有機化学
共通テスト対策
この分野の共通テストでの傾向
共通テストの「化学」において、有機化学は理論化学・無機化学と並ぶ大きな出題範囲であり、大問1つがまるごと有機化学にあてられることも珍しくありません。単純な知識の暗記だけでなく、与えられたいくつかの実験結果や条件(手がかり)を組み合わせて、化合物の構造を論理的に絞り込んでいく力が試されるのが最大の特徴です。
出題の典型的な形式は、ある未知の化合物(またはいくつかの化合物からなる混合物)について、分子式や質量パーセント組成、いくつかの検出反応の結果(陽性・陰性)、反応による生成物の情報などが順番に与えられ、それらをすべて満たす構造式を答えさせる、多段階の構造決定問題です。1つの手がかりだけでは構造は決まらず、複数の手がかりを組み合わせて初めて答えにたどり着けるように作られているため、「どの手がかりが、何を教えてくれているのか」を1つずつ整理しながら読み進める姿勢が欠かせません。
また、脂肪族化合物・芳香族化合物・高分子化合物のすべての分野から、横断的に知識を問う問題も多く出題されます。たとえば、芳香族化合物の酸性・塩基性の強さの比較や、糖類・アミノ酸の構造と反応性など、単元をまたいだ理解が求められる場面が少なくありません。計算問題としては、元素分析からの分子式決定、中和や酸化還元の量的関係、高分子の重合度や分子量の計算なども頻出です。
時間配分としては、有機化学の構造決定問題は文章量・情報量が多く、じっくり読まないと手がかりを読み落としがちです。焦って早合点せず、与えられた条件を1つずつ図や式に書き出しながら整理する解き方を、日頃の学習から練習しておきましょう。
単元別の対策ポイント
炭化水素
- アルカン・アルケン・アルキンの分子式の一般式($\ce{C_nH_{2n+2}}$、$\ce{C_nH_{2n}}$、$\ce{C_nH_{2n-2}}$)と、それぞれの代表的な反応(置換反応・付加反応)の対応を整理しておきましょう。
- 不飽和度の考え方は、この単元で身につけた「二重結合・三重結合・環の数」の感覚が、後の構造決定問題全体の土台になります。
- 臭素水や過マンガン酸カリウム水溶液を使った不飽和結合の検出反応は、色の変化(脱色するかどうか)とセットで覚えておきましょう。
官能基を持つ脂肪族化合物
- アルコール・アルデヒド・ケトン・カルボン酸・エステルのそれぞれについて、代表的な検出反応(銀鏡反応、フェーリング液の還元、ヨードホルム反応、ナトリウムとの反応など)を、「どの官能基(構造)に反応するのか」という観点で整理しておきましょう。
- 第一級・第二級・第三級アルコールの酸化のされ方の違い(第一級→アルデヒド→カルボン酸、第二級→ケトン、第三級→酸化されにくい)は頻出です。
- エステルの構造から、加水分解(けん化)によって生じるカルボン酸とアルコールを逆算する練習をしておきましょう。
芳香族化合物
- ベンゼン環が付加反応より置換反応を起こしやすい理由(共鳴による安定化)を、単なる暗記でなく理屈として説明できるようにしておきましょう。
- フェノール類の酸性の強さ(炭酸より弱い)、アニリンの塩基性の強さ(アンモニアより弱い)を、電子の非局在化という共通の考え方で結びつけて理解しておくと、応用問題にも対応しやすくなります。
- 酸塩基抽出による分離操作は、「どの試薬を、どの順番で加えるか」という手順そのものが問われやすいので、フローチャートとして頭に入れておきましょう。
高分子化合物
- 糖類の還元性の有無は、グリコシド結合が還元性を生み出す炭素をふさいでいるかどうかで判断する考え方を身につけておきましょう。
- アミノ酸の電離状態(等電点との関係)、タンパク質の検出反応(ビウレット反応・キサントプロテイン反応)が、それぞれ何を検出しているのかを正確に対応づけておきましょう。
- 合成高分子は、モノマーの構造(二重結合か、2つの官能基か)から付加重合・縮合重合のどちらが起こるかを判断し、代表的なモノマーとポリマーの組み合わせ(ナイロン66、PETなど)を覚えておきましょう。
構造決定
- 元素分析のデータ(質量%や燃焼生成物の質量)から、組成式・分子式を求める計算手順を、迷わず一通りできるようにしておきましょう。
- 不飽和度の計算は、構造決定問題を解くときの最初の絞り込みとして必ず使います。分子式が与えられたら反射的に計算する習慣をつけましょう。
- 複数の検出反応の結果を、表などに整理しながら、消去法で構造を1つずつ絞り込んでいく練習を積んでおきましょう。
実戦問題
共通テスト形式の問題を解いて、実戦力を確認してみましょう。
実戦問題1
問題
ベンゼンに関する記述として誤っているものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① ベンゼンの6個の炭素原子は正六角形の頂点に位置し、すべてのC-C結合の長さは等しい。 ② ベンゼン環は付加反応よりも置換反応を起こしやすい。 ③ ベンゼンに濃硫酸と濃硝酸の混合物(混酸)を反応させると、置換反応によりニトロベンゼンが生成する。 ④ ベンゼンは分子内に3個の独立した二重結合をもつため、臭素水を速やかに脱色する。
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①・②は、ベンゼン環の $\pi$ 電子が非局在化していることに関する正しい記述である。③も、混酸によるニトロ化(置換反応)の記述として正しい。
④については、ベンゼン環の $\pi$ 電子は非局在化しており、独立した3個の二重結合として固定されているわけではない。この非局在化による安定化(共鳴エネルギー)のため、ベンゼンは通常の条件では臭素水とほとんど反応せず、脱色しない。この点で④は誤りである。
答え:④
実戦問題2
問題
サリチル酸 13.8gを無水酢酸と反応させて、アセチルサリチル酸(アスピリン)を合成した。理論上得られるアスピリンの質量は何gか。最も適当な数値を、次の①~④のうちから一つ選べ。原子量は $\mathrm{H=1.0,\ C=12,\ O=16}$ とする。
① 9.0g ② 13.8g ③ 18.0g ④ 23.0g
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サリチル酸 $\ce{C7H6O3}$ の分子量は $12\times7+1.0\times6+16\times3=84+6+48=138$。
$13.8\ \mathrm{g}\div138\ \mathrm{g/mol} = 0.100\ \mathrm{mol}$
サリチル酸と無水酢酸の反応では、ヒドロキシ基がアセチル化されてアスピリンが生成する。
$\ce{C6H4(OH)(COOH) + (CH3CO)2O -> C6H4(OCOCH3)(COOH) + CH3COOH}$
この反応は1:1の物質量比で進むので、サリチル酸0.100molからは、アスピリン(アセチルサリチル酸 $\ce{C9H8O4}$、分子量 $12\times9+1.0\times8+16\times4=108+8+64=180$)が0.100mol生成する。
$0.100\ \mathrm{mol}\times180\ \mathrm{g/mol} = 18.0\ \mathrm{g}$
答え:③
実戦問題3
問題
分子式 $\ce{C4H10O}$ で表される化合物Xについて、次の実験結果が得られた。
・Xは金属ナトリウムと反応し、水素を発生した。 ・Xはヨードホルム反応を示さなかった。 ・Xを硫酸酸性の二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると、カルボン酸が得られた。
Xの構造として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① $\ce{CH3-CH2-CH2-CH2-OH}$(1-ブタノール) ② $\ce{CH3-CH(OH)-CH2-CH3}$(2-ブタノール) ③ $\ce{(CH3)3C-OH}$(2-メチル-2-プロパノール) ④ $\ce{CH3-CH2-O-CH2-CH3}$(ジエチルエーテル)
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金属ナトリウムと反応して水素を発生したことから、Xはヒドロキシ基をもつアルコールであるとわかる(エーテルはナトリウムと反応しないため、④は除外される)。
ヨードホルム反応を示さなかったことから、Xは $\ce{CH3-CH(OH)-}$ の構造をもたないとわかる。②の2-ブタノールはこの構造をもちヨードホルム反応を示すはずなので、②は除外される。
硫酸酸性の二クロム酸カリウム水溶液で酸化するとカルボン酸が得られたことから、Xは第一級アルコールであるとわかる(第二級アルコールはケトンに、第三級アルコールは通常酸化されないため)。③の2-メチル-2-プロパノールは第三級アルコールであり酸化されないので、③は除外される。
残った①の1-ブタノールは、第一級アルコールでありヨードホルム反応も示さない(炭素骨格に $\ce{CH3-CH(OH)-}$ の構造がない)ため、すべての条件と一致する。
答え:①