oに分解するために気体が発生します。AgClやBaSO4は酸にも溶けにくく変化しません(AgBrは白色ではなく淡黄色の沈殿です)。
答え:③
実戦問題2
問題
クロム酸カリウム水溶液(黄色)に十分な量の希硫酸を加えると、溶液の色は赤橙色に変化した。この変化を説明したものとして最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① H+が減少し、平衡がクロム酸イオン側に移動したため ② H+が増加し、平衡が二クロム酸イオン側に移動したため ③ クロムの酸化数が上昇する酸化反応が起こったため ④ クロムの酸化数が減少する還元反応が起こったため
解答・解説を見る
クロム酸イオンと二クロム酸イオンの間には、次の平衡が成り立っています。
$\ce{2CrO4^2- + 2H+ <=> Cr2O7^2- + H2O}$
希硫酸を加えるとH+の濃度が増加し、ルシャトリエの原理により、H+が消費される右辺(二クロム酸イオン側)に平衡が移動します。その結果、黄色のクロム酸イオンが減少し、赤橙色の二クロム酸イオンが増加します。この変化はクロムの酸化数(いずれも+6)が変わらない、平衡移動による現象であり、酸化還元反応ではありません。
答え:②
実戦問題3
問題
濃度不明の過酸化水素水20.0 mLを希硫酸で酸性にしたのち、0.0500 mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところ、10.0 mL加えたところで溶液がわずかに赤紫色に色づいて終点となった。もとの過酸化水素水のモル濃度として最も適当な数値を、次の①~④のうちから一つ選べ。ただし、酸性条件でMnO4−は5個、H2O2は2個の電子をやり取りするものとする。
① $0.0125\ \mathrm{mol/L}$ ② $0.0250\ \mathrm{mol/L}$ ③ $0.0625\ \mathrm{mol/L}$ ④ $0.125\ \mathrm{mol/L}$
解答・解説を見る
滴定に用いたKMnO4の物質量は、
$n(\ce{KMnO4}) = 0.0500\times\frac{10.0}{1000} = 5.00\times 10^{-4}\ \mathrm{mol}$
酸化剤が受け取る電子の物質量と、還元剤が失う電子の物質量が等しいことから、
$n(\ce{H2O2})\times 2 = n(\ce{KMnO4})\times 5$
$n(\ce{H2O2}) = \frac{5\times 5.00\times 10^{-4}}{2} = 1.25\times 10^{-3}\ \mathrm{mol}$
もとの過酸化水素水の濃度は、
$\frac{1.25\times 10^{-3}}{20.0/1000} = 0.0625\ \mathrm{mol/L}$
答え:③